奈良公園の鹿は有名だが、過半数がメスだという噂がある。本当だろうか?

奈良の中心部、奈良公園に住む鹿を知らぬ人はいまい。まさに奈良の代名詞とも言える奈良公園の鹿だが、ほとんどの個体がメスだということをご存じだろうか? 更に鹿は全て天然記念物。野生なのである。今回はそんな知られざる奈良鹿について、現地からレポートしたい。

メスの数はオスの3倍以上!?

まずは奈良公園の鹿、メスの数がオスの3倍も多いという噂(うわさ)の真相を探る。もし本当なら奈良公園のオス鹿はハーレム状態ではないのか? 「ええ。確かにオス鹿の数は少ないです」。あっさりその事実を認めてくれたのは、「奈良の鹿愛護会」の獣医師・吉岡豊さんだ。

同会は奈良公園の鹿の負傷救助やパトロールからオス鹿の角切りまでを行う団体で、奈良公園の鹿のことなら何でも知っているエキスパート集団といっていい。「2013年7月現在、1,094頭の鹿が奈良公園に生息しています。その内訳はオス210頭、メス736頭、子鹿が148頭。確かにオスとメスの数は3倍以上の開きがありますね」。

ただし、吉岡さんによれば、メスの中にまだ角の生えてないオス鹿も100頭くらいは紛れているそうだから、実際は300頭と600頭の差と いうことか。しかし、それでも既に2倍の差があるぞ!

どうしてオスだけが少ないのだろうか?

「実は、生まれてくる時はオスとメスの比率は1対1なんです。ではなぜオスだけが少ないか? それは個体の寿命が短いからなんですよ」。簡潔すぎる回答である。吉岡さんは続ける。「人間だってそうでしょ? おばあちゃんの方が長生きしますよね。 要するに個体としてはメスの方が長生きするんですよ。人間社会と同じですね。それに交通事故で死ぬのもオス鹿が多いですし」。

ならば、単にメスの数が多いってだけで、雄鹿にとってのハーレム状態ってわけじゃないってことですか? 「いや、鹿は一夫多妻制なので、実際ハーレムといえばハーレムなんですよ。強いオス鹿は1頭で10頭くらいのメス鹿を囲ってますからね」と吉岡さん。

鹿の世界でも、イケメンとブサメンのヒエラルキーは強大だという。巨大ハーレムをめぐって強いオス鹿同士はケンカし、時に大きく政権交代する時もある。また、ボスのいぬ間の「間男」的なオス鹿もいたりと、いろいろな人間模様ならぬ鹿模様があるのだそう。一見、人間社会と同じように思える。

9月から11月限定のハーレム

しかし、人間社会と鹿の社会が決定的に違うのは、そうしたハーレム状態が「9月から11月の繁殖期に限られている」ということだ。そもそも鹿は、このわずか3カ月という短い繁殖期以外は、むしろオス同士、メス同士の性別に分かれたグループで行動するそうで、ハーレムは秋だけの情景なのだという。

「そうです。繁殖期を過ぎるとオスは一気におとなしくなるのが面白いんです。そしてメスの方も、オスに何の興味も示さなくなるんですよ。交尾が終わったらオスは用済みってことですわ、ハッハッハ」。豪快に笑う吉岡さんであった。

鹿たちの「泊まり場」は公道

さてこの鹿の群れ。一日が実に規則正しい。日の出とともに「出社」し、採食場(草のある場所や人間がせんべいをくれる場所)に速やかに移動して観光客に愛想をふりまく。そして夕方の「退社時間」になると、その群れ固有の「泊まり場」にさっさと移動するのだという。ちなみにその泊まり場とは、我々人間の使っている公道。それゆえ年間100頭もが交通事故で命を落としているのだ。

おいおいそこは公道だぞ。年間約100頭が交通事故で命を落としているというが

また、奈良公園はいたるところに鹿のコロンと丸いフンが落ちているのだが、実はこのフン、コガネムシなどの糞虫(ふんちゅう)が丸い形をバラバラにし、それをミミズやバクテリアが分解し、あの美しい奈良公園の芝草のこやしになる。

そして、うまい草をまた鹿が食べる。一見人工的な管理体制が敷かれているかのような奈良公園だが、そこにはダイナミックな自然の循環が成り立っているのだ。

緑豊かな奈良公園。すべての生命が自然の摂理に従って循環しているのだ

こんなトリビアがあふれている奈良公園。少し視点を変えて訪れてみてほしい。新しい発見がたくさんあるに違いない。