女性のすっぴん、どう思う?

アイドルや女優など芸能人たちが、こぞって"すっぴん公開"と題した投稿を、ブログなどでしています。テレビやグラビアなどで見せる完璧な化粧の顔ではなく、素顔の写真を投稿しているわけです。そんな、"すっぴん写真"をみたファンや男性からは、「可愛(かわい)くて好き」という声が聞かれます。

男性はなぜか女性の素顔を見たがり、女性は素顔を隠そうとします。この素顔をめぐる男女の攻防は、なぜおこるのでしょうか。化粧心理学者の平松隆円さんに解説してもらいます。

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男性と女性を、わけて考えてみたいと思います。

男性が"見たい"のはなぜか

男性の立場からすれば、ある女性と初めて会ったときから、その女性は化粧をしているわけですよね。よく化粧が「化けてるんでしょ」といわれるように、Youtubeなどで化粧によって劇的に女性の顔が変わる映像を見ている男性からすれば、「化粧をした顔にだまされている」「本当は美人じゃない」という不信がつきまとっているわけです。

これはある意味、日本人の天然志向かもしれませんね。お刺身でも天然物がいい、何も手を加えていないものがいいという考え方。これが強くでているのだと思います。だから、素顔を見て確かめたいわけです。これは天然物の美しさなんだと。

もちろん、女性は男性に会うときはたいてい化粧をしているわけですから、なかなか見られない素顔を見てみたいという心理もあります。『鶴の恩返し』などの昔話で「見るな」と言われるほど見たくなる心理ですよね。

見られないものだからこそ、それが見られたとき、それもまた魅力へとつながっていくわけです。多くの芸能人たちは、「素顔風メーク」だったり、ライティングで加工した写真を掲載していますが、なかにはお世辞にもかわいくない素顔の写真の女性もいます。

ですが、それでもかわいいという評価を受けるのは、普段見ることができない顔だからでしょう。これがもし結婚して、日常的に素顔が見れらるようになったら、化粧くらいしろと言われると思います。

女性が"見せたくない"のはどうして?

女性が素顔を見せたくないのは、必ずしも素顔が不細工だからとか、自信がないからというだけではありません。そこには、印象管理という問題が存在します。私たちは、1日の生活のなかでも、母、娘、学生、社員、友人、恋人……と様々な役割を演じています。

たとえば、彼氏の前では露出の高い服装をしていても、親の前ではしませんよね。それは、舞台で役にあわせた衣装があるように、私たちも役割つまりアイデンティティに合わせて、服や化粧を選んでいるからです。親には親に見せる自分、彼氏には彼氏に見せる自分があります。それを間違うと恥ずかしく感じます。親と一緒のところを友達に遭遇すると恥ずかしいのと同じです。

女性の化粧はいわば、その男性にあわせた自分を見せるために存在しています。 付き合う男性によってファッションが変わる女性がいますが、これは男性にあわせて印象を管理していることのあらわれです。だから、素顔になるということはその役割を放棄するということ。それはやっぱり、恥ずかしいことなんです。それはけっして、だますということではなく、自分という人間の見せ方の一つなんです。

著者プロフィール

平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。国際日本文化研究センター講師や京都大学中核機関研究員などを経て、現在はタイ国立チュラロンコーン大学講師。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。よそおいに関する研究で日本文化を解き明かしている。NTV『所さんの目がテン! 』、CX『めざましどようび』、NHK『極める 中越典子の京美人学』など番組出演も多数。主著『化粧にみる日本文化』(水曜社)は関西大学入試問題に採用されるなど、研究者以外にも反響を呼んだ。ほかに『黒髪と美女の日本史』(水曜社)など。