2000年のプレ大会に始まり、正式な大会としては2013年で第13回を迎える、通称レスコンこと「レスキューロボットコンテスト」(画像1)。これまで、神戸で開催されてきたこともあり、首都圏など東日本からはなかなか観に行くのが難しい大会であったが、第13回からは予選に関しては東京大会が実施されることとなり、それがいよいよ7月7日(日)に迫った。会場は、下町は浅草の浅草寺に近い東京都立産業貿易センター台東館(画像2)の7階である。

画像1。第13回レスキューロボットコンテストのポスター。マスコットキャラクターの女の子が描かれた、意外とかわいい内容が特徴

画像2。東京都立産業貿易センター台東館の外見(公式Webサイトより抜粋)

弊誌でもこれまで姉妹大会であるヒト型レスキューロボットコンテスト(画像3)を2回ほどレポートしたことがあるが(2012年の記事はこちら、レスコンそのものはまだ取り上げたことがない。そこで、第13回レスコンの副実行委員長の1人である広島工業大学 工学部 機械システム工学科および大学院工学系研究科 機械システム工学専攻の宗澤良臣准教授(画像4)に話を伺う機会も得られたので、レスコンとはどんな大会なのかを紹介したいと思う。大がかりなフィールドを使用するレスコンの魅力を感じていただけたら、入場料は無料なので、ぜひ当日は会場に足を運んでいただきたい。

画像3。ヒト型レスキューロボットコンテストの様子。ロボットが助けに来てくれるようになれば、安心なのは事実

画像4。広島工業大学の宗澤良臣准教授

そもそもレスコンがなぜ神戸を本拠地として開催されているかというと、1995年に起きた阪神・淡路大震災をきっかけとしているからだ。今でこそ震災といえば、2011年3月に起きた東日本大震災を思い浮かべる人も多いだろうが、阪神・淡路大震災も近年の日本を襲った震災としては被害規模が大きく、実に6000名を超える方が亡くなった。

ただし、阪神・淡路大震災は20年近い年月が経過したこともあり、震災以後に生まれた世代もだいぶ増え、印象がやや薄らいでしまった感はあるが、日本に大きな傷跡を残し、さまざまな教訓を残した震災だったのである。

それはロボット業界も例外ではなく、大学の研究者らの手によって、震災を忘れてはならないという啓発に加え、そして将来的には震災が発生した際に人命救助などを行えるロボットやそれを実現するための各種技術、オペレーションに関するノウハウなどを開発すること、そうした研究者や技術者などの人材育成を目的として始められたのが、レスコンだったというわけだ。

レスコンは競技会としては、全日本ロボット相撲大会(2013年は第25回)、かわさきロボット競技大会(2013年は第20回)、ロボカップ(2013年はジャパンオープンが第14回、世界大会が第17回)などにはおよばないものの、2002年に第1回が行われたROBO-ONE(ROBO-ONEは基本、年に2回開催なので、次回が2013年9月の第23回)や同じく2002年スタートのETロボコン(2013年は第12回)とほぼ同等の歴史のあるロボット競技会である。

ただし、前述したロボット競技会が全国規模で地区予選を開催していたり、本選や本大会を首都圏にて開催していたりすることが多いのに対し、レスコンは神戸開催ということもあって、どうしても印象が薄い感があったのも事実。関西圏であるため、東日本からは参加はもちろんのこと、見学も宿泊前提で行かないとかなりの強行日程となる地域のため、おいそれと足を運べないし、取り上げるメディアも関西中心になってしまうというわけである。ただし、再三いうようだが、コンテストとしてはかなり大がかりなものなのは間違いない。

また内容については、まったく知らない人でも名称からおおよその見当はつくことだろう。単純明快にいえば、1~複数台(ロボットベースに待機可能であれば何台でも可能で、重量制限などはなし)のロボットを用いて、救助活動を行うというものだ(画像5~10は第12回の様子。、公式Webサイトより抜粋)。

競技は大地震により建物が倒壊した市街地を6分の1スケールで模擬した9m×9mのフィールドを舞台とし、「ダミヤン」ことレスキューダミー(加速度センサ・圧力センサなどが埋め込まれている要救助者を模した人形)が予選は2体、本選は3体フィールド上にガレキに囲まれて設置されているので、それを実際にヒトを扱うように「やさしく」救出し、所定のフィールドまで運び出すというものである(センサを使用するのは本選のみ、予選は審査員の目視による判断)。

制限時間は予選が8分、本選が12分だ。また、ロボットの操縦は目視では行わず、カメラを通してコントロールルームで遠隔操縦するのも特徴だ(予選は目視もOK)。本選では、ヘリからの撮影を想定したヘリテレカメラからの俯瞰映像でフィールドの状況を判断して救出作戦を練るルールになっており、実戦を想定したところも多い。

画像7。情報収集用の飛行ロボットが現実にも活躍しているが、レスコンにも飛行型ロボットが登場(「とくふぁい!」)

画像8。「救命ゴリラ!!」のメンバーがコントロールルームから操縦している様子

画像9。レスキューダミーのダミヤン。人形だからと粗雑に扱うと、センサでわかり、減点されてしまう

画像10。競技会場のイメージ。かなり大がかりなのがわかる

個人では参加できず、最低でも数名でチームを組んで競技に挑むことになる。役割としては、統括役のキャプテン、アピール担当のスピーカー、ロボット・ヘリテレカメラの操作担当のオペレータ、リスタート時におけるロボットの運搬担当であるヘルパー、機器管理担当のレスコンボード管理、相手チームと連絡を取り合うコントロールルーム間通信者などで、最大10名まで登録可能である。

競技は2チームずつ行われるが、相手チームを妨害するような行為はしてはいけない。レスキューという行為にまったく反するものなので、相手チームの妨害は、過失であっても反則行為となる(場合によっては退場や失格などもある)。相手チームは通信を行えるようになっていることからもわかるように、負かす相手というよりは同じレスキューの仲間であり、切磋琢磨し合う関係なのだ。つまるところ、競技のスタイルとしては、相手チームと勝負するというよりも、自分たちとの闘いという内容なのである。

競技の優劣は、その救出活動において、作業に要した時間、救助活動の達成具合、ダミヤンに加えた衝撃の少なさ、および審査員評価などから得点が決定され、予選→本選(ファーストミッションとセカンドミッションがある)→本選のファイナルミッションとチーム数が絞られていく。さらに詳しくいうと、予選前に書類審査もあり、第12回のレスキュー工学大賞を受賞した「なだよりあいをこめて」(神戸市立科学技術高校 科学技術研究会)と、ベストパフォーマンス賞を受けた「がんばろうKOBE」(神戸市立高専)の書類審査の内の1ページが、画像11と12だ。

画像11。なだよりあいをこめての審査用書類の1ページ、ロボット「STK-I」のコンセプト

画像12。がんばろうKOBEの審査用書類の1ページ、ロボット「GK-01 Klein」のコンセプト

そして、ファイナルミッションまで進出したチームの内で、コンセプト、技術力、組織力のすべてが総合評価され、なおかつ単に総合ポイントが高いだけではなく、チーム全体、メンバー各人がレスキュー活動であることをきちんと認識しているかどうかなども加えて、レスコンで最も意義のある「レスキュー工学大賞」が選出されるのである(総合ポイントが1位だから選出されるというわけではない)。要は、「自分たちはレスキュー隊員であり、ロボットのコンセプト作りからすでにレスキュー活動は始まっている」ということを理解して実践できているかどうかが重要なのである。なお各段階での評価は、書類審査では主にコンセプトが、予選では主に技術力が評価される。そして本選のファーストミッションではコンセプト、技術力、組織力が総合評価され、またその終了後のヒヤリング調査では主に技術力と組織力が評価されるという具合だ。

そのほかの賞としては、inrevium杯、ベストパフォーマンス賞(総合ポイントが最高得点のチームに与えられる)、ベストチームワーク賞(レスキュー活動の模範となるチームに与えられる)、ベストテレオペレーション賞(遠隔操縦技術や遠隔操作システムの優れたチームに与えられる)、ベストロボット賞(移動および救助機構、遠隔操縦システムなどに優れたロボットに与えられる)などがある。

ちなみに、第13回の状況などはどうなっているかというと、26チーム(神戸予選参加20チーム、東京予選参加6チーム)がエントリーし、全チームが書類審査を通過した(画像11・12)。そして予選は本拠の神戸と、2013年初開催となる東京の2箇所で行われ、合計14チームが選抜されて本選に参加可能となる。神戸予選は6月30日に神戸サンボーホールにて開催済みで、神戸のポイント獲得枠(得点の高い順)5チームはすでに決定。そしてそれとは別に主催者枠で2チーム、特別協賛枠で1チームがすでに選出されており、東京のポイント枠は3チームとなる。残りの3チームはチャレンジ枠として、東京予選終了後、両予選に参加してまだ本選進出が決定していない残りのチームの中から選ばれる形だ。

第13回の本選は8月10日(土)・11日(日)に予選と同じ神戸サンボーホールで行われる。競技の流れとしては、まず全チーム参加のファーストミッションが行われ、そこから上位5チームがファイナルミッションに進出。そして残りの9チームはセカンドミッションに回り、そこから上位3チームがファイナルミッションに進出する仕組みだ。なお、レスキュー工学大賞はファーストミッションにてファイナルミッションに進出した5チームから選ばれることになるのである。以上がレスコンの主だった内容だ。

さて、ここからは筆者の個人的な疑問点や思っていることなどについて触れさせていただく。個人的にはだいぶ前から大会そのものは知ってはいたので、ずっと見たいとは思っていた。しかし、どうしても地理的な問題もあって、なかなか観覧する機会がなかったので、もっと大会としての知名度や参加者を増やすためにも、首都圏で開催してほしいと思っていたのである(「阪神・淡路大震災を忘れない」ということもあって神戸が会場であることは十分理解している)。

これに関しては、やはり大会を開催するための主催者サイドで用意する設備などが多いため、予算面からなかなか難しかった、というのが1つだという(在京キー局によるTV放映などがつけば可能かも知れない)。また、実行委員会のメンバーも大学の教授職などをしつつの運営となるため、時間的にも労力的にも厳しかったというのもある(実行委員のメンバーは使命感を持って手弁当でやっている)。それに加え、やはり東日本には指導者(実行委員会に加わるようなレスコンのコンセプトなどを理解している教育者)がこれまでは少なかったというのもあるようだ。

しかし、東京エレクトロン デバイス(本社は横浜)のようなスポンサーを獲得し、実行委員会でも以前から東日本のチームにもっと参加してもらいたい(過去に東日本のチームが参加したことはあるが、ここ数年は関東より以北のチームはいない状態が続いていた)という思いがあり、遂に第13回で東京予選大会が実現したというわけだ。

これだと、関東地区はもちろんのこと、東北、甲信越、東海などの地区でも関東と隣接している地域なら、日帰りで予選に参加することがそれほど難しくないし、予選を突破して神戸に足を運ぶと時も、2泊3日で済むというわけだ(これまで同様に予選も神戸で行われた場合は、予選の際に1泊2日+本選の際に2泊3日+神戸までの往復×2回(予選と本選)となる)。また、移籍や異動などで東日本の大学などに移った教育者もまだ少ないが出てきているようで、レスコンの啓発も進んでいきそうな気配だという。

それから、レスコンの参加の難しさに、「予選・本選とそっくり同じ形で練習ができない」という点がある。フィールドそのものが大がかりだし、ヘリテレカメラやダミヤンなどもあって、なかなかそっくりそのままの環境で練習するというのは難しい。となると、一部はイメージトレーニングも含めて、なんとか創意工夫して似ているような環境を構築する、さらにはぶっつけ本番、というのが現実的なところだろう。

よって、今回の東京予選を見学するだけでもかなりの情報を収集できると思われ、参加を考えつつも、今年は参加を見送ったチームには、ぜひとも見学をしてもらいたいところだ。あとは、やはり横のつながりを大事にするということで(西日本のチームは情報交換などをしているという)、合同練習や情報交換の場なども重要なはずである。

あと、これは個人的な気持ちとしては、東日本大震災により、関東圏でも少なからず被害が出たわけで(震源に近い地域はかなりの被害が出た)、実際にそうした被害を体験したり、テレビで映像を見たりした子どもたちの中には、こんな時は大きなロボットが来て、ひょいひょいっとガレキを撤去したり、けが人を救助してくれたり、壊れた部分を直してくれたりしたらいいのに、と思った人もいたことだろう。まして、東北地方で実際に被災した子どもたちなら、なおさら切に願ったのではないだろうか。

そうした、「ロボットによるレスキュー活動」を「自分が実現する」と考えた東日本の子どもたちや若者たちに対しても、今後引き続き東京予選が開催されることで、レスコンがそうしたアイディアを披露したり技術を開発したりするための受け皿となってくれたりすることを願ってやまない。第13回はまだ東京予選の1回目ということで、それほどチーム数が多くないが、第14回、第15回…と継続して、ぜひそうした存在になっていってほしいところである。

日本にとって地質的な構造の問題で地震は切っても切れない存在だ。そのほかにも地震と関連する火山の噴火や、台風などによる大雨など、さまざまな災害が発生し得るのが日本である。それらによって大規模な災害が発生した際のレスキューシステムというのは、今後も継続して開発し、より確実性の高いもの、より多くの被災者を助けられるものにする必要があるはずだ(いつ来るかわからないものに、どれだけの開発費と維持費をかけるか、という頭の痛いところもあるが)。レスコンは、高校、高専、大学などの学生が主な参加者であり、すぐにここでのアイディアなどが具体的に災害対応ロボットの開発に活かされるというわけではないが、人材を養成する場としては非常に有用だと思われる。関東にも東北にも北海道にも工業系の学校や、ロボット学科のある大学などもあるので、そうした学校の学生や先生たちにはぜひ注目してもらいたいところである。

ちなみに7月7日の当日は、予選だけでなく、神戸大学の高森年名誉教授による「レスキューロボットUMRS」(画像13)や、大阪府立大学高専の土井智晴准教授による「レスキューベストの開発」という講演や、子どもたちが参加できる「レスコンシーズジャンボリー in TOKYO ミニレスコン」(画像14)、ロボット体験教室、レスコンワークショップなども開催される。親子で参加できるので、ぜひ気楽に足を運んでもらいたい。

画像13。レスキューロボットのUMRS(Utility Mobile Robot for Search)2010。青い2009もある

画像14。ミニレスコンのフィールド。スカイツリー、隅田川(橋は言問橋と吾妻橋?)、雷門、仲見世、浅草寺、首都高6号線(倒壊)が見て取れる