近年、人口減少や働き方改革が叫ばれている中、そうした課題に貢献するテクノロジーとしてロボットによる生産工程の自動化が注目を集めている。そうした中、三菱電機は2022年よりFAシステム事業のグローバルスローガンとして「Automating the World」を策定。オートメーション(自動化)技術の活用による社会課題解決への貢献を目指している。

自動化技術を長年にわたって培ってきた同社が、ロボット開発の現状や自動化推進の課題感、今後についてどう考えているかなどについて、同社でロボット事業に携わる同社機器事業部 ロボット・センサ部の武原純二氏と同戦略企画グループの菅原陸氏の二人に話を聞いた。

  • 左から武原氏、菅原氏

    左から武原氏、菅原氏

現在のロボット業界の課題

技術開発が進みロボットができることも増え、適用分野も広がっってきている近年。三菱電機でも、作業を高速かつ高精度に行う産業用ロボットのほか、安全柵を使わずに人と一緒に作業できる協働ロボットなど、それらの周辺機器も含めさまざまなロボット製品を展開している。しかし、自動化が進んでいる企業の多くが大企業であり、業界全体として自動化を推進するにはまだまだ障壁があるという。

  • マスクを取ってくれる協働ロボット

    奥の方からマスクを取ってくれる協働ロボット。アルコール噴射や検温サポートもしてくれる

ではどういった点が障壁となっているのだろうか?。武原氏は、ロボット業界が直面する共通課題として「ロボットのティーチング作業が難しい点」を挙げる。

例えば、人間が同じところに同じものを置く作業を行う際、最終着地点を教えてもらえれば、ものを取る位置や運ぶ位置が少しずれていたとしても、最終的には同じところに感覚で置くことが出来る。しかし、ロボットの場合は、その手順を緻密に教え込む作業が必要であり、いくらロボット側の技術が進化したとしても、それを使いこなせる人材がいなければ宝の持ち腐れになってしまうのだ。

また、専門の技術者によりティーチング作業が完了したとしても、実際にロボットが現場で稼働し始めた後に不具合が起きた場合、必ずしも技術者がその場に常にいるわけではないため、改善までのロスタイムが生じることとなる。ロボット導入を行い生産ラインの省人化が一時的に行えても、長い目で見ると、動作変更なども含めたティーチングの手間が導入の障壁となっていることも少なくはないのだという。

三菱電機が考えるロボット開発の目指すところ

しかし、同社のようなロボットを開発する側としては、必ずしも操作の「簡単さ」だけを追求するのみでは、真の意味でユーザーがロボットを活用するに足りないものがあるという。

「ロボットを提供する側の人間として、まずは自動化をすることによる“生産性向上”が1番の使命であり、ひいてはそれを“人手不足解消”につなげることも使命であると思っています」(武原氏)

つまりロボット業界の課題であるティーチング操作を簡単にし、人手不足解消につなげることも必要であるが、その一方で、いかに正確かつ高速に動作できるかといった精度の追求による生産性向上も実現する必要があり、その両輪を偏りなく開発していくことが重要だとする。

  • 同社独自の制御技術が組み込まれている「MELFA FR Plus」のデモ

    東日本FAソリューションセンターに置かれている、同社独自の最新制御技術が組み込まれた「MELFA FR Plus」(参考出展)のデモ

同社の省人化に対する考え方について菅原氏は、「人を0人にする完全自動化はもちろん1つの目指すべき姿としてあるとは思いますが、あまり現実的ではないと思っています。そこに挑むよりも、人がやらなくても良い単純作業をできるだけロボットにやってもらい、商品企画などの頭を使う必要のあるクリエイティブな作業に人手が回るようにするといった意味での“省人化”に力を入れていくべきだと思っています」と語る。

単純作業ではあるが、どうしても行う必要になる部分をロボットで代替することで、その作業に割いていた人手を減らすことができ、結果として人件費の高騰や人手不足などといった課題に対処できる。誰でも使用可能ながら高精度なロボットの開発を進めていくことで、「少しずつ(先行して導入が進んでいる)大企業だけではなく、ロボットの導入に敷居の高さを感じている中小企業であっても手軽に導入できるんだと思ってもらえるようにしていきたいです。そして、そうした多くのユーザーをいかにサポートしていくかというところも意識していきたい」(同)と語っていた。