100年以上の歴史を持ち、世界最大級のガラスなどを扱う製品メーカーであるCorning(コーニング)。その日本法人で、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造・販売を担うコーニングジャパン(CJKK)の代表取締役社長に2023年3月28日付で就任したのが古川貴浩氏である。同氏は、2023年11月19日付でもう1つの日本法人で、オプティカルコミュニケーション、オートモーティブ、モバイルコンシューマーエレクトロニクス、ライフサイエンス関連用製品の販売を担うコーニングインターナショナル(CIKK)の代表取締役社長にも就任。そんな同氏に、社長としての思いなどを聞いた。

  • 古川貴浩氏

    コーニングジャパン(CJKK)の代表取締役社長 兼 コーニングインターナショナル(CIKK)の代表取締役社長を務める古川貴浩氏

古川氏は1971年生まれ。国内外の大学で機械工学を学び、米国の企業でエンジニアとして働いた後、2002年にCJKKにディスプレイガラスの溶融工程エンジニアとして入社。その後、マーケティング業務などにも従事した後、営業技術部長などを経て、米国本社での新製品立ち上げなども経験。コーニングジャパンに戻った後、営業部門の責任者として国内ディスプレイメーカーを中心に事業を推進。2023年3月に代表取締役社長に就任し、ディスプレイ関連の営業ならびに工場を管轄している。

一方のCIKKには2023年1月1日付で取締役副社長に就任。その後、上述のように11月19日付で代表取締役社長に就任している。

古川氏は、この2つの日本法人について、「CJKKはディスプレイ用ガラスを、CIKKはそれ以外の多種多様な製品を扱うということで、交流があるようでなかった。しかし、両法人にまたがる複数のコーニング製品が同一顧客に採用される、また、ある製品が両法人にまたがる複数の顧客に採用されるケースが増えてきた。今後、両法人を一緒に見ていく必要があるということで白羽の矢が立った」と、自身の役割を説明する。

  • 日本のコーニングの概要

    日本のコーニングの概要 (資料提供:コーニング)

1851年に設立されたコーニングの歴史は、まさに近代におけるガラス・セラミックス関連の技術の進化の歴史とも言える。現在は、光ファイバーやディスプレイを中心に事業規模を拡大。「ディスプレイテクノロジー」「オプティカルコミュニケーション」「エンバイロメンタルテクノロジー」「スペシャリティマテリアルズ」「ライフサイエンス」の5つの事業を展開している

  • コーニングが軸とする5つの事業

    コーニングが軸とする5つの事業。大雑把に、それぞれディスプレイは液晶パネルなどに向けたもの、オプティカルコミュニケーションは光ファイバー関連、エンバイロメンタルテクノロジーは自動車向けソリューション、スペシャリティマテリアルズは半導体製造プロセス向けガラスやスマホ向けのGorilla Glassなど、ライフサイエンスは細胞培養やバイアルなどのバイオ関連といった切り分け方となっている (資料提供:コーニング)

この5つの事業の中で、今後伸びていくと同氏が見ているのがスペシャリティマテリアルズに含まれる半導体分野と細胞培養などを担うライフサイエンスだが、それ以外にも分野横断的にガラスに対するニーズが出てきているという。例えば自動車に対して同社は車載ディスプレイ用の基板ガラスやカバーガラス、排ガス浄化用のセラミックフィルターや触媒用担体を供給しており、また外装ウインドシールドガラスやコネクテッドカー向けの光ファイバーなどの需要拡大を見込んでおり、複数の事業にまたがる形で自動車メーカーなどにアプローチをしていくことが求められるようになってきている。「横ぐしでシナジーを生み出していく」と同氏は語るが、それは「相当なチャレンジング」でもあることも認識している。しかし、「すでに複数部門をまたがる情報共有・人材交流を積極的に進めている中、定期的に新規ビジネス案件を、部門を超えて議論する場を設けており、今後、体制が整ってくると思う」と、日本法人2社をまたがってみる立場だからこその取り組みを推進することに意欲を見せる

存在感が増すことが期待される日本市場

日本市場について古川氏は、「今後、イノベーションが生み出されていく地域として期待されている」と、さまざまな事業分野が融合し、新しいアプリケーションが登場してくる現場として、グローバルでの存在感を増すことが求められているとの認識を示している。また、コーニングは売り上げの7~8%ほどを新規開発に回すことで、常に新たな市場の開発を目指す体制を構築しているとのことで、「新製品のシーズ探索などの取り組みは米国ニューヨーク州のSullivan Parkが中心に進めているが、日本にも静岡にテクニカルセンターがあり、Sullivan Parkなどと協力して、新たな取り組みができれば面白い」と、製品面のみならず、技術開発の面でも期待できる地域であるとの見方を示す。

さらに、そうした面白く、かつ意欲的な挑戦を進めるために日本法人(CJKK・CIKK)では「能力のある人材は、性別などを問わずに積極的に雇用を進めている」ともする。近年の世界的な多様性の流れを受けて、そうした取り組みも積極的に推し進めるという柔軟な姿勢や風潮がグローバルとして根付いており、CIKKの東京本社に勤務する従業員の4割ほどが女性で、マネージャー以上の人材としても、財務部長や人事部長をはじめとして15%ほどが女性が就任しているほか、取締役も7割ほどが女性で占められるなど、日本においても女性活用も積極的に進めているとする。

なお古川氏は、今後に向けて、「横ぐしに事業を見て、新たな顧客に対して、持てる技術や製品を複数組み合わせてアプローチするなどしていくことで、顧客のソリューションに1つでも多くの自社製品を提供していくことを目指す。また、既存ソリューションに対しても、違った角度での見方を持つことで、新たな価値の提案ができるようにしていきたい」と、ガラスやセラミックスなどコーニングが手掛ける幅広い製品が生み出す価値を最大限に引き出すことが顧客の価値創出につながるとの方向性を示している。すでに、その先鞭となる例が、コーニングが技術協力してJDIが開発した高い透明度と輝度を実現する透明ディスプレイ「Rælclear(レルクリア)」の改良版として結実し、各所で話題となったことは記憶に新しい。今後も、「ワンコーニング」を掲げ、各部門でCJKKとCIKKの垣根を超え、人材交流を盛んにし、優秀な人材育成を進めていくことで、そうした新たな価値を日本で生み出していきたいとしている。

  • 透明ディスプレイ
  • 透明ディスプレイ
  • 上が実際にデモとして見せてもらった透明ディスプレイ。筆者の腕前とカメラ性能の限界により、若干ディスプレイに色が着いてしまっている点はご容赦を願いたい。下は同社提供の米国でのイベントで展示した際のデモの様子。この画像が分かりやすいが、透明感があり、向こう側が透けて見えつつも、ディスプレイ上に表示されている文字や模様などはくっきりと見える

コーニングの主力製品であるガラスは紀元前より人類に活用されてきたが、まだまだ進化の余地が残されている素材といえる。ガラスの進化がなければ光ファイバーも液晶ディスプレイも生まれず、現代のデジタル社会も実現されなかった。今後、さらなるガラスの進化がどのような社会をもたらすのか。また、その中でコーニングが日本でどのように存在感を増していくのか、同社、そして古川氏の今後の動向に注目だ。