前回取り上げた「Windows Blue」の正式名称が「Windows 8.1」になったことは本誌でも既報のとおり、MicrosoftのWindows担当チーフマーケティングオフィサー兼チーフファイナンシャルオフィサーであるTami Reller(タミ・レラー)氏が、JP Morgan Technology, Media & Telecom Conferenceで明らかにした

同社のWindowsコミュニケーションマネージャーであるBrandon LeBlanc(ブランドン・ルブラン)氏も「Blogging Windows」の記事に追記する形でフォローアップし、Windows 8.1のパブリックプレビュー版を現地時間の6月26日に公開することを合わせて発表した。

しかし、Windows 8.1をWindows 8ユーザー向けに無償でリリースし、Windows UpdateではなくWindowsストアで配布するのはなぜだろうか。今週はこのWindows 8.1リリースにまつわるいくつかの疑問に関して愚見を述べさせて頂く。

Windows 8.1がService Packとして提供されない理由

Windows Blueが「Windows 8.1」として、今年のホリデーシーズン前にリリースされることが明らかになった。過去にリークされたWindows 8.1に関する情報によると、モダンUIの一部改善として「PC設定」の項目増加や、タイルの操作性向上など、あくまでもWindows 8をベースとしたOSになる予定である。そのため、Windows 8 Service Pack 1でも構わなかったはずだが、Microsoftは古い命名規則を用いてきた。この背景をたどるにはWindows OSの歴史をひも解く必要がある。しばしの間お付き合い頂きたい。

そもそもWindows OSにおけるマイナーアップデートは今回が初めてではない。Windows 3.0とWindows 3.1、Windows 98とWindows 98 SE(Second Edition)のように類するケースがある。OSの中核をなすカーネルのバージョンが異なるWindows 2000とWindows XPだが(Windows 2000はバージョン5.0、Windows XPはバージョン5.1)、こちらも同様のケースに加えていいだろう。まずはWindows 3.0とWindows 3.1を振り返ってみる。

1990年5月22日(日本語版は1991年1月23日)にリリースされたWindows 3.0と、2年後の1992年4月6日(日本語版はNEC版が1993年5月12日、マイクロソフト版が1993年5月18日)にリリースされたWindows 3.1は、マイナーバージョンの更新が示すとおり、いくつかの変更点が存在する。当初別売りで提供されていたWindows 3.0 with Multimedia Extensionsを内包し、32ビット版Windows用APIであるWin32のサブセット版「Win32s」や、Internet Explorerが提供されていた。

Windows 3.0における同3.1の存在は、基本的なUI(ユーザーインターフェース)デザインを踏襲し、当時始まりつつあった32ビットOS時代への移行をうながしつつも、一定のシェアを確保したWindows市場をさらに拡大するため、市場に投入されたOSである(図01~02)。

図01 普及のベースを作ったWindows 3.0

図02 さらに改良を加えたWindows 3.1(日本語版)

Windows 98とWindows 98 SEは、前者が1998年5月15日(日本語版は7月25日)、後者は1年後の1999年5月15日(日本語版は9月10日)にリリースされたが、こちらの相違点は機能向上や大幅なバグフィックスが中心となる。新機能に関してはInternet Explorer 5.0を標準搭載することで、エクスプローラーベースのWebフォルダーをサポートし、WDMオーディオやDVD-ROMのサポートや、USB 1.1やIEEE 1394の対応強化に伴い、DVカメラやマスストレージクラスのデバイスをサポート。また、この当時はプログラム内部での日付の扱いが下2桁だったことが理由で誤認識が発生する「西暦2000年問題」が問題視されていたが、Windows 98 SEで対応した(図03~04)。

図03 アクティブデスクトップを搭載したWindows 98

図04 Windows 9x系の安定版となったWindows 98 SE

このように一度OSをリリースしても、市場ニーズや社会的背景的に求められる、もしくはMicrosoftの社内事情で大幅なバージョンアップを必要とする場合、マイナーアップデート版をリリースしている。本来であればService Pack(サービスパック)で対応してもよいケースだが、Windows 3.x時代は手軽に大容量データを配布する仕組みがパソコン通信に限られており、Windows 98時代もインターネットが普及していたとは言い難(がた)い。そのため、前者は異なるOSとして、後者は「Windows 98 Second Edition Update CD-ROM」というアップデートを1,050円という安い価格で提供していた。

本来Service Packは、過去にリリースした更新プログラムの集合体であり、個別に更新プログラムを適用する手間を省くために提供されるものだ。そのため、機能拡張を伴う更新はService Packに含めないという通例があったものの、それを大きく覆したのが、Windows XP Service Pack 2である。日本国内では「Service Pack 2 セキュリティ強化機能搭載」というサブタイトルを付け、当時問題視されていたセキュリティホールを狙ったマルウェアの対策を求められ、インターネット経由だけでなく量販店や郵便局でCD-ROM付き小冊子を配布していた(図05)。

図05 Service Packで機能拡張を行ったWindows XP Service Pack 2(画面はService Pack 3適用済み)

Windows OSには、このような経緯がある。ではなぜWindows 8.1はWindows 8 Service Pack 1としてリリースされないのか。Service Packに関する通例は既になく、スタートボタンに代表されるUIに対してReller氏は「フィードバックに基づいて改善する」と述べるにとどめているが、Windows担当コーポレートバイスプレジデントのJulie Larson-Green(ジュリー・ラーソン-グリーン)氏は「スタートボタンの復活を検討している」と述べたという。

Windows 8.1という別の製品を出す理由の一つが、Windows 8の商業的不振を一掃しつつ、UIを改善して新OSというイメージを植え付けるMicrosoftの戦略ではないかと筆者は愚考している。無料配布という点も、Windows 8.1登場で買い控えするユーザーを手放さないためだろう。その一方で、Windows 8のカーネルはバージョン6.2(ビルド9200)だが、Windows 8.1のカーネルはバージョン6.3になる予定である。このカーネル更新もWindows 8 Service Pack 1と名乗らない理由に数えていいはずだ。

また、Windows 8.1へのアップデートプログラムをWindowsストア経由で配布する点にも注目したい。従来ならWindows Updateで配布してきたService Packだが、Windowsストアを利用することで、今後有償アップデートに移行する可能性があることを暗に示している。MacintoshのOS Xは以前からMac App Store経由でメジャーアップデート版を有料販売しているが、この方式を選択することで、MicrosoftはWindowsストアの負荷テストを行うと同時に、販売チャンネルを増やせることになる(図06)。

図06 Windows 8.1を提供する「Windowsストア」

なお、Windowsストアを利用するにはMicrosoftアカウントが必要となるものの、Windows 8をローカルアカウントで利用している場合は、使用時のみMicrosoftアカウントでWindowsストアにサインインすることで利用可能。ただしセキュリティ対策として、Windowsストアを禁止している企業に対してどのように対応するかは不明だ。

Windows Blueから始まり、Windows 8.1という呼称を採用した事実上のService Packの全容が見えるのは、パブリックプレビュー版が公開される6月26日(現地時間)、もしくはリリース予定として明かされた米国のホリデーシーズン(11月第4木曜日の感謝祭後)以前となる。

阿久津良和(Cactus