皿利亭・万夫(さらりてい・まんお)

毎度! わたくし、サラリーマンとして働きながら副業として落語家をしております、皿利亭・万夫(さらりてい・まんお)と申します。卒業シーズン真っ只中の昨今、いかがお過ごしですかな。年度が替われば新入生、新社会人、はたまた組織の中で新リーダーとなられる方もいるでしょう。そこで今回は、新生活を迎えるにあたり考えたい"3つの卒業"にまつわるお話をいたします。お話に出てくる彼らは今でこそ"デキる男たち"ですが、当時はそれぞれがある問題を抱えておりました。彼らを劇的に変えたのは、1本の映画との出会いだったのです。

親元を離れる覚悟! "幼い自分"からの卒業

洋司くんという、青年実業家のお話です。彼は弱冠25歳にしてIT会社を興し、わずか3年間で年商10億円を達成した才覚の持ち主です。特別に優秀な大学を出ているわけでもない洋司くんは、経営センスがそもそもずば抜けていたのでしょう。しかし、彼に10代の頃の話を聞くと意外な答えが返ってきました。両親の愛情を過保護なまでに受けながら何不自由のない暮らしをしてきた洋司くんは、高校生になっても母親に送り迎えをしてもらう程の甘ちゃんでした。起業どころか、一人暮らしを考えたことすらありません。そんな洋司くんの転機は、デートに出かけた際に母親が平然と同行し、彼女にドン引きされたことに始まります。その日のうちに彼女と別れることとなった洋司くんは、理由がわからずに泣き崩れました。彼女のことを恨み続け自暴自棄になっていたある日、たまたま目にした『卒業白書』が、彼に親元を離れる覚悟をさせたのです。

『卒業白書』
若かりし日のトム・クルーズ主演の、ちょっとエッチな青春映画。裕福な家庭に育った主人公のジョエル(高校3年生)が、両親が家を空けた間に巻き起こす騒動を描いた作品。友人の悪ふざけをきっかけにラナという売春婦と恋仲に陥ったジョエルは、ある出来事を引き金に父親のポルシェを水没させてしまう。まとまったお金が必要となったところで、ラナの誘いに乗りお互いの知人を集めるだけ集めた"売春パーティー"を開催。荒稼ぎに成功するジョエルだが、そのリスキーなビジネスの結末からは目が離せない!
【※配信は4月30日まで】

洋司くんは親のいぬ間に好き勝手やるジョエルを見て、自立への強い憧れを抱いたんですな。また、アイデア次第で無限の可能性があるビジネスへの興味も、このときに生まれたといいます。

『卒業白書』 TM & (c) Warner Bros. Entertainment Inc.【※配信は4月30日まで】

人前でうまく話すことができない、"内気な自分"からの卒業

"上手な話し方"を伝える人気セミナー講師、内木さん(43歳)のお話です。内木さんが講師として頭角を現したのは、つい最近のこと。それでもその説得力にあふれる講演は瞬く間に評判を呼び、各地から依頼が殺到しています。実は内木さん、元来コミュニケーションに苦手意識を持つ無口で内向的な性格でした。事務員として会社勤めをしていた頃、社内会議で発言を求められた際まったく言葉が出てこずに、パクパクと金魚のように口だけ動かしてしまったこともあります。またあるとき、仲の良い同僚から結婚式のスピーチを頼まれた内木さん。それは心臓が口から飛び出すぐらい、緊張とストレスを伴うものでした。スピーチのことを想像するだけで、極度のプレッシャーから胃腸を壊しトイレに立てこもる日々。見かねた同僚が、『英国王のスピーチ』を紹介します。そしてこれに感化された内気さんは、人生を大きく変えることになるのです。

『英国王のスピーチ』
吃音(きつおん)症に悩まされたイギリス王ジョージ6世(ヨーク公)と、その治療にあたった言語療法士(ライオネル・ローグ)の友情を史実に基づいて描いた歴史ドラマ。王族という宿命的な立場にありながら、うまく話ができないという致命的な問題を抱えるヨーク公。衝突を繰り返しながらも立場を超えて支えとなるローグの存在は、やがてヨーク公の中でなくてはならない存在となる。クライマックスはヒトラー率いるナチス・ドイツとの戦争突入を宣言する、9分弱もの緊急生放送の場面。二人三脚で挑むヨーク公とローグの姿は、涙や鳥肌なしでは見られない。

結婚式当日。内木さんは時折沈黙を挟みながらも、逆にそれが絶妙の"間"となる深みのあるスピーチを展開。その誠意ある話し方は拍手喝采を呼び、人前で話すことの快感を知った内木さん。その後、「私のような人を救いたい!」との想いでセミナー講師への道を突き進んだのでした。

『英国王のスピーチ』 (C) 2010 See-Saw Films. All rights reserved.

腐れ縁を断ち切る! "悪友"からの卒業

六本木で高級レストランを運営するカリスマシェフ、グレン(30歳)のお話です。20代前半でイギリスから東京に進出してきたグレンは、アルバイトとして料理人の道をスタート。死にもの狂いで修行を積み、29歳にして今の地位を確立しました。そんなグレンの両手には、細かい傷跡が無数にあります。さぞかし料理の修業が大変だったのだろうと思いきや、その原因は彼の青年期にありました。中流階級にあった彼の家庭は比較的恵まれていて、両親も優しく、環境は穏やかそのもの。しかし幼なじみで仲の良かったダニエルという青年が、大麻に染まったことにグレンの不運は始まります。ダニエルに誘われるがまま、大麻に手を出したグレン。悪い仲間も増え、暴行騒ぎや警察沙汰も次第に増えていきました。そんなある日、グレンは悲しむ両親の顔を見てハッと我に返ります。「このままでは足の引っ張り合いになる」と、彼が選んだ道は国外に出て一からやり直すというものでした。なんでも、彼に出直しを決心させたのが『トレインスポッティング』なんだとか。

『トレインスポッティング』
※スコットランドを舞台に、ヘロイン中毒の若者たちの日常を斬新な描写で描いた青春映画。ヘロインを止められずに堕落した日々を送るレントンの周りには、ひと癖もふた癖もあるヤク中仲間で賑わう。トラブルの連続と退屈な毎日に嫌気が差したレントンは、必死のリハビリの末にロンドンに場を移し真っ当な生活を試しみるも……。悪友によって元の生活に引き戻されたレントンは、ある出来事を境に仲間たちとの決別を決意。語りかけるようなエンディングは意味深で、見る人の価値観によりさまざまな解釈ができる作品だ。

グレンはこの映画の話をするとき、どこか寂しそうな表情を浮かべることがあります。悪友とはいえ、決別した仲間への複雑な感情があるのでしょう。

『トレインスポッティング』 (C) Channel Four Television Corporation MCMXCV

さて、今回お話にでてきた3本の映画は、「dビデオpowered by BeeTV」にてチェックすることができますぞ。"卒業"とはなにも、学生に限った話ではありません。"幼い自分"、"内気な自分"、"悪友"といった類は、もしかしたら身に覚えのある方もいるのではないでしょうか。それらを手放すことで、彼らのように大きな変化が待っているやもしれません!