PCメーカーとして知られる米Dellに身売り説が出ている。身売りとはいっても、投資会社らの協力を得て市場の同社株式を買い集め、非上場企業を目指すというものだ。PC市場が大きく変化していくなか、一般ユーザーを対象にしたPC販売から、企業向けのサーバ事業へとシフトするDellに何があったのだろうか?

Dellが身売りと非公開企業化を目指していることは比較的以前から囁かれており、All Things DigitalのArik Hesseldahl氏の記事)によれば、Bloombergが2010年6月に報じた件までさかのぼるという。

ここでDellは非公開企業化を目指していることを公式に認めており、そのための方法を模索しつつあるとしている。PC市場で低迷するDellを再起させるべく、2007年にCEO職を解雇されたKevin Rollins氏に代わり創業者のMichael Dell氏が再びCEOの座に就き、改革の途上での話だ。

Rollins氏の時代はそれまでのIntel製プロセッサ一辺倒からAMD製プロセッサの採用、ゲーミングPCを開発していたAlienwareの買収など、どちらかといえばPC事業を強化するものが中心だったが、Dell氏のCEO復帰以後は2008年のiSCSIストレージ技術を持つEqualLogicの買収を皮切りに、サーバ、ストレージ、セキュリティ、システム管理ソフトウェア関連企業の買収を立て続けに行っており、PCからの脱却とサーバ事業への傾倒が進みつつある。

最近ではスマートフォン事業や小型タブレット「Streak」や、「XPS」シリーズをはじめとするユニークなUltrabook製品なども手がけ、比較的コンシューマ市場にコミットしていた印象はあるものの、スマートフォン関連事業からはすでに撤退を表明しており、今後その比重はよりサーバへと傾いたものになるとみられる。

こうしたなか、再びこの話題がクローズアップされたのが今月1月14日(米国時間)のWall Street JournalBloombergの報道だ。

Dellは投資会社のSilver Lake PartnersとTPG Capitalの2社と同社株買収に関する相談を持ちかけており、最終的に両社またはいずれかの会社の協力を経て非上場化を目指しているというのだ。現時点では決定事項ではなく、まだ話し合いの初期の段階だという。今後両社の話し合いに参加を表明する団体も現れるとみられ、しばらくは水面下での話し合いが続いていくだろう。株式の買い取りは1株あたり13~14ドルが見込まれており、同報道が出た直後、Dell株はそれまでの11ドル前後の水準から急上昇して原稿執筆時点の水準で13ドル目前にまで迫っている。

非上場化の噂が持ち上がったその背景とは

なぜDellは非上場化を目指すのだろうか? 背景には昨今のIT市場の変化と株式市場を取り巻く情勢がある。1990年代後半に上場を達成したDell(当時はDell Computer)は、PC全盛期ともいえる2005年ごろまで業界トップをひた走り、株価も40~50ドル前後の水準を維持していた。だが新興国を中心としたメーカーらの台頭と、経済不況などによる先進国でのビジネスの不振もあり、CEOが交替する2007年前後から株価の下落が始まり、買収報道が出る直前はピーク時の価格から1/5~1/4程度の10ドル前後の水準に収まっていた。

当然、株主らからの声も大きくなり、思うような戦略を描けない状況が広がってきている。株価維持のための株式配当も始まり、上場を維持するメリットが希薄になりつつあったのが最近のDellだ。非上場化で既存株主以外の影響力を排除し、前述のようなサーバ事業への傾注を強めていくのがその狙いとなる。

Wall Street Journalによれば、非上場化までの資金集めのプロセスは何段階かに分かれる。買収観測報道が出る直前のDellの時価総額は190億ドルだったが、現在では220億ドル強まで上昇している。もし1株あたり13~14ドルでの買収の場合、その時価総額は220~250億ドル程度が見込まれる。

買収資金は前述の投資会社らの資金で20億ドル程度が用意され、CEOのDell氏本人が持つ株式36億ドルが持ち出しになる。これにDell社自身のバランスシートから用意される資金150億ドルを合わせて、買収金額へと近付ける形になるようだ。なお、Dell社自身から供出される資金にはキャッシュ等のほか、既存資産の売却なども行われる見込みだという。

つまり、この過程でPCを含む一部事業からの撤退や縮小などが発生する可能性がある。また買収に協力した投資会社らに対しては、Dellの経常利益から資金償還が行われるようだ。いずれにせよ、非上場化後には現在とは少し違ったDellの姿になる可能性がある。