Mac OSのファーストモデル「System 1」誕生

初代Macintoshである「Macintosh 128K」には、OSという呼称を使用していませんでした。Macintoshの開発コンセプトには、Jobs氏の哲学が大きく含まれており、同氏は「偉大なコンピューターとするためには、ハードウェアとソフトウェアの結び付きが重要であり、他のコンピューターで動くようにソフトウェアを変更すると、コンピューター自身の機能が損なわれてしまう」、と述べています。

同氏はコンピューターがウィジェットと呼ばれるパーツで構成され、OSはハードウェアと切り離すものではない、という存意を持っていました。その思想はMacintoshだけではなく、現在のiPhoneやiPadにも大きく反映されてきました。その結果、OSはハードウェアと一体化したソフトウェアとして提供され、正式名称は「Mac System Software」。呼称は「System 1」「System 2」とシステムバージョンを使用していました。

少々分かりにくいのが、Mac System Softwareは各バージョンを用いている点。ファーストリリースとなるMac System Softwareにはバージョン番号を用いていませんが、システムバージョンは1.0。Finderのバージョンは1.0。続く「Mac System Software 0.1」はシステムバージョンが2.0に、Finderバージョンは1.1gにアップデートしています。1985年9月年にリリースされたMacintosh 512Keに搭載された「System Software 1.0」は、その名が表すように"Mac"の冠が外されました。この情報はAppleの公式サイトにまとめられていますので、ご興味のある方はアクセスしてください(図01~04)。

図01 Apple自身がMac OSのバージョンをまとめています

図02 「Mac System Software」と呼ばれる最初のMac OSです

図03 各アプリケーションを起動した状態。28年前のOSですが、直感的な操作が可能なGUIデザインはさすがです

図04 こちらはFinderバージョンを1.1gにアップデートした「Mac System Software 0.1」です

過去に紹介してきたOSと同じく、Mac System Softwareは多くの開発者が携わることで形をなしてきました。Macintosh 128K完成時にJobs氏の「アーティストが自身の作品にサインするのは当たり前だ」という意見から、バックケースに当時開発に携わった四十六名のサインが刻み込まれた逸話は有名です。

ここからOS開発に携わった人物だけを取り上げても、Mac OSの代表的な特徴の一つに数えられるFinderを書いたBruce Horn氏やSteve Capps氏(スティーブ・キャプス:なお、Horn氏はリソースマネージャやダイアログマネージャなどSystem Softwareの主力アーキテクトの一人です)を筆頭に、UI Toolboxや初期のデスクトップアクセサリを書いたAndy Hertzfeld(アンディ・ハーツフェルド)氏、Macintosh初のBASIインタプリタやデスクトップアクセサリ、AppleScriptの開発に携わったDonn Denman(ドーン・デンマン)氏、アイコンやフォントなどデザイン面で尽力したSusan Kare(スーザン・カレー)氏など枚挙に暇がありません。なお、Capps氏はバックデザインの署名に含まれていませんが、これは当時同氏がXeroxに在籍しており、Macintoshチームに参加したのが1983年1月だからです。

前述のとおり、この時点でMac OSと呼ばれるOSの基礎は完成しており、誤解を恐れずに述べれば、後のバージョンは蛇足でしかありません。もちろんファーストリリースと比べれば、Shutdownコマンドの追加やHDD(ハードディスクドライブ)のサポートなどハードウェア(=Macintosh)の成長に合わせて変更は加わりました。しかし、当時のIBM/MS-DOSでは主流だったコマンドラインは一切存在せず、直感的な操作を実現するFinderやGUIデザインは、現在のOS Xに連なっています。Mac OSは「登場と同時に完成していた」と述べても遜色ないでしょう。