中森明夫
アイドル評論家、編集者。「オタク」という言葉の生みの親。「朝日ジャーナル」『新人類の旗手たち』に登場し注目を脚光を浴びて以降、現在まで芸能文化やポップカルチャーの批評を中心に活躍。主な著書に70年代から90年代までのアイドル文化の論考集「アイドルにっぽん」や第24回三島由紀夫賞候補作『アナーキー・イン・ザ・JP』などがある。

AKB48の世代交代

中森:秋元康もこの本に影響を受けてるんじゃないかと思ってね。だって、「UZA」ね。センターに大島優子と(松井)珠理奈を入れてツートップにしてるでしょ? やっぱり、どう考えても優子のヒキが弱いと思ったわけよ。

小林:それはない!

宇野:それ以上にね、世代交代というAKBの第2幕をやらなければならないということを秋元さんが明確に持っていたんだと思いますよ。

中森:それはいいのよ。すごくいいことだと思う。

小林:世代交代というのは運営側が常に考えなければならないことだろうけども、それ自体ができないことは分かっているはずなんだよ。大島優子が卒業したら大変な時代になるよ。

濱野:確かに今いなくなると大変ですね。

中森:大変な時代になったほうがいいと思うよ。

小林:やっぱり、とにかく新しければいいっていう感覚はダメ。以前からいるすーちゃんみたいなメンバーもね、改めてその魅力を再発見してあげるっていう気持ちがないとダメだよ。

宇野:でもね、AKBってもっと多極化したほうがいいと思うんですよね。例えばね、AKB紅白って去年あったじゃないですか。あれを僕はDVDで見たんですけど、赤対白とAKBのダイナミズムがあんまり合ってないんですよ。そうじゃなくて、AKBってたくさんいる中から選ぶのが面白いので、せめてチームごととか、地域対決にしないと面白くない。これね、プロ野球とかサッカーと一緒だと思うんです。せっかく、チーム制とか支店制をやってるんだから、そこを利用したゲームの盛り上げ方をしていったほうがよくて。でも、それって単にルールを変えればいいんじゃなくて、人気が伴ってないといけない。巨人だけがプロ野球チームじゃないと主張しても、巨人を倒せるチームがいないと意味がない。だから、神7、神8とか本店の人気メンバーがいつまでも上位に居座っているんじゃやっぱりダメだと思う。支店のメンバー、SKEだったらJR(松井珠理奈と松井玲奈)、NMBだったらさや姉(山本彩)、みるきー(渡辺美優紀)がなどが総選挙の上位にどんどん入ってくることによって、人気を分散していって欲しいですよね。

小林:やっぱりタブーを破っているわけですよ。AKB、NMB、SKEっていうのを全部まとめて総選挙するっていうのはとてつもないタブーだよ。しかも、みるきーなんかAKBにも入ってしまったり、りぽぽ(小谷里歩)もAKBに入ったよね。あれも、矛盾と葛藤を周囲にも引き起こしてしまうわけね。そこから生まれるものを狙っているわけだから、それをすっきり割ってしまったらそういう葛藤も生まれなくなって、NMBのツートップはさや姉(山本彩)とみるきー、ただそれで落ち着いちゃうわけよ。みるきーとさや姉もさ、写真集対決なんかをやってさ、さやねえなんかさ、泣いちゃったりするわけだよ。本当に過酷だなと。なんてことするんだと思う。ワシはね運営側に対する憎しみがわいてくるよ。

中森:でも、そこがうまいよね。

宇野:そういうダイナミズムをいかすには、やっぱり支店センターっていうのをやるべきなんですよね。今まで(松井)珠理奈が2回AKBのセンターをやって、あとは全部あっちゃんか優子じゃないですか。プロ野球だって、巨人以外が優勝できるほうが面白いわけですよ。そういう支店からAKBグループ全体を引っ張ることもできるんだというドラマがあったほうが僕は面白いと思います。

濱野:総選挙をやればできることですよね。

中森:でもさ、この前も総選挙やったけど、やっぱり古いメンバーが上位にいると、今の小選挙区制的な矛盾、やっぱり自民と民主かよ的な感じでね、停滞感は否めないと思うんだな。よっぽどすごいものが支店から出てこないとさ。

小林:それだったら、新しいものがいいって言ってたら、橋下徹がいいみたいな話になるわけじゃないですか。そういう感覚に実際、世論もなっているわけですよ。そういうポピュリズムはダメなんだなぁ。やっぱり、ファンときっちり交流している子が勝つっていうのがいいよね。

AKB48の東京ドームコンサートDVD&Blu-ray Disc『AKB48 in TOKYO DOME ~1830mの夢~』の発売告知CM(左から濱野智史、中森明夫、田原総一朗、小林よしのり、宇野常寛)

田原総一朗とAKB48

中森:この前、この4人と田原(総一朗)さんでCM撮ったじゃない。それでちょっと困ったのは田原さんはメンバーの名前をたかみなぐらいしか知らなくて。

小林:田原総一朗、何にも知らないんだもんね(笑)。

中森:いちばん僕がビックリしたのはね、僕が麻里子様麻里子様って言ってたら、急に田原さんが怪訝な顔してさ『ちょっと、聞きたい。あなたはなぜ”麻里子様”って敬称をつけてるの』って(笑)。

宇野:やたら政治性を一方的に見出してるんですよね(笑)。

濱野:あれはウケましたよね(笑)。でも、政治家っていちばんガチっていうか。昔の政治家の映像を見るだけで、こんなに話が面白いのとか、こんなに怒号を浴びてるのとか。国会の映像って、昔の方がはるかに面白いんですよね。実際に田中角栄とか僕ら世代ではないですけど、YouTubeとかでたまに見るとこんなにおもしれーやついたの! 最近のタレントより全然面白いじゃん! みたいになるんですよ。だから、普通にガチ感があった昔のエンターテインメントって政治だったはずなんですよ。そういうのがよくないって言われてるうちにショボくなっちゃって、今ではAKBの方が政治として面白いってなっちゃったんです。だから、田原さんも小林さんも関心持っちゃってるじゃないですか。

小林:田原総一朗はな、我々が90分話すっていう約束で来てて、90分を過ぎてしゃべってたら『もう! 時間過ぎてるじゃないか!』って言ってね、急に立ち上がってさ。15分の延長をお願いしたら『約束が違うじゃないか! 約束を守らない奴は嫌いだ!』って言うわけよ、それでスタジオがシーンとしてしまって(笑)。だからワシが、ここにいるのはオタだから何時間でも話してしまうんですって言ったら、渋々座ってた(笑)。

濱野:でも、あれは東京ドームコンサートのDVDのメイキングに収められているたかみな(高橋みなみ)思わせましたよ。お前ら真面目に聞けや!みたいにすごい勢いでたかみながキレてる映像なんですけど。

小林:いやいや、無駄にキレてるわけじゃないんだよ、たかみなは。

中森:そうそう。

濱野:田原さんだって無駄にキレてるわけじゃないですよ(笑)!

宇野:でも、あのDVD面白かった。みんなを一気に沈めるたかみなもすごいと思ったけど、メンバーを統制しているたかみなっていつもとちょっと顔が違うんですよね。あれは使い分けているというか本人なりにしっかり考えて、出力も変えているだろうし。7年前のたかみながそんな女の子だったわけじゃないじゃん? こういう人材を輩出できてしまうシステムとしてのAKBはすごいと思う。

中森:だからさ7年前は、AKB48ができたのと、宇野さんの雑誌の「PLANETS」の創刊と、小泉政権の末期の頃。その後に何人も総理大臣が変わったよね。もう、何にも信用できない。そこで絶対的な信用である高橋みなみが生まれたわけだけど、実は難しい7年だったよね。東日本大震災もあったしね。政治はことにそうで、政治家を見るとさ、さもしい人間ってこういうことかと。詭弁のオンパレードでね。この前まで脱原発って言ってた橋下徹の言うことが変わったりだとかね。そんなことを見てると、やっぱりAKBの方を見ちゃうよね。

宇野:今の政治って引き算なんですよね。何々がダメだからこいつには入れないとかね。何々の失言があったから、こいつは罰だみたいな。でも、AKBって足し算なんですよね。こいつも推したい、こいつも推したいっていうプラスの票しか実はあそこにはないんですよ。マイナス票は基本的にはなくて。まぁ、トップ争いではアンチあっちゃんが優子に入れるとかはあったかもしれないんですけど。そこもね、差が出てるんじゃないかなと思うんですよ。……続きを読む。