古谷敏、ウルトラマンになる

――そのB2クラスの俳優さんとして日々いろいろな役を演じられた中で、『ウルトラQ』のケムール人のスーツ・アクターとしてのお仕事が舞い込むわけですね

古谷「『ゴジラ』のぬいぐるみ俳優ということで中島春雄さんを見てますからね。僕としては、東宝で宝田明さんに憧れてメロドラマを勉強してるわけだから、そんなの入りたくないし(笑)。ところが、ケムール人というのは見たとおり細くて背が高くて、そういうイメージなんですね。それに合う俳優というのがいないんですよ、東宝に。しいて言えば、(『ゴジラ』で芹沢博士、『ウルトラマン』で岩本博士、『ウルトラセブン』でヤナガワ参謀を演じられた)平田昭彦さんくらいで。でも、Aクラスだから使えませんよね。で、僕しかいないんで、どうしてもってことで」

――衣装合わせだから来てくれと言われて行った時点では、何も知らされていなかった……

古谷「ぬいぐるみに入るんですけれども、昔は素材が悪くて中に入れないんですよ、すべらなくて。で、シッカロールって、今で言うベビーパウダーですね、全身真っ白になって。それで入るんですよ」

――ケムール人は最初、ローラースケートを履いて走ることになっていたそうですが?

古谷「僕は、小さい頃からローラースケートやってましたから。ところが、本番で玉川浄水場の夜間撮影に行って頭を着けたら8kgぐらいあるんですよ。動こうと思っても動けないんです、怖くて」

――2Lのペットボトル4本分ですね

古谷「被ってない状態では滑れるんですよ。でも被ると、視野が狭くて重たくて。ケムール人って3つありますからね、目が。それが全部光って、頭の中ではモーターがウンウン回ってるわけですよ、電池も重いし。『これで滑ったらケガする』と思って。で、TBSから来てた飯島(敏宏)監督に言うと『じゃ、履かなくていいです』ということで、あの独特な逃げ方の走りになったわけです。履いてたら、あれはできなかった」

――あれは、よかったですよね。でも、ご本人的には、すっかり嫌になってしまわれて……

古谷「でもう、何日かして『降ります』って、東宝に帰ってきて。でも、東宝専属ですから事務所から言われると、しょうがないんですよ。ほかに仕事ももらえないし」

――会社から命令されると、それをやらざるを得ない(笑)。で、やり終えた時点では、スーツ・アクターの仕事はこれ一回きりの出演だと

古谷「だから、ラッシュも、でき上がったのも観てないんですよ」

――ところが、海底原人ラゴンも……

古谷「ラゴンはね、東宝の野長瀬三摩地さんという助監督が今度、監督で撮るんですと。それで来てくれと。僕らのクラスは助監督さんとの交流が多いんですよ。監督さんは、もっぱらスターの方の相手をしますからね。野長瀬さんには助監督として、よくしていただいたんで。それが監督になる(後に『ウルトラマン』「遊星から来た兄弟」、『ウルトラセブン』「湖のひみつ」など)記念の作品だからってことでね。それで、しょうがないからまた被ってね。ラゴンもまた、命がけのすごいロケ現場で(笑)。海辺の高いところを歩くわけですよ。主演の佐原(健二)さんは普通に歩けるんですけれども、追いかける僕の方は足にヒレを付けていて、前は見えないし……感覚だけで歩くよりしょうがないみたいな状況で、一歩間違うと崖下に落ちちゃう。三浦半島でね」

――そして、いよいよウルトラマンに……

古谷「『敏(ビン)ちゃん、主役だよ』って(笑)。主役って言葉は、僕らのクラスの俳優にとっては魔法の言葉なんですよ。それで、東宝に帰れなくなっちゃった。宝田明さんと共演もできない(笑)」

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