残すところあと約一カ月でリリースされる予定のWindows 8。エディションの一つとしてARMプロセッサで動作するWindows RTをラインナップしているが、気になるのは標準搭載予定のOffice for Windows RTである。次期Officeスイートは現時点でプレビュー版をリリースしているに過ぎず、開発が間に合うのか危ぶまれていたが、「Office Next blog 」の記事で、正式名称となる「Office Home & Student 2013 RT」の詳細を明らかにした。今週のレポートは「Office Home & Student 2013 RT」に施された省電力設定や機能制限などを紹介する。

Windows 8レポート集

省電力に対応した「Office Home & Student 2013 RT」

ご存じのとおり、ARM向けWindows 8となるWindows RTは単独発売されず、Surface(サーフェス)などのタブレット型コンピューターにプリインストールされる予定である。Microsoftは同コンピューターに関する詳細を明らかにしておらず、現時点でわかっているのは、基本的なハードウェアスペックと、Surface RTモデルと呼ばれるARM版が、Windows 8と同じ10月26日にリリースされるということだけだ。同社の関係者に聞いても誰しも口が重く、全貌を確認することは難しい。

また、Windows RTはWindows Media Player 12を搭載せず、その設計から稼働するアプリケーションはWindowsストアアプリに限定されるため、Webブラウザー問題やセキュリティソフト問題が挙げられている。だが、前者は既にMozillaやGoogleがWindowsストアアプリ版Mozilla FirefoxやGoogle Chromeの開発を表明。後者はWindows RTが市場に広まることで解決できる問題だ。

筆者が以前から気になっているのは、Windows RTに搭載されるOffice for Windows RTの存在である。各所で報じられているようにWindows RTは次期Officeスイートを搭載し、WordやExcel、PowerPoint、OneNoteの最新版が使用可能。プラットフォームが異なりながらも、同じWindows 8、同じOfficeを使用できる環境になるという(図01)。

図01 Windows 8と同じタイミングでリリース予定のタブレット型コンピューター「Surface」

ポイントはOfficeスイートの開発状況だ。本誌でも報じていたように現在はMicrosoft Officeカスタマープレビューとして、Office Professional 2013プレビューなどを公開中。完成は間近なのかも知れないが、同プレビューを使っている方ならご承知のとおり、各所に不安定な面も残っている。筆者はExcelの使用頻度が高いのだが、文字入力でアプリケーションごと終了してしまうバグには辟易してしまう。

改めて述べるまでもなく、Officeスイートは同社の屋台骨を支える重要な製品の一つであるだけに、より完成度を高めた状態で製品化されると思われるが、ここで出てくるのがWindows RTだ。同OSは8月時点で完成しているが、Office 2013 RTがRTM版(Release To Manufacturing version:製造工程版)に至らないと、Surfaceも出荷に至ることはできないのである。このように鬱然とした状態に光明を見いだしたのが、「Office Next」の記事だ。

投稿者はプリンシパルグループのプログラムマネージャーであるGray Knowlton(グレイ・ノールトン)氏。Office for Windows RTの正式名称となる「Office Home & Student 2013 RT」を作成する理由として、Windows RTを搭載したタブレット型コンピューターでも、デスクトップなどと同じようなOfficeのエクスペリエンスを提供するため、タッチUIのサポートやバッテリ寿命の改善など、プラットフォームへの最適化を行ったと述べている。

同氏はWindows RTデバイスの共通項として、「タッチパネルのサポート」「バッテリ寿命を延ばす機能」「2GB以上のメモリ」「16~32GBのSSD」「3Gワイヤレス接続」をピックアップ。これらの条件を元にバッテリ寿命を最大限生かすため、プロセッサのスリープ状態をソフトウェア側で制御する仕組みを採用した。具体的には「Coalesce Timers」と呼ばれる別々のソフトウェアから寄せられたタイマー要求と同じタイミングとなるように調整する機能。本来はWindows 7から実装されたものだが、Windows 8では更なる機能拡張が行われている。

Office 2010では、アイドル状態のプロセッサを起こすようなアクションが1,000回/分も行われていたが、新しいOfficeでは95パーセントも軽減。また、日頃から見慣れたカーソルにも注目している。MS-DOS時代以前から現在のポジションを示すために点滅するのが普通だったが、電力への影響を最小限にするため、アイドル状態になった際は、カーソルの点滅を止めて固定する処理を加えたという。

この他にも、一般的なコンピューター環境と異なり、GPUやネットワークアダプタなどを統合するARM SoC(System on a Chip)に対する最適化。メモリ作成した一次キャッシュが積極的に使用していない状態を検出すると、このキャッシュを解放する機能。Windows RTマシンとなるタブレット型コンピューターの制限を踏まえたオンラインコンテンツの利用など、数多くの最適化が施されている(図02~03)。

図02 Word 2012のスクリーンショット

図03 Word 2012 RTのスクリーンショット

だが、「Office Home & Student 2013 RT」の変更点はプラスとなるものばかりではない。基本的な機能は次期Officeとなる「Office 2013」と大差なくドキュメントファイルの形式も同じだが、セキュリティや信頼性の向上、バッテリ寿命の問題を考慮し、以下の機能がサポートされていない。

  1. マクロ機能
  2. アドイン機能
  3. ActiveXコントロール(サードパーティ製を含む)
  4. Flashビデオ再生機能(PowerPoint 2013 RT)
  5. 古いメディアフォーマット(PowerPoint 2013 RT)
  6. 数式エディター3.0の編集データ
  7. Outlook 2013
  8. データモデルの作成。ただしピボットテーブルやクエリーテーブル、ピボットチャートは作成可能(Excel 2013 RT)
  9. ナレーション録音機能(PowerPoint 2013 RT)
  10. 埋め込み音声/ビデオファイルの検索(OneNote 2013 RT)
  11. 音声の録音や動画の録画およびスキャナ機能(OneNote 2013 RT)

図04 OfficeスイートとWindows OSのリリースタイミング(米国時間のRTMベースに構成)

筆者はOfficeスイートが備える全ての機能を使いこなしていないため、これらの制限がどのような事態を招くか想像できないが、少なくとも業務遂行のために独自マクロやアドオンを使用してきたユーザーには打撃となるのは確実なようだ。また、当初述べたリリースタイミングだが、Surfaceにはプレビュー版を搭載し、Windows Update経由で更新するという。スケジュールは未定だが、2012年11月から2013年1月までの提供を目標とし、詳細は10月26日以降、「The Microsoft Office Blog」で公開される。

大方の予想どおり、Windows 8のリリース予定日である2012年10月26日に、Office Home & Student 2013 RTは間に合わないことになった。もっとも過去のリリースタイミングを踏まえると、Windows OSとOfficeスイートが同時にリリースされたのは、Windows 95時代のみ。基本的にそれぞれの製品は独立したスパンで開発されてきたことを踏まえると、SurfaceにOffice Home & Student 2013 RTを標準搭載させるスケジュール自体に問題があったのだろう。いずれにせよ、Surfaceは予定どおり10月26日にリリースされ、Office Home & Student 2013 RTが標準搭載されることに変わりがないことが明らかになった(図04)。

阿久津良和(Cactus)