この活動のメンバーであるが、HSA FoundationではFounder/Promoter/Supporter/Contributor/Academic/Associateの各ポジションが用意される。Non-profitの常として、それぞれのポジションに応じてのMembership Feeが課せられる事になる。さて、今回の発表ではInitial Foundersとして5社が発表されたが、そのメンバー企業がかなり驚きであった(Photo05)。AMDは当然であるが、それとは別にARMおよびImagination TechnologiesというCPU/GPUのIPを提供する企業に加え、MediaTekとTIが参画しているのは、ちょっと予想できなかった。

Photo04: それぞれのポジションでどんな事が可能か、はこちらを参照のこと。現時点ではFounderおよびAcademicはInvitation Only(招待のみ)になっているが、それ以外のポジションに関しては原則としてどんな企業でも参画可能とされている。

Photo05: 現在はこの5社がFounderのポジションに着いた。各々の氏名は、単に説明を行った人という意味で、ここに名前が挙がった人がそのままHSA Foundationにおける各社代表という訳ではない(AMDのManju Hedge、ARMのJem Davis、TIのMatthew Lockeの3人はHSA FoundationのBoard of Directorsに名前を連ねているが)。

このうちARMとImagination Technologiesに関しては、説明は容易である。例えばARMはCortex-Aシリーズの高性能CPUコアに加えて、ARM Mali-400ファミリーというGPUコアをすでにリリースしており、さらにARM Mali T600ファミリーも既に発表済である。特にMali T600ファミリーはGPGPU的な使い方を強く意識したIPコアであるが、このCortex-AシリーズとMali GPUの連動に関しては、単に業界標準であるOpenCLと、DirectComputeをサポートするという以上のソフトウェア的な何かは用意されていない。また、Mali T600シリーズは同社のCoreLink CCI-400とかDynamic Memory ControllerのDMC-400といったInterconnet/Memory Controllerと組み合わせることでCache Coherencyを保つことが可能であるが、ハードウェア的にはともかくソフトウェア的にこれを利用するための環境が現時点では皆無である。HSAを利用することで、このソフトウェア環境が整備されるのであれば同社としては願ったり適ったりである。

もっとも会場でARMのJem Davies氏(Photo06)が示したプレゼンテーションは、もう少し穏当な内容であった(Photo07)。より高い負荷の処理を行う、あるいは現在の処理をよりエネルギー効率よく処理するためにはHeterogenenous構成は必須であり、こうしたことに向けてHSAに参画を決めた、というものであった。

Photo06: ARMのJem Davies氏(Fellow and Vice President of Technology, Media Processing)。

Photo07: 続くImagination TechnologyのKrishna Yarlagadda氏の内容も概ね同じで、やはりHigh PerformanceやPower EfficiencyやScalabilityにはGPUの活用が必須という話をプレゼンなしで説明された。

これはImagination Technologiesにとっても同じである。同社は現在携帯機器向けに圧倒的なマーケットシェアを握っている。今年3月に発表されたJPR(Jon Peddie Research)のレポートでは、Imagination TechnologiesのPowerVR系が全体の半分を占め、ついでQualcommが自社のGPUで市場の33.0%を取り、残った17%を他のGPUコアが分け合っているという状況である。Qualcommは他社にIPを供給していないので、純粋にGPU IPを提供しているベンダーとして考えれば、同社のPowerVRが占める比率は78.9%と圧倒的である。ただこうした状況に安穏としていられないのは、携帯機器においてもGPGPU的な使い方が近い将来やってくることが明確に見えているからで、現在の同社のシェアの殆どはGPGPU的な使い方に適さないPowerVR MBX世代の製品である。同社は既にGPGPU的な使い方に適したPowerVR 6の発表を行っているが、これを組み込むためのプラットフォームのIPを同社は持ち合わせていない。かといって、自社ですべてのIPを提供するのも同社の規模やリソースを考えれば不可能であり、それであれば標準技術に準拠した形でGPU IPを提供すれば、あとはやはりその標準技術に準拠したプラットフォームIPを組み合わせることで理論上はスムーズにGPGPU的な使い方が可能になる。

実のところGPGPUが本格的に普及し始めると、先ほどのシェアの割合はころっと変わる可能性がある。NVIDIAは自社のTegraシリーズにGoForceをベースとしたGPUを組み込んできていたが、元々がGeForceのサブセットなだけに、その気になれば本格的なGPUを組み込むことは可能だし、実際その方向で動いている。NVIDIAは既にCUDAというソフトウェアプラットフォームを持っており、必要ならばこれをMobile向けに投入するだろう。QualcommのAdrenoシリーズグラフィックは、元々はATIのImageon(もっと遡るとBitBoys OyのHammer)で、こちらはこちらで開発者ごと全部Qualcommが買収して開発を続けている、結構強力なGPUコアである。どちらのケースでもSoCの形でOne stopでSolutionが提供されており、これは単にハードウェアのみならずソフトウェアも含むものである。GPGPU世代で一番重要なのは、いかにソフトウェアの対応を進めるかであり、One stop Solutionはこうした場合(特にサポートの観点で)Multi IP VendoeのSoCよりも有利である。したがってImagination Technologyはこうしたベンダーと戦ってゆくためには、単に高性能なGPUコアだけでなくソフトウェアを書きやすいプラットフォームも充実させないと、ソフトウェアの対応が遅れる事になり、これが理由でシェアを奪われかねない。なのでHSA Foundationに加盟するのはあるいみごく自然な流れである。