2010年11月11日、ARMは都内にてARM Forum 2010を開催すると共に、同日発表を行った新しいグラフィックコアであるARM Mali T604に関する記者発表会を行った。そこでARM Forum 2010の基調講演の内容と、Mali T604に関する若干の詳細についてまとめてレポートしたいと思う。

ARM Forum 2010基調講演

毎年ARM Developer Forumなどという名称で開催されているARM主催のイベントだが、今年はARM Connected Comunity Technical Symposiaと銘打ち、10月21日のフランスを皮切りに日本・インド(3カ所)、韓国、台湾(2カ所)、中国(3カ所)で開催されることになっている。これに沿う形で、名称も今年はARM Forum 2010として開催された。

セッションは午前中が基調講演、午後が複数トラックに分散して並行して合計31+α(パートナー企業のセッション)のセッションが実施された。参加人数はかなり多く、午前の基調講演では会場に入りきれず、他の部屋でビデオで視聴した参加者も居たほどだったそうだ。

さて基調講演であるが、まず日本法人アームの西嶋社長の挨拶に続き、ARMのCOOを勤めるGraham Budd氏のキーノート、続いて東京大学大学院情報学環教授でYRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長の坂村健氏による特別講演、最後にARMによるCortex-A15に関する特別講演という4本立てとなっている。ただこの最後の特別講演と同じタイミングで後述するMali T604の記者発表会が別室で行われた関係で、レポートは最初の3つについてのみとなる事をご容赦いただきたい。

まず挨拶にたった西嶋貴史氏(Photo02)は、まず2005年~2009年の主要な出来事をざっとおさらいした後に今年の主なARM関連のニュースを紹介(Photo03)。ここ4四半期の合計出荷コア数は55億個に達しており(Photo04)、「5年前に15億個を達成したとき、2010年には3倍の45億個を目指すと言明したが、実際にはこれを超える数字を達成できた」と昨今の状況を報告。ではこの先はどうなるのか、については続くBudd氏の講演で紹介すると挨拶を締めくくった。

Photo02:アーム代表取締役社長の西嶋貴史氏。今回は品川駅そばの東京コンファレンスセンター・品川を使っての開催だったが、西嶋氏によれば「申し込みをされた人のうち、実際に来られた方が非常に多くて会場が溢れてしまった」とかで、来年以降は場所を考えないといけない、とか

Photo03:今年は主要なメーカーが相次いでCortex-MをMCU向けに採用を決めた年だったといえよう。この表には漏れているが、NXPはCortex-M4とCortex-M0のDual CPU構成の化け物MCUを発表するなど、一体何が起きているのだ?と思うほどに各社が雪崩を打ってCortex-Mを採用した年として記憶されそうだ

Photo04:リーマンショックで2009年あたりに大きく落ち込んだものの、そのあと急激に回復しており、全体としてはほぼ一定の率で出荷数が増えていることが見て取れる

続いてGraham Budd氏(Photo05)が登壇、今後のマーケットについての見通しをまず語った。まず冒頭、2020年では世界中で1000億個のデバイスがInternetに接続される(Photo06)見通しだとした上で、Internetがもっと一般に利用されるようになるとして

  • Internetに接続されるスクリーン(例えばデジタルサイネージの類)は2014年に30億台
  • Embedded Device(HDDや3Gモデムなど)は2014年に100億個
  • 洗濯機など白物家電や玩具、自動車など幅広い用途向けの低価格MCUが2014年に160億個

といった数字が予測されていることを公開し、ARMにとっても大きなマーケットが今後展開してゆくことを説明した(Photo07)。

Photo05:英ARM HoldingのCOOを務めるGraham Budd氏

Photo06:大雑把に10年で1桁ずつ、Internetに接続されるデバイスが増えてゆくという構図になる

Photo07:ポイントになるのは左上の小さなグラフ。マーケット自体は2020年に1000億個になるとして、ここ数年は毎年3%程度マーケットにおけるシェアが伸びつつある。このシェアの伸びが仮に一定に保てれば、2020年には全体の半分以上をARMアーキテクチャが占めることになり、出荷量は600億個近い計算になる。つまり現在の10倍の規模だ

ここから氏の話は一転、昨今のアーキテクチャトレンドに話が移行した。現在のマーケットで、一番重要視されることはまず低消費電力であると説明した上で(Photo08)、元々ARMは省電力向けにプロセッサをリリースしており、省電力に関するノウハウの蓄積があるとした。加えて、昨今では様々な機能が幅広い分野に利用されるため、ソフトウェア資源の再利用が開発コスト低減やTAT短縮には必須であり、逆にCPUの側にはスケーラビリティが求められると説明し、ARMはスケーラビリティのある製品ラインナップを展開してゆくことを紹介した(Photo09)。

Photo08:従来は携帯機器のみが消費電力を気にしていたが、最近では電力コストがずっと上がっており、単に携帯機器のみならずもっと大きなシステムでも省電力化がずっと重要視される、と説明

Photo09:例えばネットワークゲートウェイであれば、ハイエンドのコアルータには最大16プロセッサ構成のCortex-A15が、ローエンドにはCortex-A5がそれぞれ利用でき、しかも同じソフトウェアを再利用できると説明した

ここから2014年における、もう少し詳細なマーケット分析が行われた。まず携帯電話の分野では、合計44億5000万台に達するという見通しが語られており(Photo10)、このマーケットに向けてARMはCognovoとHeronという2種類のソリューションを今後投入することを明らかにした(Photo11)。一方携帯のもう少し上、これまで同社がSmartBookなどと称してきたマーケットは案外に多くなく、8億台程度という見通しが述べられた(Photo12)。意外に多いのはConnected Carの分野(Photo13)であるが、こちらも大半はMicroControllerという話である。この車向けと同等の規模になるのがインフラ向けである(Photo14)。ここは堅調な数字、といえそうだ。

Photo10:44.5億台の大半をスマートフォンが占める、というのもなかなかな感じである

Photo11:HeronはCortex-R4の後継となる新しいMCUコアである。一方CognovoはBudd氏によれば「SoftwareとHardware両方から構成されるもの」ということで、新しいDSPコア+その上のミドルウェアといった形になるのではないかと思われる

Photo12:もっともこれは分類をどうするか、で簡単に数字が変わるのは事実。iPadは携帯電話に入らないが、ではGalaxy Tabは?とか5inchクラスのTabletは?とかなると、どっちに分類するかは微妙な感じだ。10inch以上のものをMobile Computingと定義するなら、まぁ台数はこんなところだろう、という気はするが

Photo13:今も自動車には沢山のMCUが搭載されており、2014年の20億個は堅い(これも車種によって差があるが、多いものは100個以上のMCUを既に搭載している)数字であろう。一方Connected Carが7000万になるのは、多いとみるべきか少ないと見るべきか。1台のConnected Carでは複数個のMCUが追加されることを考えると、1000万台弱あたりの規模であろうか?意外に少ない気がする

Photo14:これらは従来も広く使われてきた分野で、引き続き需要は堅調に伸びてゆくということだろう

Home EntertainmentではDTVやSTB向けに7億個、DSC/DVC向けに2億個の合計9億個が予想されており(Photo15)、むしろSmart Home向けの方が遥かに大きくなっている(Photo16)。

Photo15:DTV/STB/DSC(デジタルスチルカメラ)/DVC(デジタルビデオカメラ)は何れも既に複数のMCUを搭載しており、これらは生産台数に比例する形で数が出てくる。先進諸国では既にある程度飽和状態にあり、2014年のこの数字の大半は新興諸国向け、という事かもしれない

Photo16:ここにはスマートグリッドのコンポーネント向けなども当然含まれることになる。今後はこのマーケットがかなり大きくなるだろう、というのは様々なところで予測されている

ここで氏の講演は最後の節に入った。先ずはこうした新しいデマンド(特にSmart Home向け)では安全性が非常に重要であるとし、ここのソリューションとしてARMのTrustZoneをはじめパートナー企業のソリューションがあると紹介。さらにARMのエコシステムに触れて多くのパートナー企業による様々なソリューションを紹介した後に、ARM自身の拡張として先日発表されたCortex-A15の紹介(Photo17)があった後に、同日新発表であるMali T604の紹介が行われて(Photo18)、氏の講演は終了した。

Photo17:Cortex-A15の詳細そのものは、今回レポートから外した4つ目の特別講演で行われた

Photo18:Mali T604の詳細は後述