園子温監督

漫画家・古谷実の同名コミックを実写映像化した、映画『ヒミズ』の園子温監督に話を聞いた。初の原作ものに挑戦した園監督は、自身と主人公・住田との間にある、驚くべき繋がりを教えてくれた。

本作は、家庭環境に問題を抱える住田(染谷将太)と茶沢(二階堂ふみ)が、絶望的状況下の日本で希望を見出すまでを描く青春ドラマ。映画製作準備期間中の2011年3月11日に東日本大震災が発生したことから、園監督は脚本を大幅に変更。物語の舞台を、原作が描かれた2001年から2011年の震災後日本に設定した。第68回ヴェネツィア国際映画祭では、染谷と二階堂が最優秀新人俳優賞に当たる「マルチェロ・マストロヤンニ賞」を受賞するなど、海外でも高い評価を得ている。

映画『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『恋の罪』とコンスタントに強度あるオリジナル作品を手がけてきたが、本作は自身初となる原作ものにチャレンジ。しかし舞台設定は大きく異なり、震災を盛り込んだ。園監督は漫画「ヒミズ」を選んだ理由について「当時の若者のリアルが描けていたから」と話すが、大胆な脚色の意図を「この時代に震災を無視して2001年の現実を描いたって意味がないし、3月11日の震災を盛り込まなければ、現代の若者のリアルを描くことができないと思ったから」と説明する。漫画原作の映画化が相次ぐ近年の邦画界。しかし園監督は「漫画原作で失敗している映画の多くは、原作ファンを意識したコスプレ大会に成り下がっている。原作と映画は独立したものであると考えるべきだし、原作に宿る魂を再現しなければいけない」とそれら流行りとは一線を画す構えだ。

2011年の若者のリアルにこだわった

育児放棄する母親と、暴力的で息子の存在を全否定する父親の間で育った住田は、閉塞感漂う現代の中にいて、どこか達観しているような存在。そんな彼にクラスメートの茶沢やホームレスたちは惹かれていく。この住田の"達観"という部分に、園監督の幼少期との繋がりを見ることができる。なんでも園監督は、幼少期から"実験"と称して、常人には決して真似できないチャレンジを行ってきたらしい。「小学生時代は、なぜ洋服を着なければいけないのかわからず、"実験"と称して全裸で登校して先生に怒られるような子ども」だったそうで、「ならばアソコを出すだけならば問題ないだろうと、しばらくアソコを出したまま授業を受けていました」と"実験"の日々を振り返る。全力で小学生時代を駆け抜けたことから、「住田と同じ歳のころはすでに余生だと思って、爺さんみたいな友達と遊んでいましたね。中学3年生くらいで心臓麻痺で死ぬと本気で思っていましたから」と達観ぶりを語った。

試写会で観た人々の多くが主演2人の演技を絶賛している

現在は映像製作という行為自体が"実験"になったという園監督は「テレビドラマ『時効警察』は、お茶の間で自分がどれくらいのことができるのかという"実験"だったし、原作ものをやったことがないから、今回トライしたというのも"実験"の一つ」と話す。本作を撮り終えて「実際に被災地で撮影したことによって、今後3月11日をテーマにした作品を何本か撮らなければという気持ちが強くなりました。今回で"はい、終わり"ということではダメな気がして」……そう断言する園監督の今後に期待したい。

映画『ヒミズ』は2012年1月14日より、新宿バルト9、シネクイントほかにて全国公開

PROFILE

その・しおん

1987年『男の花道』でPFFグランプリを受賞。『自殺サークル』(2002)、『奇妙なサーカス』(2005)、『ちゃんと伝える』(2009)など衝撃作を次々発表し、『愛のむきだし』(2009)で第59回ベルリン国際映画祭で「国際批評家連盟賞」「カリガリ賞」を受賞した。テレビドラマ『時効警察』(テレビ朝日系)シリーズにも脚本・演出で参加。近年では『冷たい熱帯魚』(2010)、『恋の罪』(2011)などで話題をさらう