【レポート】

投資信託の常識を覆す - 口コミで話題の「鎌倉投信」が教える「本当にいい会社」の定義

 

投資信託は、高い収益を期待して行うもの──。そんな「常識」を否定しながら独自の金融商品を提案し、高い評価を得ている鎌倉投信。宣伝はしていないのにもかかわらず、個人投資家は着実に増え続けている。それはなぜなのか? 鎌倉投信が目指すものとは? 代表取締役社長の鎌田恭幸(やすゆき)氏に訊いた。

なぜ社屋は鎌倉の古民家なのか?

鶴岡八幡宮、三の鳥居の前から東へ歩いておよそ10分、閑静な住宅街の奥に築80年の古民家が現れる。ここが鎌倉投信の社屋だ。なぜ鎌倉に、しかも古民家を会社の建物に決めたのか?

鎌倉投信の社屋。ここだけ、ゆったりと時間が流れているような雰囲気だ

鎌田氏は、日系や外資系の信託銀行で、20年以上にわたって資産運用を担当してきた。だが、2000年以降、より短期的な利益を得ようとする金融業界は長続きしないと感じる。一時はNPO活動にも目を向けたが、金融が健全にまわらないと社会がおかしくなってしまうと考え、2008年1月に退社。拙速な経営に疑問を抱いていた仲間3人とともに、同年11月、鎌倉投信を設立した。

「みんなで話をしていて、東京でやりたいという考えは誰も持っていませんでしたし、駅ビルという発想もなかったですね」と鎌田氏は話す。というのも、創業者仲間で辿り着いた結論が、次のようなものだったからだ。

一、「無期限の投資信託」を通じて長期的な視野に立った資産形成と社会の持続的な発展に貢献する
一、不特定多数の方が少額から参加できる「公募型」を通じて何万人という多くの人に関心を持っていただく
一、顔の見える「直接販売」を通じて、鎌倉投信、投資家、投資先の会社の3者が信頼で結ばれる関係性をつくる

そのような目標を掲げた会社に鎌倉はふさわしい場所だった。「自然に恵まれ、伝統文化が継承されている場であるとともに、日本で初めてナショナルトラストが生み出された革新的な気風のある場でもあり、私たちの思想信条にぴったりだと思いました」。

「結い2101」は過去1年の実績で2位に

「投資は"まごころ"であり、金融とは"まごころの循環"である」が、鎌倉投信の投資哲学だと鎌田氏は語った

鎌倉投信は、投資信託「結い2101」の運用販売を2010年3月に開始した。商品名には、22世紀に向かって「人と人、世代と世代を“結ぶ”豊かな社会」を創造したいという想いが込められている。これからの社会に本当に必要とされる会社に、長期的に投資していく商品であり、短期間に高い収益を期待する人向けの商品とは一線を画している。

現在、投資家は930人で運用資金は6億円弱。投資家は0歳から80歳代まで幅広いが、中心は40代から50代にかけてのビジネスパーソンや主婦などが中心。自分の所得に応じて無理なく積み立てている人が6割ほど。今のところ、長期的目標で掲げている年率プラス4パーセント(信託報酬控除後)を達成しながら順調に運営されている。特に宣伝は行っておらず、口コミやソーシャルメディアで投資家数は増え続けているという。

鎌倉投信では、「投資の果実」を「資産形成」「社会形成(投資が育む豊かな社会の創造)」「豊かなこころの形成(投資家の満足度)」が掛け合わされたものと考えている。

「単なる資産形成だけではなく、鎌倉投信の志に共感してもらうこと、日本をよくする会社に共感してもらうことが重要です。実際に、会社の見学にも出かけます。また、直接販売のよさは、顔が見えるところ。互いに信頼感を持つことができますし、手数料も安くすみます」。

今年5月18日付日本経済新聞、朝刊マーケット欄「まちかど」によれば、格付投資情報センターの4月末の集計で、国内株アクティブ投信の過去1年の実績で「結い2101」は2位だったという。

応接室はさりげなく飾られていて、とても落ち着く

オフィスのある奥の廊下は、どこかの高級旅館を思わせる風情が漂っている

「いい会社」とは規模の大小に関係なし

庭の眺めも楽しむことができて、こころが和む

資金を価値あるものにするため、安くなったところで投資するという方法は、震災後も変えていない。震災直後の月曜日3月14日は様子を見たものの、15日、16日と投資額を増やした。

「投資家はふつう、マーケットが下がると売ってしまうものですが、鎌倉投信のお客様で解約する人はおらず、お金を入れてくれるので、投資先に対し資金の安定供給ができます」。震災後も、鎌倉投信の投資家数はさらに増え続けている。

ところで、「いい会社」とは、どのような会社なのか、またどのように見つけるのか? 「鎌倉投信で選んでいる『いい会社』は、結果として、比較的小さなところが多いですね。規模の大小は関係ありません」。

取材で訪ねたのは、ちょうどあじさいの季節。庭の片隅に可憐な花が咲いていた

こんなのんびりとした、人間的な環境に恵まれていてうらやましく感じた

鎌倉投信では、これから必要とされる「いい会社」を3つのキーワードで考えている。それは「人」「共生」「匠」。人財を活かせる企業、循環型社会を創造する企業、そして、日本の匠な技術・優れた企業文化を持ち、感動的なサービスを提供する企業である。

裏庭では野菜なども育てられている。山の一部も会社の所有だ

「口コミで情報を得ることも多く、投資先がはずれだと感じたことは少ないです。また『いい会社』の社長に『いい会社』を教えてもらうこともよくあります。現場では、社長だけでなく、会社のいろいろな人に話を聞きます。そうすることで、本当の会社の姿が理解できます。財務諸表では見えない価値が、会社の本当の価値なのです」。

日本は、構造的にさまざまな課題が山積しているが、「今だからこそ、構造的課題を克服してビジネスチャンスをつくれる会社が『いい会社』」だと鎌田氏は強調した。

鎌倉投信を立ち上げようとしていたとき、周囲からは「うまくいくはずがない」と反対されたと鎌田氏は語っていた。だが、業界の常識に反して始めた鎌倉投信に、投資家や企業からは注目が集まっている。鎌田氏の話を聞いていると、少しずつではあるが、着実に日本社会の何かが変わり始めていると感じた。

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