電子書籍は4番目のエンターテインメントビジネス

既報のとおり、ソニーは電子書籍端末「Reader」の日本語版を12月10日から発売し、同時に電子書籍配信「Reader Store」をスタートする。スタート時には2万冊の電子書籍を用意し、電子書籍の新刊は毎週追加していく。

リーダーを手に取る米Sony Electronicsのシニアシニア・バイス・プレジデント野口不二夫氏(写真右)。左はソニーマーケティング代表取締役社長の栗田伸樹氏

今回発売される端末は、E Inkの電子ペーパーを採用した5型ディスプレイ搭載「Reader Pocket Edition(リーダーポケットエディション) PRS-350」と6型ディスプレイ搭載の「Reader Touch Edition(リーダータッチエディション) PRS-650」の2種類。価格はオープンプライスだが、実売想定価格はそれぞれ20,000円前後、25,000円前後となっている。

5型の「Reader Pocket Edition(リーダーポケットエディション) PRS-350」(左)と6型の「Reader Touch Edition(リーダータッチエディション) PRS-650」

ソニーは、エンターテインメントビジネスとして音楽、映像、ゲームという3種類の事業を日本で展開しているが、今回、4番目のエンターテインメントとして電子書籍を開始する。

同社自身はすでに米国を始め13カ国で電子書籍事業をスタートさせており、日本は14カ国目の市場となる。ただ、ソニー自身は1990年に発売した「データディスクマン DD-1」を電子書籍事業の端緒としており、2004年発売の「LIBRIe(リブリエ)」で電子ペーパーを使った電子書籍端末を日本でリリースしている。

すでに欧米を中心に13カ国でサービスを展開中。「(専用端末の)競合他社でここまでサービスを広げているところはない」(野口氏)

データディスクマン以来、長年電子書籍ビジネスを展開してきたソニー

日本では電子書籍の専用端末よりも携帯電話向けの電子書籍が一般化し、市場が成熟しなかったため、国内市場からは撤退したソニーだが、その後2006年に米国で今回の専用端末となる「Reader」を発売し、海外での市場は順調に拡大していった。「LIBRIeがあったからこそ今のソニーリーダーがあり、他社の電子ペーパー搭載端末も世に出たと考えている」(米Sony Electronicsシニア・バイス・プレジデント野口不二夫氏)。

電子書籍ビジネスに対する3つの質問、その回答は?

リーダーを手に持つ野口氏

野口氏は、電子書籍ビジネスを進めていくにあたって、「3つの質問をよくされる」という。ひとつ目が、「電子書籍によって紙の書籍がなくなるのではないか」というもの。だが、北米の状況を見ると、従来の書籍の市場に電子書籍が上乗せされ、市場全体は大きくなっているそうだ。「電子書籍の登場で紙の書籍がなくなるのではなく、新しいバリューが乗っかる」(同)形で、2014年には全体の10%が電子書籍になると予測されているという。

続いての質問は、今回のReaderのような電子書籍専用端末に対して、iPadのような電子書籍以外にもさまざまな用途で利用できる汎用端末があり、こうした汎用端末があれば専用端末はいらないのではないか、というもの。確かに汎用端末の販売台数は急激に伸びていくが、電子書籍の購入の割合は専用端末の方が大きいという。専用端末自身、汎用端末ほどではないが今度も販売は伸び続け、電子書籍などのコンテンツ利用量は、2014年には汎用端末の5倍にも達すると予測されている。「(出版社などの)コンテンツサイドから見ると、専用端末は大変重要な商品」(同)という位置づけだ。

米国では、電子書籍の登場で全体の市場が伸びている

汎用端末の方が出荷台数は多くなるが、コンテンツの購入は専用端末の方が伸びるという予測

デジタル技術によってビジネスモデルが変化するのではないか──これが3番目の疑問。野口氏は「大きく変わる」と指摘する。例としてカメラ市場が紹介された。デジタルカメラの登場でフィルムからメモリカードへ、DPEから家庭用プリンタへなどという変化に対し、レンズなどの光学技術や撮影ノウハウなどは変わらず、インターネットでの画像共有やデジタルフォトフレームなどの新しいユーザー体験が創造された、と話す。

家庭用プリンタの登場で客足の減ったDPEショップでは、高画質プリントを行うというビジネスによって「最近は若い人が増えた」(同)。DPEショップではデジタルをマイナス面で見ていたが、新しいビジネスチャンスとしてうまくとらえていると野口氏は指摘。「ここにヒントがあるのではないか」と語る。

野口氏は、電子書籍ビジネスでいつも心がけていることがあるそうだ。電子書籍は、「(活版印刷を発明した)グーテンベルク以来の大きな変化」(同)であり、日本の文化を世界に発信し、そして後世へと伝えていくことが大事ということだという。さらに電子書籍は、地域の文化性と密接に結びついていて、それを尊重しなければならないが、グローバルの展開も考えなければならないという点も重要で、その上でオープンな戦略を重視する。

このオープンな戦略では、フォーマットやDRM、プラットフォーム、アライアンスなどをオープンにする意向だ。フォーマットでは、国内向けにXMDFを採用するが、ドットブックやEPUB 3.0も順次サポートをしていくことで、幅広くカバーする。

通信機能搭載Readerの国内展開も視野に

プラットフォームに関しては、オープンなプラットフォームであり、ソニーやKDDIらが参加するブックリスタと一緒にサービスを行っていく。野口氏は、ほかの出版社などの書籍の配信に関してはまだ交渉中としており、今後のラインナップに関しては、当面はブックリスタからの配信になる見込みだ。

リーダーに保存できる電子書籍は約1,400冊で、実際に並べるとこれだけの量になる。ここにある書籍は、すべてリーダーストアから購入できる書籍

サービス開始時の2万点のラインナップに関して野口氏は、まずは人気のラインナップをそろえ、文芸書からビジネス書まで幅広い書籍を集めたとしている。「米国でもユーザーが購入する書籍の8割が、出版されているうちの1~2割」(同)であり、ユーザーに求められている書籍を集めることが重要との認識だ。とはいえ、今後もラインナップの充実は「時間をかけて行っていく」(同)考え。

ただし、現時点ではまだ書籍の価格などは明らかにされておらず、書籍を購入した後、何台の端末に転送できるか、再ダウンロードはできるかといった機能に関してもサービス開始時に明らかにするとしている。

なお、Readerは、海外では携帯電話、無線LANを内蔵したモデルも発売されているが、今回発表された2製品は無線通信機能は搭載していない。PCにUSB接続して、転送ソフトを使って電子書籍を転送する形だ。野口氏は、まずはサービススタートすることを優先したためで、今後は無線通信内蔵端末の発売も検討していくとしている。

特に米国では、3Gの通信料金をソニーが負担してコンテンツで回収する仕組みもあるが、野口氏は日米のビジネスモデルの違いを挙げながら、今後の検討課題としている。

年配者にこそ必要な電子書籍端末

野口氏は、米国のユーザーは50代以上が半数以上を占めている点を挙げ、「特に日本だと、こういった新製品は若い人が求めていると思われがちだが、本当に必要なのは年配の方」という認識を示す。最大の理由は「文字サイズが変更できるから」(同)。日本でも「本は好きだけど年齢に従って(視力が衰えて)本が読みづらくなった」という人々に求められるコンテンツを集め、いかに使いやすく、分かりやすく、シンプルに提供するか、というのがポイントだと話す。

Readerに関してソニーマーケティング代表取締役社長の栗田伸樹氏は、1年で30万台の販売を目指すとコメント。専用端末は12年で100万台以上になると見込んでおり、50%程度のシェア獲得を目指していくという。米国に関して野口氏は、2009年は専用端末で30~35%のシェアだったものの、今年は新規参入もあり、シェアは減少しているという。

野口氏は、電子書籍の普及には「分かりやすさ」が重要だと話す。一方で日本の電子書籍市場はファイルフォーマットやDRMを含めて「これほど複雑な国はほかにない」(同)とし、ユーザーの視点から分かりやすいビジネスを構築していく必要性を訴えている。