『国立天文台三鷹図書室』は、東京都三鷹市にある国立天文台内の施設だ。国立天文台の歴史は古く100年以上前に遡る。1888年(明治21年)、明治政府により港区麻布に東京天文台が設置され、大正に入ると三鷹へ移転した。その後、改組転換を経て1988年に大学共同利用機関として「国立天文台」が発足、そして2004年に文部科学省直属から大学共同利用機関法人自然科学研究機構となった。一般の人がこの「三鷹図書室」を利用できるようになったのはこの後からだ。所蔵資料は、国内・ハワイの観測所所蔵のものも合わせると約10万冊(一般に公開されていないものも含む)にのぼるという。

幹線道路と住宅街に囲まれた敷地には、武蔵野らしい雑木林が残っている

図書室のある南棟。写真右手の一番奥が一般用の入口になっている

"プロ仕様"の専門図書室、入門者も歓迎

三鷹図書室を訪れるのは、やはり調べ物に来るアマチュアの天文ファンが多いという。アマチュアと言っても"マイ天文台"を構えて観測を行い、小惑星を発見したり、天体についての著書があるという専門家並みの人もいる。このほか、昨年同天文台の敷地内に「三鷹市星と森と絵本の家」がオープンした影響で、親子連れの姿も増えているそうだ。

外部の来室者は建物北側の一般用入り口から、受付で氏名を記入して入室する。利用者登録などはとくに必要ない。3フロアある書庫のうち、専門資料や星図・貴重書などが保管されている2~3階は天文台内の職員向け。来室者が入れるのは1階の書庫・閲覧室のみだが、2~3階の本も一部のものは受付で申請すれば閲覧が可能だ。蔵書は研究者向け専門書が中心、一部には研究者が書いた入門書や読み物、ビジュアル中心の本など、一般の人が読みやすいものも置かれている。

一般来室者の入り口。書庫内には閲覧用のデスクやテーブルが設置されている

蔵書の多くは研究者向けの専門書。一般向けに読みやすい本を集めたコーナー「星空ブックフェア@三鷹図書室」が設けられていた

ここでは外部への貸し出しは行われておらず、室内での閲覧のみ。訪れた時間内でボリュームのある本を読み切るのは少々難しい、ということで、手軽な読み物や、写真中心の見て楽しめる本などの人気が高いようだ。また、映像などの視聴覚資料も室内で利用できる。国立天文台制作の映像資料や「NHKスペシャル」の天文・宇宙関連の番組、NASA作成の映像などを視聴できる。

「デイビッド・マリンの驚異の大宇宙」(デイビッド・マリン 著)。著者が23年をかけて撮影した天体写真の数々を収録。規格サイズの本とは格段に違う迫力を楽しめる

左上はA4サイズを三つ折りにしたパンフレット。本の大きさがわかるだろうか

「天文学教科書」(アピアヌス 著)。16世紀にドイツで発行された本のレプリカ。黄道12星座と天体の動きを示す(らしい)円盤を回せる仕組み

後世に記された解説書がセットになっている。この本は受付に申請すれば閲覧が可能だ

新着雑誌のコーナー。天文だけでなく、数学、自然科学、コンピュータなどに関する雑誌が国内外から数多く揃えられている

国立天文台出版物の棚。月刊の「国立天文台ニュース」や年報を始め、プロジェクトの研究成果報告書、シンポジウムの記録などが発行されている

なお、同室では一般的な蔵書の分類法を用いず、独自の分類を行っている。項目は大きく「天文学・宇宙科学」「地球科学」「数学」「物理学」「自然科学・工学」「その他」の6分野に分けられ、このうち天文学・宇宙科学の分野は、天文学概論、天文学史、暦法・暦時、太陽系、星雲星団、宇宙開発・宇宙工学など41もの項目から成る。一口に天文学と言ってもその研究分野の幅広さが伺える。また、現代の宇宙研究では宇宙の姿を解き明かすために数学や物理学方面からのアプローチが行われていることから、これらの資料も多く収蔵されている。……次のページへ