ある日突然、無人島に漂着したヒロイン・清子を待ち受けていたのは、23人の男たちとの奇妙で過酷なサバイバル生活だった――。8月28日(土)から公開される映画『東京島』で、主人公の清子を演じている木村多江に話を聞いた。

1971年3月16日生まれ。東京都出身。A型。舞台を中心に女優として活躍した後、1996年よりドラマ・映画にも出演し始め、フジテレビ系ドラマ『リング~最終章~』(1999年)、『らせん』(1999年)で山村貞子役を演じ、注目を集める。2008年、初主演映画『ぐるりのこと。』では、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した。現在は、ドラマ『ホタルノヒカリ2』(日本テレビ系)に出演中。特技は玉乗り、日本舞踊(名取)。

――まず最初に、木村さんから見て清子という女性はどのように映りましたか?

木村 : 「私自身は清子とは全然違うのですが、男性も女性も潜在的に彼女のような能力をもっていて、それを具現化したのが彼女なのではないかと、演じてみて感じましたね。人間って誰もが本来、ポジティブな行動力があって、自分に素直に自由に生きることが出来ると思うんです。普段、都会で生活していると閉塞感や孤独感を味わうことが多く、自由なんてないだろうと思いがちですけど、清子のように思い切って行動してしまえば、予測を裏切ることなんてたくさん起こるわけですし、そこにこそ自由があるということを感じられるのではないかと思います。この作品を通じて誰もが清子を体感することで、ちょっとだけ自分自身を解放して自由になってくれたら嬉しいですね」

――役づくりはどうやって進めていったのでしょうか。

木村 : 「普段は台本を読んで自分の頭の中で立体化・映像化して撮影に臨むのですが、今回はまったくそれが出来なかったんですよ。無人島で男性の中に女性が1人、というシチュエーションなんてまったく経験したことないですし(笑)。でも、清子という人物を息づかせるために、今回は自然も作品の一部と考え、自然と共存しながら私自身が現場でどう感じていくのかということを大切にしました」

――事前にキチンと演技を練るより、その場でどう感じるかを重要視したと。

木村 : 「はい。その一方で共演者の方々とは、スタッフが準備している撮影の合間に空いた時間でエチュード(※台本にない会話を行い、その役への理解を深めるための即興劇)的なやりとりを積極的に行いました。いきなりラブシーンをするよりも、2人がどうしてそうなったのか、どうしてそうするのか、という感情や行動をあらかじめ共有することで、より芝居が自然に出来るからです」

『東京島』STORY
桐野夏生の同名小説を映画化した作品。監督は篠崎誠。無人島に漂着した43歳の主婦・清子(木村)と、清子を取り巻く23人の男たち(窪塚洋介、福士誠治ほか)の奇妙な共同生活が始まるが、清子の夫・隆(鶴見辰吾)が謎の死を遂げたのをきっかけに、人間関係のバランスが崩れていく。

――物語が後半に進むにつれ、清子の持つ"強さ"が増していく印象を受けました。

木村 : 「清子については、演じてみて気づくことが多かったです。サバイバル能力の高い男性に本能的に近づいていくというのは現実の社会では突拍子もない行動かもしれませんけど、同じ女性としては共感できる部分はありました。清子はもともと逆境を楽しめるポジティブな力を持っていたと思うんです。でも、島に来る前には、自分が求められてないという悲しい現実がきっとあった。それが、無人島でいろいろなタイプの男性から求められていくことで許容量も広がり、やがて自分の足で立ち上がり、人生を切り開いて行く……。演じている私自身も、清子と同時に人間性が広がっていく感覚を体感できました」

――強引かもしれませんが、女優という職業も無人島でのサバイバルと似ているような気がしますが、いかがですか?

木村 : 「どうでしょう……清子ほど必死にサバイブしている感覚はないですけど(笑)、常にどこか自分の居場所を探して自由に泳ごうとしている、という点では彼女と同じかもしれませんね」……続きを読む