米AppleのiPadの3日発売以降、8日開催の説明会で同社CEOのSteve Jobs氏が45万台が販売されたニュースを伝える一方、供給力不足からiPadの米国外での発売が延期されるなど、比較的好調な滑り出しがうかがえる。現在業界アナリストや金融関係者が注目するのは、iPadが既存の電子書籍市場へと食い込み、その多目的性を武器にライバルらと競合していくかという点にある。

Apple iPadとSteve Jobs氏(撮影:Yoichi Yamashita)

電子書籍専用端末はiPad型の多目的端末に駆逐される

同件については米Bloomberg傘下の米BusinessWeekが、「IPad's Versatility Threatens to Sideline E-Readers」(iPadの多目的性が電子書籍リーダーを片隅に追いやる)というタイトルで報じている。米Amazon.comのKindleはWebブラウザなどの機能を搭載しているものの、その役割のほぼすべてが電子書籍閲覧用の専用端末だといって問題ない。

一方でiPadは用途を特定しておらず、Webアクセスからゲーム、仕事の作業まで、さまざまな用途にまんべんなく利用できる。電子書籍閲覧機能は、あくまでその1つに過ぎない。こうした理由により、やがて電子書籍専用端末はiPadなどの新型タブレットに市場を奪われ斜陽化していくというのがアナリストらの見解だ。

Needham & Co.のシニアアナリストCharlie Wolf氏は、Apple株を「買い」と推奨している人物だが、同氏は今年のKindleの販売台数目標を以前の360万台から250~300万台まで引き下げている。Wolf氏は「Kindleは魅力ある製品ではない」とし、動画再生なども可能なiPadのほうが魅力的だとその理由を説明している。同氏は2009年のKindle販売台数は220万ドルだったと予測している。

米Amazon.comの電子書籍リーダー「Kindle DX」

Piper JaffrayのアナリストGene Munster氏は、このAmazon.com株を「過大評価」と評しており、2010年のKindle販売予測を従来から40万台引き下げて345万台としている。Kindle最上位モデルの「Kindle DX」が489ドルで販売されているのに対し、より表現力の高いiPadの最廉価モデル(Wi-Fi版16GB)が499ドルで販売されており、わずか10ドルの差しかない。Munster氏は「正常な判断ができるなら、誰もKindle DXを買わないだろう」としている。

同氏を含むアナリストらの見解は、Amazon.comがKindleの大胆な値下げに踏み切るか、iPadのような機能を持つ新デバイスを発売しない限り、この市場で戦っていくのは厳しいというものだ。Piper Jaffrayは3日のiPad発売日にニューヨークと米ミネソタ州ミネアポリスのApple Storeに並んでいた448人の顧客を対象にしたアンケート調査で、回答者のうちの10%がiPad購入のためにKindle購入を断念したとコメントしている。また回答者の58%がすでにKindleを所持しており、iPad購入を機にKindle利用を止めると話していたという。

Munster氏は、現在259ドルの6インチスクリーンを持つ小型Kindleの値段を100ドルまで引き下げ、同時に9.7インチスクリーンのKindle DXも同様の手段を講じる必要があると提案している。「値段を下げれば生き残れるし、下げなければ生き続けられない」(Munster氏)。IDCのアナリストSusan Kevorkian氏も同様の見解を示しており、「カラースクリーンとハードウェアボタンをタッチスクリーン機能で置き換えたKindleが至急必要」とコメントしている。なお、Amazon.comはTouchcoというスタートアップ企業を買収しており、カラー表示とタッチ操作に対応した「スーパーKindle」の開発を進めていると言われている。

「Kindle」の戦略練り直しは必須

もっとも、すべてをiPad型端末にしろというのは極端な意見で、デバイス自体の多様性を否定するものだ。前述のMunster氏もAppleを過大評価気味のところがあり、先走った論評は実際の市場の反応と乖離する可能性がある。発売日のアンケートについても、iPadを並んでまで購入しようというユーザーであれば、iPad有利な結果が出るのはごく自然なことだろう。だが、iPadが電子書籍リーダー機能をセールスポイントの1つとして登場した以上、Amazon.com側もKindleの戦略練り直しは必須となる。