ロレックスが行う文化貢献事業に、『ロレックス メントー&プロトジェ アート・プログラム』がある。同プログラムの第4サイクルの視覚芸術の分野において、日本人で初めて、プロトジェ(生徒)として半田真規氏が選出された。半田氏がロンドンで行ったソロワークショップと、師であるレベッカ・ホルン氏らとの合同トークショーをレポートする。

半田真規氏が参加した合同トークショー(Copyright©Rolex/Hugo Glendinning Tate Modern,London,December 5,2009)

日本人初、視覚芸術の分野のプロトジェ(生徒)に

スイスの高級時計メーカーとして名高いロレックスは、2002年6月、芸術遺産の継承・促進を狙いとする「ロレックス メントー&プロトジェ アート・プログラム」を創設した。同プログラムは、製品PRなどとは離れたところで、文化への貢献を積極的に推進することを目的としている(※1)。

※1 「ロレックス メントー&プロトジェ アート・プログラム」の詳細はこちら

プログラムは2年ごとに実施され、第4サイクル(2008~2009年)では、視覚芸術の分野で日本から初のプロトジェ(生徒)として、日本で初めて半田真規氏が選ばれ、国内でも注目を集めた。半田氏のメントー(師匠)は、ドイツを代表する現代作家であるレベッカ・ホルン氏。ホルン氏の個展は現在、日本ロレックスが協賛し、東京都現代美術館で開催中だ(※2)。

※2 東京都現代美術館では、レベッカ・ホルン展「-静かな叛乱 鴉と鯨の対話」(日本ロレックス協賛 2010年2月14日まで)開催中。詳しくはこちら

半田氏は2008年、メントーであるホルン氏の住むベルリンに拠点を移し、アトリエ兼自宅で、「五感に基づくインスタレーション」を創作してきた。2009年12月5日には、ロンドンのテート・モダン美術館でソロのワークショップと、ホルン氏らとともにトークイベントを行い、同プログラムのフィナーレを飾った。

「遊びながら自己存在確認」ワークショップで哲学を提示

晴天から曇り空へ、そして雨。1時間ごとに天気が変わったロンドン。12月5日にテート・モダン美術館の7階で開催された半田氏のワークショップには、ロンドン在住でアートに親しむ、小さい子どもを連れたファミリーが参加した。

ソロワークショップには、ロンドン在住でアートに親しむ、小さい子どもを連れたファミリーが参加した(Copyright©Rolex/Hugo Glendinning Tate Modern,London,December 5,2009)

一般参加者に加え、世界各国から訪れた報道陣も加わった。ワークショップでは、半田氏が美術館内からかき集めたという、布製のひもやガムテープ、布テープ、駐車ブロック、レンガ、紙切れ、プラスティック片などを使ってオブジェを作り、これに懐中電灯を取り付けて灯台(光のポイント)を創作するというものだった。

半田真規氏(Copyright©Rolex/Hugo Glendinning Tate Modern,London,December 5,2009)

創作に当たっては、一切の制約がないため、参加者たちは自由にのびのびと独自性の高いオブジェを作った。幼児の感性を大切にしながら、一緒に寝転がってワークにいそしむ両親らの姿もあり、微笑ましかった。半田氏との質疑では厳しい表情を崩すことがなかった報道陣も、ワークショップ中は終始、笑顔を見せていたのが印象的だった。

ソロ・ワークを思い立った動機について半田氏は、「(重厚で権威ある)テート(・モダン美術館)で、軽いことがしたかった」と述べた。

続いて参加者たちに、「帰りにテムズ川の向こう岸からでも、自らの光を確認してください」と語りかけた。「自分の場所を確認することで安心を得る」ことが狙いだという。遊びながら自己存在確認を行うという、半田氏の哲学が感じられた瞬間だった。一人で過ごすことが多かったという半田氏が、内側における格闘の末に考えついたワークショップといえるかも知れない。

トークイベントで「ダイレクトに動くことの大切さを学んだ」

レベッカ・ホルン氏(Copyright©Rolex/Hugo Glendinning Tate Modern,London,December 5,2009)

また、同日夜には、テート・モダン美術館において、トークイベントが行われた。半田氏は、師であるレベッカ・ホルン氏との創作活動を振り返り、「彼女(ホルン氏)は迅速に行動し的確。ダイレクトに動く。以前から知っていたし、尊敬もしていたが、こうした点にも強く影響を受けた。1年間にわたり二人でいる時間が持てたが、逆に時間ではなくて、知覚が近づけたように感じる」と、二人のつながりが深まったと述べた。

ホルン氏は、「ベルリンに来たら、あなたはきっと私を訪ねてくるでしょう。これからも私たちはつながっていくが、あなたは日本に帰って変わる?」と半田氏に問いかけた。

これに対し半田氏は、「僕は日本人的な気質で閉じていて、お先真っ暗だと思っていたけど、いまは、お先真っ白という感じ。あまり変わっていない。けれどポジティブにならなければとは思う。ダイレクトに動くことの大切さを彼女から学んだ。いろいろ見たいという気持ちも強くなった。でも彼女がフラッシュバックのようで怖くなる。しかし彼女のセンスは素晴らしく本当に感謝している」などと切り返し、会場を盛り上げていた。