ライフネット生命保険代表取締役副社長の岩瀬大輔氏が著した『生命保険のカラクリ』が、非常に好調な売れ行きを示している。これまで難しいとされた生命保険の仕組みを分かりやすく説き、発売後1カ月で4回目の増刷が決定している。今回は、著者である岩瀬大輔ライフネット生命保険代表取締役副社長にお話を伺った。

――『生命保険のカラクリ』は「保険業界にはじめて足を踏み入れた一般人による、一般人のための『生命保険入門』である」と述べられておりますね。そうした「生命保険の入門書」を書かれるに至った経緯をお聞かせください。

大学在学中に司法試験合格。ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパンを経て、ハーバード経営大学院に留学し日本人では4人目となる上位5%の優秀な成績(べイカー・スカラー)を収め、卒業後、出口治明氏(現、ライフネット生命保険 代表取締役社長)に出会い、準備会社の設立に参画。 2009年より現職

岩瀬 : 私が初めて生命保険に加入したのは社会人2年目のことでした。当時、ライフプランナーの方から生命保険について何度も説明を受けましたが、何度聞いてもよく分からない。生命保険の仕事を始めて、いろいろと勉強していく中で、やっと「なるほど! こういうことか」と納得した訳です。そうした自分にとって「なるほど!」だったことを、ブログやメモに書き溜めておいたものを今回まとめました。一人でも多くの人に気軽に読んでほしいことから、新書という形で出させていただくことになりました。

――執筆に当たって心がけたことはありますか。

岩瀬 : 入門書ということで、生命保険について純粋に楽しんでもらえるようなトピックスを用意し、私の体験談を交えることで飽きずに読めるような構成を心がけました。また、生命保険業界に染まっていない人の意見も取り入れています。たとえば、生命保険の仕組みについて、当社のスタッフ3名に執筆途中の原稿を読んでもらいました。彼らが分かりにくいといった部分については、加筆・修正をしました。

――本書の特徴について教えてください。また、周囲の反応はいかがでしたか。

岩瀬 : 本書は一般に公開されているデータしか使っておりません。インターネットを経由すれば誰でも入手できる情報だけで執筆しました。生命保険について「当たり前」のことをまとめた本書ですが、ブログなどでも取り上げていただき、日本保険学会に所属する大学の先生からもお手紙を頂戴しました。その中には、教える身からも難しい保険を非常に分かりやすく伝えている、学生にぜひ勧めたいと書かれていました。

立花隆氏が『文藝春秋』で発表した『田中角栄研究~その金脈と人脈』は、田中角栄内閣を退陣に追い込みました。その原動力となった膨大な情報は新たに発見されたものではなく、既存の情報を再整理した結果だと言います。世の中を変えるのはそういう情報なのだと僕は思うのです。既存の情報を再構築しながら、生命保険に関するメリットとデメリットを公平・中立の立場から論じることで、生命保険を選択する上で参考にしてもらいたい本、それが本書です。

――本書では海外の生命保険業界について比較していますね。

岩瀬 : 出口(=出口治明ライフネット生命代表取締役社長)からよく言われるのは、物事の本質を知るならタテとヨコについて考えなければならないということです。ここでの「タテ」とは歴史、「ヨコ」とは海外のことです。ですから、本書でも生命保険の歴史、そして海外との比較について触れています。たとえば、販売チャネルについてですが、フランスは銀行や郵便局、イギリスは「IFA」と呼ばれるファイナンシャル・アドバイザー、アメリカは複数の保険会社の商品を取り扱う乗合代理店が主流です。主に一社専属の営業職員が生命保険を販売する日本は、海外から見ると独特に映ると言えましょう。このような比較を本書で行うことで、生命保険のあるべき姿が見えてくるのではないでしょうか。

――本書では生命保険を選ぶポイントなどにも触れられていますよね。それでは、そもそも生命保険に入るべきか悩まれている場合はどうしたらよいのでしょう。

岩瀬 : 万が一のことがあった場合、経済的なリスクや保障が必要になるのは、新入社員や独身より扶養家族がいる方ですよね。ですから、死亡保険は扶養家族がいる方の方がより必要で、新入社員や独身の方は要らないという見方ができます。ただし、病気になるとそもそも生命保険に加入できなくなってしまいますから、将来は生命保険に入ろうと思っている人なら若くて健康なうちに入った方がいい、とも言えるでしょう。医療保険でしたら、医療のリスクは誰にでもありますから、基本は貯蓄で備え、足りない部分は医療保険で賄うとよいと思います。

――本書では、生保業界の今後について書かれていますが、ネット生保は今後どうなっていくと思われますか。

岩瀬 : 私たちは、営業職員を持たずにインターネットを介して直接、商品をお届けする「ネット生保」という業態を選びました。ですが今後、生命保険の対面セールスが全て、インターネットに置き換えられることはないと思っています。

一方で、これからの生命保険において、商品と販売チャネルは分かりやすくなるべきです。たとえば、生命保険会社の手数料に当たる付加保険料が5倍違う会社があるとします。年間の生命保険料が、ネット生保のA社で1万2,000円、対面販売のB社で6万円かかる場合、10年経つと、その差額は48万円にも上ります。ここで重要なのは、48万多く支払って生命保険会社に相談料を支払うか、48万円を浮かせる代わりに自分で調べるのか。生命保険料に対していくらまで対価を支払うのか、それに尽きると思います。

そのためには、生命保険を選ぶ上で必要な材料を提示する必要があります。しかし、これまでは対面の営業セールスが主流であり、販売側の都合のよい情報しか提示されてきませんでした。これにより売り手と買い手の間に情報のギャップが生まれてしまいました。これは買い手にとっては非常にアンフェアなことです。

生命保険の加入者が支払う保険料はおよそ40兆円にも上ります。この1%が浮くだけで4,000億円の節約になる。そのためには生命保険の適正化が重要です。そして、お客様自身で生命保険を比較検討し、選択するための情報を提示していかなければなりません。

ライフネット生命保険は生命保険料の原価開示により、生命保険料の透明化・適正化に努めてまいりました。本書も生命保険料の透明化・適正化に貢献するものと考えております。

――どうもありがとうございました。