今年は"本当に"すばらしい出来に

「桁外れ」。11月10日に届いたフランス食品振興会からのメールマガジンでの、とあるワインを形容した言葉である。あまりの完璧さにこのような表現となったようだ。そう、そのワインとは11月19日0時に解禁となったボジョレー・ヌーヴォーのことである。毎年毎年「今年は上出来」なんて宣伝文句が流れたりはするのだが、「桁外れ」とまで言われれば、この口で確かめたくなるだろう。というわけで昨年と同様、今年も解禁日当日に、東京・南麻布のフランス大使館で行われた記者会見およびテイスティングに足を運んだ。

昨年に続き、A.O.Cボージョレー / ボジョレー・ヴィラージュ統制委員会会長のダニエル・ビュリア氏が来日していた。同氏自身もヴィニュロン(ワインの造り手)であるが、今回はボジョレーの長としてヌーヴォー2009のすばらしさをアピール。最初に口をついてでたのは、次のような言葉。

「エクセプショナル! 」
=例外的、桁はずれ(にすばらしい)

A.O.Cボージョレー / ボジョレー・ヴィラージュ統制委員会会長のダニエル・ビュリア氏

やはり、である。今年春から6月末にかけては雨の日が多くて湿度も高く、それによりブドウにしっかりと水分が蓄えられた。7月から収穫が終了する9月20日までは乾燥した日が続き、カビも発生しない完璧な衛生状態のブドウが収穫できたとのこと。その結果、骨格がしっかりとした中にもまろやかさとしなやかさをあわせ持ったワインに仕上がったといい、ヌーヴォーといえど半年や1年は軽く耐えうる酒質になったようだ。ビュリア氏は、「飲んでいて楽しくなるようなワイン」と手放しの喜びようだ。

日本にへの輸出量としては、2008年にはピークだった2004年の6割程度の約5万ヘクトリットル。それでも全世界中ではダントツの1位で、2位のアメリカの3倍、3位のドイツには4倍と前年と変わらない。

ズラリと60種以上が並んだ今年のヌーヴォー

ヌーヴォーじゃないボジョレーって?

話はヌーヴォーから少しそれるが、ボジョレーにはACボージョレー、ACボジョレー・ヴィラージュ、それにクリュ・ボジョレーがある。いずれもガメイという単一品種で造られているのだが、前者2つはヌーヴォーをはじめ比較的若飲みタイプのワインを生産する地域である。クリュ・ボジョレーは、サン・タムール、ジュリエナス、シェナス、ムーラ・ナ・ヴァン、フルーリー、シルーブル、モルゴン、レニエ、ブルイイ、コート・ド・ブルイイという10のクリュがあって、こちらは比較的長期熟成可能なワインを造っている(逆にこの地域は、ヌーヴォーを造ってはいけない)。このクリュ・ボージョレーのワインとヌーヴォーではないACボージョレー、ボージョレー・ヴィラージュのリリースは毎年復活祭の頃、3月終わりから4月にかけてになる。

もちろん、ヌーヴォーではないボジョレーもある

なので、毎年のヌーヴォーの出来がそれから約半年を経た春に発売されるヴィンテージの指針になることは言わずもがな、なのである。日本におけるボジョレー全体の内訳は、ヌーヴォーが85%、そうではない普通のボジョレーやクリュ・ボジョレーが残りたったの15%であることを考えると、2009年のヌーヴォーの大成功が、来春に発売されるその他のボジョレーの売り上げの起爆剤になるだろうと期待がかかっているのだ。ひいては、それらのワインは15年以上の熟成に耐えうる逸品として名を馳せる歴史的転機となるだろう、と生産者たちの希望は大きく膨らんでいる。

深く、パワフルな今年のヌーヴォー

グラスに注いだワインが今年のヌーヴォー

さて、その生産者たちが手放しで喜ぶほどの今年のヌーヴォーをテイスティングする時間が来た。確かに去年と比べると色調が濃い。特にボジョレー・ヴィラージュの中には通常の赤ワインのときに表現する「濃いルビー色」のものもあった。香りはヌーヴォーの特徴であるフルーティーさを出すための技術、MC(マセラシオン・カルボニック)で醸造されるわけだが、その蒸れた小豆のような独特の香り、グラスを回して空気に触れさせると次にはイチゴのようなチャーミングな香り、色調が濃いものになるとフランボワーズやスミレのような深い香りもある。

難しい年ほど造り手の手腕が問われて味にはバラつきがあるものだが、今年は当たり年。どれもストラクチャーがしっかりとしていてアロマがあり、一言で表現するなら「深い」味わいのものが多かった。特に共通しているのは、去年に比べて酸味が少なくアルコール度数も若干高めであるということ。

試飲後に鏡で自分の顔を見てみたら、通常ヌーヴォーでは考えられないくらいの色素が歯に沈着していて、ちょっとしたお歯黒状態になっていた。これには笑いつつ、驚いた。それくらいパワフルな今年のヌーヴォーは、造り手による味わいの大きな違いは感じられなかったが、あとは飲み手の好みの問題だ。デパートやワインショップの店頭試飲コーナーで実際に自分好みのワインを探してみて欲しい。そしてこんなすばらしいヴィンテージのヌーヴォーは、余力があるなら2本買ってみてもらいたい。1本はすぐ飲み、もう1本は少し我慢をして来年の今頃開けてみては? 保存状態にもよるので味の保障はできかねるが、ここはひとつビュリア会長の言葉を信じてみてはいかがだろう。

会場では、「レストラン タテル ヨシノ」による料理の数々が振舞われた

「ペットボトルのヌーヴォーは反対」

こんなすばらしい年のヌーヴォーだが、問題がないわけではない。ここにきて急速に増えたペットボトルでの販売である。結論から言うとビュリア氏は統制委員会としても1人のヴィニュロンとしても反対の立場をとっている。なぜならペットボトルは半年以上の熟成には耐えられないからだ。前述の通り、良いヴィンテージのヌーヴォーは半年でも1年でももつ。確かにコストやCO2削減という意味ではいつかはこんな事態になることは予想していただろうが、やはりワインの保存、伝統を守るという点においてガラス瓶は必須だという。これについては近いうちに、何かしらの措置がとられるとみられる。

フランスにはこんな言葉がある。

「コンヴィヴィアリテ」
≒美味しいものをみんなで分かち合いましょう

確かに厳しい経済状況やペットボトルの問題はあるが、「ボージョレー・ヌーヴォー解禁はお祭り、楽しいことはみんなで共有しましょう、これこそが我々の意とするところ」とラテン魂を垣間見るビュリア氏らしい発言であった。