川崎と木更津を結ぶ東京湾アクアラインが開通したのは、1997年12月18日。2007年11月23日には、10周年イベントとして「アクアライン探検隊」が実施され、予想以上の反響を呼んだ。この8月にも再び開催が決定し、募集が行われたが、計3日間のイベントに対して、定員計155名の約28倍にあたる約4,400名の応募 (募集はすでに終了)があった。

うち8月12日には、「2008サマーフェスティバル・イン・海ほたる」の一環として、千葉海上保安部の巡視艇「あわなみ」にも乗船できるという特典付きの「アクアライン探検隊・プレミアム」を実施。そのツアーに同行した。

安全対策を考えたアクアトンネルの構造の秘密

東京湾アクアトンネルは全長約9.5km、その中央部には、風の塔がある

東京湾アクアラインの全長は15.1kmで、木更津と対岸の川崎を15分で結ぶ。木更津から約4.4 kmが橋(アクアブリッジ)で、川崎から約9.5kmが海底トンネル(アクアトンネル)となり、海ほたるはこの接続部分につくられた人工島だ。そのアクアトンネルは、2階建ての構造。自動車が通るのは2階部分で、1階は避難経路として利用されている。

アクアラインに関する展示が見られる「うみめがね」を出発した探検隊一行がやって来たのは、この避難経路を少し川崎側へ進んだところ。辺りを見回すと非常電話があり、その横には滑り台(避難連絡路)がある。トンネルには300mごとに非常扉があり、トンネル内で火災などが発生した場合、ドライバーらはこの滑り台で避難経路に避難することができる。

これからいよいよトンネル内へ。ため息や歓声が聞こえてきた

階段を降りて4つの鉄の扉をくぐり、トンネル道へと向かう

トンネルの構造などについての説明に、皆、熱心に耳を傾ける

避難経路となっているトンネルは、ずっと向こうまで続いている

非常電話は150m間隔に設置されており、事故当事者・火災発見者などが受話器を取ると自動的にNEXCO東日本の交通管制室につながる

この滑り台を使い、上の道路から避難してくる仕組みになっている

1階の気圧は2階よりも高くしているので、煙が1階にまわってくることはないとのこと。また、避難経路には消防車や救急車が通れるようになっている。海ほたるには3台の救急・消防車両があるが、避難経路を走行できるよう、高さ2m50cm以内と普通よりも車高が低い。

トンネル内を巡回するパトロールカー。1日400kmもの距離を走行する

消防車。普通よりも車高が低い

世界最先端の技術を駆使したトンネル工事

続いて向かったのは、トンネルの模型がある倉庫。ここではアクアトンネルの工事に関する話を聞いた。自動車用海底トンネルとしては、日本一の長さを誇るアクアトンネル。海底の地盤はやわらかく、工事は困難を極めたが、わずか9年で完成したのは世界最先端の日本の土木技術を結集したためだった。

トンネルを掘るため、当時世界最大となる直径約14mのシールドマシンを使用。これに1,142個のカッターが付いたカッターフェイスを装着し、掘削作業が進められた。掘り進んだ後は、セグメントと呼ばれる枠でトンネルの壁がつくられていった。

海ほたるには、実際に使われていたカッターフェイスがモニュメントとして展示されていて、その大きさ、迫力が実感できた。ひとつのカッターだけでも重さ約10kg。その歯はダイヤモンドよりも硬いという説明に、参加者は皆、関心しどおしだった。

現在はオブジェとして置かれているカッターフェイス。なかなかの迫力だ

その歯には、実際に使われていた痕跡が刻み込まれていた

千葉海上保安部の巡視艇「あわなみ」にも乗船

トンネル内を探検した後は、いよいよ千葉海上保安部の巡視艇「あわなみ」に乗船だ。

船内に入り、狭く急な階段を上がると操舵室に出た。いろいろな計器が並び、子供たちは興味深そうに見入っている。船長の指示でいよいよ出発。さまざまな専門用語が飛び交い、独特の雰囲気が漂う。

海上保安庁の巡視艇「あわなみ」(117t)。大人も子供も期待に声を弾ませていた

船長からの説明を受けた後、順番に乗船。短いが貴重な船旅に向かう

ゆっくりと岸を離れた船は、川崎方面へ。工場の建物群が遠くに霞んで見える。その手前の海上には、白い帆のようなものが浮かんでいる。トンネルの中央部にある換気施設「風の塔」(川崎人工島)だ。

ゆっくりと船は岸壁を離れる。乗組員同士の指示のやり取りが操舵室では繰り返されていた

遠くの海上に見える白い「風の塔」を目指して、船はスピードを上げていった

操舵室の外に出てみると、海には貨物船が行き交い、空には羽田への着陸態勢に入った機影が間近に迫る。大型船は水深の深い川崎側を航行する。ちなみに木更津側に橋が架けられたのは、比較的水深が浅いためとのことだ。

「風の塔」は直径約200mの川崎人工島の上にある

海ほたるを出て20分ほど、風の塔に近づき、船は減速した。横にまわっていくと、高さ約90mの塔と75mの塔が、まるで背中合わせのように立っている。大きな塔から新鮮な空気を取り入れ、小さな塔からトンネル内の空気を排出する仕組みだという。

船はゆっくりと風の塔を右回りに進み、再び海ほたるを目指し始めた。ふと操舵室の中を見てみると、帽子を被った少年が舵を操作している。実際の航行に影響はないのだろうが、横にいる乗組員が「左30度……」などと指示を出している。上に角度を示す計器があり、少年はそれを見ながら舵を回した。

「そうそう、はいそこでストップ。上手だよ」

ほめられていたが、少年の後ろ姿には緊張感が漂っている。大人でも体が硬くなってしまうかもしれない。少年のことが、ずいぶんとうらやましく感じられた。

真剣なまなざしで操縦ハンドルを握る少年。乗組員がやさしく指示を出していた

短い航海を終えて再び海ほたるへ

海ほたるへと戻ってきた船は、アクアブリッジをくぐって、岸壁へと戻る

船上から眺めたアクアブリッジは、海の上に優雅な曲線を描いているようだった

その後、乗組員が舵を取り、船はアクアブリッジの下をくぐって、海ほたるの岸壁へと戻った。1時間弱の船の旅は、実に爽快で貴重な体験だった。子供たちにとっては、大きな大きな夏休みの思い出となったに違いない。

巡視船の乗船体験はないにしても、「海ほたる探検隊」は今後も実施したいと関係者は話す。頻繁に実行できる企画ではないかもしれないが、大きな反響があったのも事実。ぜひ少しでも多くの人たちに体験してもらえるよう、開催の機会が増えることを期待したい。