日本海沿岸に大量の廃ポリタンクが漂着している実態をご存知だろうか。環境省では5日、初めて関係都道府県に情報提供を求めた調査結果を発表した。報道資料によれば、1月15日~3月3日の期間に約4万個が、一部は塩酸などの化学物質が入った状態で見つかっているという。環境省や地方自治体は、発見した際には手に触れず、市町村へ連絡するよう呼びかけている。このように政府や地方自治体の関心も高まる中、6日~9日に開催された「ジャパンインターナショナルボートショー」では、「海ゴミから考える環境問題」と題したトークショーが行われた。

NGO「JEANクリーンアップ事務局」の大倉よしこ氏

語り手は、NGO「JEANクリーンアップ事務局」の大倉よしこ氏。大倉氏によれば、同NGOは2006年秋、ゴミを収集し調査する「国際海岸クリーンアップ」を218の海岸で行った。集まったゴミの数はなんと58万9,315個。49%がタバコのフィルターや食品の包装、ペットボトル類をはじめとする生活ゴミ、46%は発泡スチロールやプラスチックの破片、残りの5%がカキ養殖用パイプや魚網などの漁業に関連するゴミだったという。回収されたゴミの種類ワースト10は以下の表のとおり。

世界遺産の知床半島の海岸にも・・・

海ゴミの種類ワースト10

物質 個数
1 発泡スチロール破片 10万3,929個
2 タバコの吸殻・フィルター 7万5,276個
3 硬質プラスチック破片 7万2,169個
4 プラスチックシートや袋の破片 5万4,696個
5 食品の包装・容器 3万6,950個
6 レジンペレット 3万3,409個
7 飲料用プラボトル 2万4,644個
8 ふた・キャップ 2万2,266個
9 紙片 1万7,963個
10 ガラス破片 1万6,332個
出所:「2006年秋の国際海岸ビーチクリーンアップ調査結果」JEANクリーンアップ事務局

生活雑貨だったゴミ。自分の出したものではないとは言い切れない

粉々になった発泡スチロールの破片。こうなると、回収は容易ではない

調査結果の発表に引き続き、大倉氏はプラスチックゴミの危険性を指摘。プラスチック類のうち、破片やかけら類は、それを餌と間違えて食べてしまう海鳥やウミガメを死に至らしめる。消化せずに胃を占領し、餌を食べられなくさせてしまうのだ。「死んだウミガメのおなかから、1kgものゴミが出てくることもあります」(同氏)このほかにも、容易に分解しないプラスチックは、動物たちに以下の写真のような被害を及ぼしている。

動物は人間と違って手足を自由に使えないため、体に絡まったゴミを取り除くことができない

子どもの時に遊んでいてからまったゴミが、成長するにつれて首を絞めるようになった

産卵のために上陸し、ゴミにはさまって絶命

身動きがとれず、死を待つしかない

クラゲと間違えてビニール袋を飲み込み、窒息死

また、プラスチック製品をつくる際に原料となる粒状のレジンペレットは、化学物質を吸着する性質を持つため、海水の10万倍の濃度の化学物質が付着する。「レジンペレットを餌と間違えて食べていたかもしれない魚を人間が食べています。生物が分解・解毒できない化学物質は、食物連鎖が進めば進むほど高濃度化します。プラスチックが砕けるだけでなく少しずつ水に溶けることも分かってきており、食物連鎖の頂点にいる人間は、自分が出したプラスチックゴミに含まれる化学物質を、回りまわって口に入れているかもしれないのです」。普段あまり意識しないが、海と人間は食べ物を通してつながっている。その海を汚すということは、自分で自分の首を絞めるようなものなのだという。もちろん、回収・処理にかかるコストや、水産資源や観光資源へのダメージなど、経済的なロスも指摘されている。

大倉氏は、海ゴミ問題に対して誰もができる対策として、ビーチクリーン(海岸の清掃)を挙げる。「海岸は海面のゴミをこし取るフィルターの役割を果たしています。一度漂着したゴミが再び海面に戻り、人間を含む生態系や水質に悪影響を及ぼすことを防ぐためには、海岸に漂着している時に回収することが一番の近道なのです」(同氏)。ビーチクリーンには、単に海岸をきれいにするというだけでなく、海の表面を漂流するゴミを減らす効果があるのだ。

ただし、ビーチクリーンはあくまでも対症療法的だと言及する。「プラスチックのゴミは軽く風に飛びやすいため、どんなに分別して出しても、埋立地などから海へと行き着くことがある」(同氏)と言い、根本的に解決するには、水筒を持ち歩いたり、軽包装の商品を選ぶなど、ゴミになるものを買わない、そしてゴミを出さない工夫が必要とされているのだと述べ、トークショーを締めくくった。

「JEANクリーンアップ事務局」は今後、7月21日の海の日に一般参加者とともに行うビーチクリーンを全国各地で開催予定だ。このほかにも、地方自治体やサーフショップなどが主催するビーチクリーンイベントが随時開催されている。海ゴミ問題に向き合うことは、自分の口に入るものがどこから来るのかをじっくりと考えるきっかけになりそうだ。もうすぐ春。ぽかぽか陽気の海岸で波の音を聞きながらゴミ拾い、というのも悪くないのではないだろうか。