堤幸彦監督(撮影:松村重臣)

映画にテレビドラマ、そしてPVと、フィールドを選ばずに、精力的に話題作を監督し続ける堤幸彦。その手がける作品ジャンルも人間ドラマ、コメディ、ホラー、ミステリー、アクション、恋愛、SFという具合に、何の制約もこだわりもなく、良い意味で無軌道だ。そんな堤監督が2007年に手がけた作品のひとつ『包帯クラブ』が2月15日にDVD化された。『包帯クラブ』という作品に託した自身の想いや、現在製作中の超大作『20世紀少年』(8月30日公開予定)、その無軌道な創作意欲について、堤監督が熱く静かに語りつくした。

『包帯クラブ』は人気作家・天童荒太の同名小説の映画化作品。ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(2000年・TBS)や、映画『溺れる魚』(2001年)、『大帝の剣』(2007年)など、堤監督が原作モノを扱う時は、オリジナルに大幅なアレンジや独自の解釈が加えられることが多く、それが賛否を呼んでいる。だが、『包帯クラブ』はかなり原作に忠実な作品となっている。

同作では、様々な人々の心の傷の原因となった場所や物に包帯を巻き、それを撮影してホームページに掲載するという活動に打ち込む高校生たちの姿が描かれる。その包帯クラブの各メンバーも、心に深い傷を持っているのだった。

撮影ロケ地・高崎との出会い

「原作の"傷ついた場所や物に包帯を巻き写真を撮る"という不思議なシステムに感動しましたが、どう映画化しようかかなり悩みました。大幅に原作を変えようという意見もありましたが、僕は忠実にやりたいと思った。この話は言葉が主役で、それを補完する道具として包帯がある。何の変哲もない少年少女たちが、自分のことを語るというのがあくまで主題だから」

おなじみの堤スタイルと違い、あくまで原作に忠実な映画化を心掛けたと語る堤監督。ロケ地が高崎市に決定してから、この作品の成功を確信していたという。

「原作では、『包帯クラブ』の舞台は架空の街です。東京近郊で武道館ライブから電車で帰れる距離。街の中心地がはっきりしてて、新幹線が走ってて、山に囲まれている。ロック文化に理解のある街。ありそうでない街。企業城下町的なムードのある街。東北のほうまでロケハンしましたが、高崎市があらゆる点でこの映画に最適でした。高崎市を見つけて『これはいける!』と思いましたね」

しかし、小説『包帯クラブ』独特の世界観を、映像化する苦労も感じたようだ。そこで、監督は映像だけでなく、ハンバートハンバートのサウンドも武器として利用した。

「原作の包帯を巻いて癒されるという行為を、絵として見せなければなりません。これは難しかった。包帯を巻く映像と、人の表情が緩んでいく映像を、編集の技だけで成立させるのは厳しいと感じていました。もちろん、映画の方程式として見せることは簡単にできるけど、それだけでは意味がないと悩んでいました。そんな時、偶然聴いたハンバートハンバートというアーティストの音がヒントになった。この音が視覚と共にあれば、より柔らかく確かに観てくれた人に届くんじゃないかと考えたんです。歌詞のない優しい人の歌声を、映像と併せたかったんです。日本語のリアルな歌詞でなく、デモテープの仮歌みたいな、『ルルル~』とか『ラララ~』という感じの音を使いたかったんです」