大船工場跡地と廃線探訪

今回公開となった鎌倉車両センターは、電車の日々の点検と短周期の検査までを行うが、2006年3月までは4年ごと、8年ごとといった長周期の検査も行う広大な敷地の鉄道工場が併設されており、名前も鎌倉総合車両センターであった。ちなみに、鎌倉総合車両センターは、旧大船電車区(今回公開された部分)と大船工場(2006年3月に廃止された部分)が統合されたもの。う~ん、大船工場跡地の現状が気になる。ここまで来たからには、この目で見なければ気がすまない。それでこそ鉄子の中の鉄子というものだ!!

大船工場跡地は、車両センターから歩いて7,8分。大船工場跡地の旧正門から大船駅方面へと伸びる引き込み線をたどるように2kmほど歩けば、湘南モノレールの富士見町駅に出ることができる。そしてやはり、予想通り。てくてくと歩いて大船工場跡地に向かう鉄ちゃんは、私だけではなかった。……考えることは同じなのね。

大船工場跡地の旧正門。予想していたほどは古びれていない

大船工場の歴史は古く、設立は昭和18年。前身は海軍の軍需工場であった。戦後、多くの軍需工場がそうであったようにこの工場も鉄道工場へと転用された。そういった工場の多くは戦後復興が進むにつれ順次廃止され、更に鉄道経営の合理化などで20世紀中にほとんど姿を消した。ここ大船工場跡地が、軍需工場から転用された鉄道工場の最後の生き残りのひとつだったといえる。主な業務は車両の検査、修繕、改造、解体だった。現在は大宮総合車両センター、東京総合車両センターがそれらの業務を引き継いでいる。

「国鉄」にはノスタルジーを感じる私も、さすがに「戦後」は正直ピンとこない部分がある。しかし鉄子としては、鉄道施設が減っていく寂しさと、これから跡地がどうなるのかという興味もあった。鉄道施設跡地はマンションやホール、ショッピングセンターなどになってしまう例が多いが、小さな鉄道資料館のひとつでもつくって欲しいというのが正直な思いである。

そんなこんなで、旧正門に到着。旧正門は、そのまま残っているのだ。中は車両の姿こそないものの、ほとんど手がつけられていない様子。私の他にも中を覗く人がいた。かつてここで行われていた一般公開の思い出があるのだろうか……。引き込み線の線路は手つかずのままで、夏草が伸び放題。熱心に撮影する人の姿も見られた。踏切は、遮断機の竿だけが外された状態。踏切を通る車が今でも一時停止していた。まるで時が止まったよう。湘南モノレールの富士見町駅近くでは、錆びた線路の上をまたぐ湘南モノレールが見られた。新旧の交通が交差する姿が感慨深い。

門から中を覗いてみた

草ボウボウの引き込み線。時々近所の人が歩いているのが見えた

引き込み線をまたぐ湘南モノレール

大船工場跡地と引き込み線でもノスタルジックな気分になりつつ、ようやく鉄子の長い一日が終了した。ファミリー向けのイベントでも、興味を持って積極的に見れば、十分大人の社会科見学になるのである。これから秋にかけては、様々な鉄道施設の一般公開が行われる。親子限定だったり、事前に申し込みが必要なイベントもあるが、今回のように誰でも入ることのできるイベントもある。イベントの多くは子供やファミリー向けであることは頭に入れておいてもらいたいが、近くでイベント開催があれば、是非足を運んで欲しい。公共交通のしくみと歴史は、知れば知るほどおもしろいのだ。