3Dアニメ『新SOS大東京探検隊』が、19日より全国映画館にて公開となる。この作品はマンガ家・映画監督の大友克洋氏が1980年に発表した短編『SOS大東京探検隊』を原作とし、2004年の大作アニメ映画『スチームボーイ』のサンライズ・エモーションスタジオとその主要スタッフが制作。3DCGアニメの最新技術を駆使して、少年たちの探検譚を描いたジュブナイル作品となっている。

メインビジュアルより。主人公、メガネ、太っちょ、チビという、どこかで見たことがあるようなメンバー構成。5月19日より新宿バルト9ほか全国にてロードショー


2006年、夏。5年生の尾崎竜平は、父親の昇平が小学生のときに書いた「大東京探検記」というノートを見つける。そこで竜平はチャット仲間の俊と義雄を誘って、新しく探検隊を結成。夏休みのある日、勝手についてきた弟のサスケを加えた4人で、地図に記された秘密の宝物をめざして、マンホールから地下に降りる。やがて少年たちは地下で暮らす又吉と偶然出会い、誰もいないと思われた世界に怪しげで、しかし気のいいオトナが数多く住み着いていることを知る。子どもたちは住人に歓迎されるが、それで何かのタガが外れたのか、旧日本陸軍の生き残りと称する山下老人や、義雄のいとこの桃代までも巻き込んで、居住地は過激派の繰り出す火炎瓶と38歩兵銃の銃弾が飛び交う戦場となる。果たして、地下に隠された"日本の宝"の正体とは――?

今回のプロジェクトは、初期段階では『スチームボーイ2』という形で準備が進められていたが、諸事情により中止。3DCGを積極的に活用するというコンセプトを継承した上で、高木真司監督が大友マンガのなかでも子供を意識して描かれた数少ない作品『SOS大東京探検隊』に着目し、新企画としてリスタートを行った。制作にあたっては大友氏が新たに描き下ろしたラフデザインをもとに3Dモデルが作られ、3DCGで手描きアニメーションの持ち味を再現するという挑戦が図られている。

原作の大友克洋氏、監督の高木真司氏、キャラクターデザインとアニメーションディレクターを務めた小原秀一氏の3氏にお話をうかがった。

左より小原秀一氏(キャラクターデザイン・アニメーションディレクター)、高木真司氏(監督)、大友克洋氏(原作)

――原作に忠実な部分もありますが、27年前の作品を現代に移し変える上でアレンジもされています。

高木「まず、小学生が当然のように携帯やパソコンを使って連絡を取り合うということ。このシーンは最初の段階で見せて、現代を強調するような演出にしたつもりです。ストーリー面では大友さんが原作を描かれたときに『こういうのをもっとやりたかった』というイメージがあって、その話を聞いていたんですね。自分も地下に老人が住んでいて……という探検話はやってみたかったので、その辺の好みも含めて後半の話をふくらませています」

――キャラクターの鼻が赤いのがアクセントになっています。これは3DCGで人物を動かす上での必要からですか?

小原「そうですね。顔や画面がフラットになりがちなので、鼻に立体ふうのテクスチャーを貼っています。できあがりが2Dっぽく見えるところがあったので、わざとそれに3D的な要素を足しています」

高木「ないとちょっとのっぺりして寂しくなっちゃうんですよね」

服装やビデオカメラといった細部こそアレンジされているが、昔ながらの探検ものの醍醐味も盛りだくさん

――キャラクターとはべつに、現代の都心を描いた美術も非常に印象的です。

高木「プロデューサーや美術監督たちと、あちこちロケハンで見て回りましたね。銀座周辺、新橋、御茶ノ水の橋のあたりはさんざん写真を撮って、そのあとも地下鉄の博物館などに行きました。3Dのスタッフには土浦まで古い戦車を見に行ってもらったり」

――高木さんは『スチームボーイ』、小原さんは『MEMORIES』(大砲の街)と、過去にも大友さんのアニメ作品に関わっておられます。大友アニメを作るコツはありますか?

大友「それは俺も聞いておかなきゃ(笑)」

高木「まずはホームレスを大量に出すとか……(笑)。まあ、大友さんと長年仕事してきたなかで、なんとなく共通のイメージはできているので。あと今回はやっぱり大友さんの初期作品をたくさん読み直して、そこから『こんなキャラクターがいれば面白いんじゃないか』みたいなのは、かなり考えましたね。大友さんのマンガに登場したような人たちが地下にいるという話なんですけど、その辺の要素はたくさん集めたかったところです」

――逆に大友さんがご覧になって、ご自身の原作になかった要素で印象的だったのは?

大友「僕になかったウェットな感じが入っていたよね。その辺は高木君らしくてさすがだな、と思いましたよ」

高木「ウェットな部分はなんとなく私が入れたかもしれない(笑)。せっかくなので原作とのつながりを作りたかった、というのもあるんです。時代の連なりを感じてもらえるんじゃないかなと思って」

――原作マンガとの関わりもさりげなく差し挟まれています。

高木「さりげなくでいいと思っているし、見た人が原作を調べたら『ああ、そうだったんだ』ぐらいでいいつもりなんですけど。設定的なものを全部見せてもしょうがないので、じつはそれぞれのキャラクターの背景がある、みたいなのを感じてくれる人は感じてくれればいいかなと思っています」

――最後にアピールポイントをお聞かせください。

大友「よかったですよ。観客として面白く見させてもらいました。あとは原作も売れてくれればうれしいなと思うばかりです(笑)」

小原「それぞれのキャラクターがそのキャラクターたる動きをみんなしているので、そこら辺を注意して見てもらえると、より楽しめるんじゃないですかね。奥のほうに映ってるおじさんも結構細かく演技をしていたりするので楽しいと思います」

高木「基本的には子供に見てもらいたいと思って作っていたんですけど、結構いろいろな要素を入れられたので、幅広い年齢層の方に楽しんで見ていただければと思います」

『新SOS大東京探検隊』は、中編ながら子供のころに感じたドキドキワクワクが詰まった満足感の高い1本。初夏の時期に子供連れで楽しむにはうってつけの作品となっている。

(c)2006大友克洋・講談社/バンダイビジュアル・サンライズ