今秋ドラマの中で最もネット上をにぎわせているのは、『大奥 Season2』(NHK総合)で間違いないだろう。毎週X(Twitter)のトレンドにランクインしているほか、ネットメディアも記事を量産。同作は1月期に続き今年2回目の放送であり、3月と11月に観客を集めてファンミーティングを開催したことからも盛り上がりがうかがえる。

さらに、年をまたいで始まる2024年の冬ドラマでも、『大奥』(フジテレビ)の放送が発表された。フジ系の『大奥』は、1968~69年(関西テレビ制作)、83~84年(関西テレビ制作)、03年、04年、05年に連ドラ、06年、16年、19年にスペシャルドラマが放送された時代劇の定番コンテンツ。

NHKと同じ、よしながふみ原作の男女逆転版の連ドラが12年にTBSでも放送されたことを含め、なぜ『大奥』は時代を超えてドラマ化され続けるのか。その背景をテレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • ,NHK『大奥 幕末編』12月5日放送より (C)NHK

    NHK『大奥 幕末編』12月5日放送より (C)NHK

■業の深い人間ドラマを生み出す設定

あらためて説明しておくと“大奥”とは、江戸時代の江戸城内に、徳川将軍家の血筋を守るために作られた「将軍以外、男子禁制」の場。正室の御台所と側室、さらには女中などを含めて、その数は数百人とも千人以上とも言われた“女の園”であり、通常の社会ではあり得ないシチュエーションが業の深い人間ドラマを生み出していく。

男性目線で見た図式としては、ハーレムであり、快楽のイメージがあるかもしれないが、ドラマでフィーチャーされるのは女性の戦い。「将軍の寵愛を受けられるか」「跡継ぎとなり得る男子を出産できるか」「健やかに育て将軍にさせられるか」などをめぐるせめぎ合いが描かれている。

純粋な愛情もあれば、羨望や嫉妬、執念や狂気などもあり、外部から閉ざされた空間の分だけ、その強い思いはエスカレートしやすく、さらに事件、天災、疫病、財政難など歴史上の出来事が加わることで壮大な愛憎劇となっていく。それらはXでつぶやきたくなるようなシーンであることが多く、令和の視聴環境にフィットするのかもしれない。

■若手女優の登竜門にも

そんな感情があふれるような物語だけに、女優たちがふだん以上の熱演を連発するのも『大奥』の魅力。たとえばフジテレビの『大奥』では、03年版で天璋院を演じた菅野美穂、瀧山を演じた浅野ゆう子、和宮を演じた安達祐実、04年版では春日局を演じた松下由樹、お江与を演じた高島礼子、お万を演じた瀬戸朝香、05年版では安子を演じた内山理名、お伝を演じた小池栄子、染子を演じた貫地谷しほり、桂昌院を演じた江波杏子らが熱のこもった演技で視聴者を引きつけた。

そのため、「また『大奥』が放送される」と聞くと、「では、江や春日局、桂昌院や右衛門佐、天璋院や瀧山らは誰が演じるのか」とキャスティングを楽しみにする人は多い。

また、若手女優にとっては、同世代でしのぎを削り、ベテランと対峙(たいじ)するシーンなどで評価を上げる登竜門としての意味合いもある。現在放送されている男女逆転版の『大奥』でも、堀田真由、三浦透子、當真あみ、高田夏帆らが熱演で株を上げている。さらに、仲里依紗、鈴木杏、蓮佛美沙子、瀧内公美、愛希れいから中堅の実力派たちがこん身の演技で視聴者をつかんでいることも、盛り上がりを生んでいる理由の1つだろう。