AWS(Amazon Web Services)のマーケティング本部長として2009年から2016年まで約7年にわたり活躍し、その後は複数の会社で“パラレルマーケター・エバンジェリスト”として活動を続ける小島 英揮氏。これまでの経歴でコミュニティの持つ力に着目し、活用を推進してきた同氏に、コミュニティ拡大の秘訣と、人脈を広げる極意について話を聞いてきた。

今回もビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大氏と、Sansanで"コネクタ"の肩書きを持つ日比谷尚武氏の2人に聞き手として協力いただいた。

  • 左から、日比谷 尚武氏、小島 英揮氏、徳本 昌大氏

"オフライン"の人脈作りに適した東京

小島氏はまず、ICT時代においても「オフライン」での繋がりの重要性を指摘する。「オフラインで一度でも会っておくと、オンラインでもやりとりが盛り上がるしスケールしやすい」という考えだ。

オフラインの繋がりを構築するにあたり、「東京のいいところは人と出会いやすいところ」と話す。「6ステップ以内にすべての人に繋がる」という"6次の隔たり"という仮説があるが、東京で同じ興味や業種といった共通項があるなら、「2.5次ぐらいで出会えるはず」というのが小島氏の持論だ。「東京はオフラインの接点が作りやすく、維持しやすく、発展しやすい」(小島氏)。

小島氏は、この東京のメリットを生かし、人間関係の集まりをオフラインからスタートさせることが多く、人脈を作る上でも、コミュニティを構築する上でも同様だという。

ただ、コミュニティ構築をオフラインで完結させているというわけではない。もちろん、オンラインも並行して利用している。オンラインのツールとしては、「日本ではFacebookがいいバランスで存在している」と語る。

Facebookは「タバコ部屋やエレベーターホールみたいなもの」であり、直接やりとりしなくても、その人の動向が分かるという「弱い繋がり」が実現できるという。この弱い繋がりが意味をなすのは、「すでにオフラインで会っていてその人のことを知っているから」であり、その人のことを実際に知っていると、弱い繋がりでも情報が目に入りやすいことが重要だという。

"ネガティブ"を避けて信頼指数を上げる

オフラインからオンラインに繋がった人との繋がりを、さらに人脈へと繋げていくためには、「FacebookなどSNSへの投稿は、人前で話しているのと同じ。人が不快になるようなネガティブなことは投稿しないなどの配慮が必要」と小島氏は指摘。タイムラインでポジティブな投稿や事実に基づく投稿をする人の方が信用されやすいと語る。

これは、ネガティブな言葉を発しない、事実に基づいて発言する、間違ったら訂正するといったポリシーを持つことで、信用が増すということ。小島氏は「信頼指数」という表現をして、こうした指数が高い人の方が紹介しやすいし、オンラインのコミュニケーションも取りやすいと語る。

実は小島氏は利用しているすべてのSNSの投稿はすべてフルオープンで、閲覧者限定の投稿を「一度もしたことがない」という。SNSによってキャラクターを使い分ける、投稿内容で切り替えをするなど無理をしてもどこかで破綻してしまうため、「フルオープン、事実ベース、そして人が不快になるようなことはいわないというシンプルな運用ルールにしている」とのこと。

  • 信頼指数が大切としつつも3者ともに「役に立つ情報を提供しよう」とかしこまって使う必要はないという認識だ

アウトプット(発言)がコミュニティを活性化させる

オフライン、オンラインそれぞれの特性を生かし、人脈が広がる―― すると、次にコミュニティが重要になってくるという。

小島氏はコミュニティを活性化させるには、「アウトプット(発言)できる人が絶対的に大事」と指摘する。人の集団で全員が聞き役だと場は盛り上がらない。一定数、情報を提供する人が必要になるということだ。 だが、ビジネスシーンにおいては、「情報を提供するのであればリターンが欲しい」と考えがち。情報を出すだけでは、損になるのでは? という考え方が多い。

これに対し小島氏は、ICTが普及した社会では「情報の賞味期限が短くなっており、独り占めできなくなってきている」と語る。逆に、情報を発信し続けるポジションになることで、「そのトピックについての情報が幅広く集まるようになる」と語る。 このアウトプットも、「誰も知らない新しい話をしよう」と気負う必要はない。コミュニティ内で既知の情報を確認するような「あるあるネタ」でもよいそうだ。

また、アウトプットによって、質問を引き出すことも重要だという。日本では質問を「異議」と捉えるというような風潮があるが、これに対し小島氏は、「質問は字面としては『問い質す』と書くため、ネガティブなイメージがある。英語では質問は「Question」で「Quest(探求)」というポジティブなイメージとつながっているのとは対照的」と指摘する。

「質問は興味の指数」と小島氏は強調する。小島氏自身は講演などで、「質問がないと辛いからなんでもいいから質問をして欲しい」と告げているそうだ。

質問が欲しいことを告げることで、「質問して欲しいと言われたから質問をする」という口実を提供し、質問しやすいようにするそうだ。こうすると、質問を考えながら聞いてくれるし、質問されることで自身の発言をさらに掘り下げられるという。

小島氏は、質問をすることは、自分の所属するコミュニティを活性化すると語る。これは、自分の人脈を増やし、フォロワーを広げていくことも同じ。自分のフォロワーがさらに別の人に自分を紹介していくことが連鎖すれば、人脈はどんどん広がっていくという。


「オフラインを大事にする」「ネガティブを避ける」「情報を発信する」「質問する」―― 小島氏の話は、並べてみると極端に難しいことを求めているわけではない。これらの、ちょっとした配慮や努力により、自身の信頼指数が上昇しコミュニティの拡大にも、人脈作りにも役立つということだ。