新パナソニックでは、2024年度までの中期経営計画における最重要テーマとして、「7重点事業の利益成長」、「全社横断のオペレーション改革」、「ESG・IRの経営戦略への実装」の3点をあげる。家電を中心としたくらし事業での成長戦略を追った。

・前編はこちら
くらし事業の新パナソニック、どこへ行く (前編) - 家電で目指す「マツシタDNA」の復活
https://news.mynavi.jp/article/newsinsight-169/

2024年度までの中期経営計画における最重要テーマのひとつめが「7重点事業の利益成長」である。ここでは、2024年度までのEBITDAとして、成長事業が600億円増の約1,180億円、安定収益では500億円増の約1,550億円を計画。7重点事業で利益貢献の約4分の3を占めることになる。

  • くらし事業の新パナソニック、どこへ行く (後編) - 掲げた改革と成長、新体制で試される実行力

    2024年度のKGI。3,500億円のEBITDAの約4分の3を7つの重点事業が担う

7つの重点事業とは、空質空調設備、海外電材、エネルギーソリューション、CO2冷凍機、国内電材、ショーケース、国内白物家電である。

「7つの重点事業のうち、成長事業となる空質空調設備、海外電材、エネルギーソリューション、CO2冷凍機をベースに、業界を上回る成長を見込む。さらに、2021年度にはサプライヤーの供給影響などのマイナス要素があったが、これらからの回復も見込むことができる」(パナソニック株式会社の品田正弘社長)とする。

  • 7つの重点事業のうち、成長事業にあたる「空質空調設備」「海外電材」「エネルギーソリューション」「CO2冷凍機」

  • 7つの重点事業のうち、安定収益事業にあたる「国内電材」「ショーケース」「国内白物家電」

2つめの「全社横断のオペレーション改革」では、原材料高騰や為替の環境悪化リスクに対して、継続的なコスト構造改革や、価格改定などで、3年間で1,300億円の「打ち返し」を行うとする。

内訳は、コスト構造改革では、全社横断の直材コスト力強化で250億円のほか、中国の現地ニーズに即した中国コストモデル改革、間接材料費の削減、SCMおよびECMの改革によって、合計800億円の削減を目指す。また、国内家電や電材、海外空調などの出荷価格の見直しで500億円以上の効果を目指し、そのうち400億円を2022年度中に実現するという。

  • 個別最適の現状から全体最適へと改革し、直接材料費を削減する

直材コスト力の強化では、「ここでの最大の課題は個別最適に留まっている現場単位の取り組みに横串をさし、全社横断での取り組みにフェーズアップすることである。事業部門ごとにサプライヤーや部品を選定していたが、全体としては競合に勝るコスト力には至っていないと自覚している。今後は、調達部門が開発段階における部品の選定プロセスに参加し、ITによる統制をきかせる」とした。

2022年4月に、品田社長の直下に、調達部門を設置して、4つの直材コストの削減施策を強力に推進。計画の250億円の刈り取りに挑む。このうち7割は2023年度後半からの貢献を見込んでいる。具体的には、原材料では1社購買から複数社購買へと移行、汎用化や標準化も促進する。半導体および電子部品では日系企業から、投資意欲が旺盛な業界大手へ集約。同時に商品のロングライフを見据えた設計にシフトする。電気部品では、事業別から集中契約化に移行し、共通部品に関しては取引先を集約する。同時にグローバルでの集中契約も推進する。機構部品や組立品でも、取引先を集約し、購入先を精選し、新たなパートナーシップを構築。機構DXの導入によって、発注先の集約および加工賃の刈り取りを行うという。

  • パナソニック株式会社の品田正弘社長

電気部品の集中では、すでに実績があがっているという。

洗濯機で利用してきたモーターを電動自転車にも採用し、集中契約化することで、材料費は35%削減できたほか、洗濯機で使用していた電磁弁を、バス換気乾燥機に利用し、スケールメリットを活かした調査によって、39%の材料費削減ができたという。

「電子部品の集中では、白物家電事業で培った知見やノウハウを、パナソニックに全面展開し、高いコスト削減効果を実現している。こうしたものが社内にたくさん眠っていることがわかっている。分社の枠を超えた横串を進める」と述べた。

「全社横断のオペレーション改革」のなかでは、国内家電事業での価格の見直しにも取り組む。

「家電商品が持つ価値を、いかに適切にお客様に届けるかが肝要である。パナソニックでは、在庫リスクの責任を持ち、価格を指定する新たな販売スキームを2020年からスタートしている。すでに、このスキームによる販売は2021年度実績で15%に達しており、100億円規模の大きな改善効果が出ている。2022年度は2割にまで引き上げたい。在庫リスクを負うパナソニックには、これまで以上に流通在庫をコントロールすることが求められている。付加価値がある商品群を適正価格で販売でき、信頼性の確保と維持が可能になる」とする。

このスキームは、パナソニックが価格を指定するため、どの販売店でも同一の価格で販売することになる一方、販売店は在庫リスクを持たなくて済み、在庫となった商品はパナソニックが返品を受け付けるというものだ。消費者は、どの店舗でも同一の価格で購入できる。

  • 国内家電事業での価格の見直しについて。三方良しの精神で価格安定を目指すとした

パナソニックの品田社長は、「消費者、流通、メーカーの関係については、三方良しの実現を図ることができる。パナソニックは、国内家電事業のリーディングカンパニーとして、商品の価値や魅力を正しく伝えることで、価格競争中心の家電業界に対して、その流れを変え、業界全体を生産性が高く、活性化する使命がある。新たなスキームでは収益の安定性を図ることができる。今後は、対象商品を拡大していくことになる」という。

また、適切な出荷価格への見直しも行い、「原材料費や物流コストの上昇を踏まえながら、商品価値に見合った適切な価値に改定していく」とも述べた。

パナソニックでは、2022年8月1日以降、出荷価格や希望小売価格を値上げすることを発表した。約3~23%上昇することになるという。対象となるのは、冷蔵庫や洗濯機、食洗機、電子レンジ、炊飯器、オーブントースター、掃除機、ドライヤーのほか、天ぷら油クリーナー(カートリッジ)、アイロン(あて布など)、電気暖房、生ごみ処理機、黒板クリーナー、オーラルケア(替ブラシなど)、還元水素水生成器、 BDレコーダー、BDプレーヤー、ポータブルテレビ、オーディオ、電話機、FAX、ドアホン、パソコン(バッテリーなど)、電池、電池応用商品と幅広い。

値上げの理由として同社では、「原材料費や製造コスト、物流コストなどの継続的な高騰による外部環境悪化が続くなか、生産性向上および合理化への取り組みによって、コスト削減などを続け、商品供給に努めてきたが、原材料価格の上昇は依然継続し、加えて半導体をはじめとする部材の供給逼迫による調達費用の増加、社会的情勢による為替の変動など、内部努力だけでは、その影響を吸収しきれない状況となってする。そうした環境のもと、国内向け家電製品の一部において、出荷価格を改定する」と説明している。

パナソニックの品田社長は、「こうした取り組みを通じて、メーカーは、高付加価値品を適正価格で販売でき、適正な利益を確保でき、流通や小売業者は必要以上の価格下落や在庫リスクによる低収益から脱却でき、適正な利益を確保。一般消費者は、いつでも、どこでも、高付加価値商品を適正な価格で購入できる安心感と信頼感を得られる」とする。

3つめの「ESG・IRの経営戦略への実装」では、E(環境)においては、2022年4月に、CGXO(チーフ・グリーン・トランスフォーメーション・オフィサー)を社長直下に置き、事業戦略と一体化したGX戦略を推進。S(社会)では、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)を推進し、女性管理職比率の向上などの多様な人材の経営参画、男性育休取得の推進などに取り組む。G(ガバナンス)では3人の社外取締役を招へいし、アドバイザリーボードを新設。取締役会における意思決定機能の強化につなげているという。

投資戦略については、「大胆にキャピタルアロケーションの考え方を変えていく」と述べ、「パナソニックホールディングスとの目線あわせは行うが、相当の裁量権をパナソニックが持った上で投資実行できる体制としている。自らが定めた重点事業領域において、営業キャッシュフローの範囲内であれば、M&Aを含め、自らが機動的に投資実行できる。これは事業会社化による大きな変化点のひとつである。さらに、パナソニックホールディングスの成長投資に合致する空質空調、水素エネルギーの技術基盤への投資であれば、不足分を上乗せして充当することもできる。これらを含めて、今後3年間で3,650億円以上の投資を実行していく」と述べた。

3,650億円のうち、成長事業への投資としては、1,200億円を計画。空質空調事業では、生産拠点のレジリエンス性を高めることを目的に、欧州向けA2W事業の強化および北米の空質拠点を強化。海外電材ではインド、トルコ、ベトナムの重点3か国での生産拡張およびSCMの強化し、エネルギーソリューションでは燃料電池やパワコンの生産増強および水素事業の拡大を進める。また、空質空調や北米コールドチェーンなどの成長事業に対しては、非連続投資も計画しているという。なお、2022年4月にチェコの工場でのテレビ生産を終了。現在、欧州向けA2Wと純水素燃料電池の生産拠点へと転換を図っている段階だという。

「パナソニックのSCMは、バケツリレー型となっており、効率が悪い。無駄と滞留が山のようにある。IT投資を行い、効果を刈り取りたい。BlueYonderも活用していく考えであり、すでに、静岡工場で生産しているドラム式洗濯機をリーディングプロジェクトとして検証を開始した。この結果をできるだけ早く横展開することで、大きな削減効果を狙う」と述べた。

また、安定収益事業への投資では、主に効率性やオペレーション力を高めることを目的に1,100億円を計画。国内電材事業においては、新潟県燕市の照明機器工場の自動化や整流化のほか、国内白物家電では、静岡県袋井の洗濯機工場での新生産ラインの増設、滋賀県草津の冷蔵庫生産での新工法の導入を行う。また、ショーケースでは、国内工場の自動化や実験棟の新設に投資する。その他に、金型や設備更新などに1,350億円の投資を計画している。

さらに、3,650億円の投資を別の観点から見ると、IT基盤の強化やDX投資に330億円、サステナビリティに関わるグリーンインパクト関連投資が2,000億円となる。

一方、新パナソニックにおけるサステナビリティへの取り組みも説明した。

2020年の自社バリューチェーン(スコープ3)におけるCO2排出量は9,500万トンとなり、パナソニックグループ全体の約90%を占めるという。これを2030年には半減する計画だ。

「7重点事業の成長戦略と同期しながら投資を実行し、商品の省エネや自然冷媒化を強力に進める。具体的には、CO2排出量が大きい空調、換気、照明、白物家電において、高効率インバータ化による省エネや、LED率の拡大などにより、エネルギー削減を進める」という。

  • 自社バリューチェーンにおけるCO2排出量を2030年には半減する計画

また、スコープ1および2による社会へのCO2排出量削減貢献では、2030年に向けて欧州でのA2W(Air to Water)の成長、エネルギーソリューション事業の展開、照明制御によるエネルギーの効率化などにより、削減貢献インパクトを拡大していくという。

「事業と連動した環境貢献を進めることで、2030年には、サステナビリティトップ企業の一角に入ることを目指す」とした。

くらし事業を担当する新たなパナソニックは、2022年4月以降、自主責任経営による独立性を高めながら、体質改善とともに、事業成長を推進していくことになる。これからは、明確に描かれた青写真をもとにした実行力が試されることになる。