お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

「イケメン・高学歴の部下(新入社員)から、事あるごとに嫌味を言われます。個人的には逆パワハラだと感じているのですが、内気な性格で怒れないので愛想笑いでごまかしています。僕はどうしたらいいのでしょうか」(30代、会社員、男性)

はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。とてもよくわかります。僕も他人に何か嫌なことをされたとしても、あまり怒ることのできない人間です。でも、もちろん怒りを全く感じていないわけではありません。愛想笑いでごまかす日々は、表面的には何とかごまかせているようでも、気づかぬうちに心に小さなアザが少しずつ増えていっているもの。いつか重大な症状として表面化してしまって手遅れになるのは、何とか避けなくてはいけません。

イケメン・高学歴の新入社員は無敵です。これは完全に偏見ですが、イケメン・高学歴の新入社員というのは、傷ひとつないピカピカのボディを持ち、劣等感を覚えるどころか、そんな言葉すら知らない、心を持たぬ邪悪な殺戮マシーンです。しかし策はあります。人生でそんな強固な相手と対峙した時にいつも僕が思い出すのは『ジョジョの奇妙な冒険』第5部の登場人物トリッシュ・ウナのスタンド"スパイス・ガール"の台詞「柔らかいということはダイヤモンドよりも壊れない!」です。相手が硬く尖った武器で攻撃してくるのなら、こちらが極限まで柔らかくなればいい。

ジョイマンは2008年に売れて2010年に売れ終わったのですが、それから徐々に「一発屋」と言われるようになりました。そんな時、個人的に利用していたツイッターの世界で禁断のエゴサーチに手を染めてしまっていた僕は、「ジョイマン消えた」や「ジョイマン死んだ」などの悪意の言葉達を、自分で勝手にシャワーのように余すことなく浴びてしまい、精神的にノックアウト寸前でした。

しかし、そんな悪意のシャワーの中で意識が朦朧としていたある日、1つの仮説が頭をよぎったのです。もし。もし「ジョイマン消えた」という呟きが、本当にジョイマンを探してくれていているとしたら……? ジョイマンが見つからなくて悲しみにくれているとしたら? 「ジョイマン死んだ」という呟きが、本当に死んでしまったと思っていて、絶望の淵に立っているのだとしたら? もしそうだとしたら、僕は自分の非を棚にあげ、申し訳ないことをしているのではないか? そう考え、自分にできることは何なのかを模索することで、僕はだんだんと意識を取り戻していきました。

「ジョイマン消えた」と呟くということは、ジョイマンを見失って探してくれているということ。だから僕は「ジョイマン消えた」という呟きを見つけたら、全ての呟きに「ここにいるよ」と返信していきました。「ジョイマン死んだ」という呟きを見つけたら、「生きているよ、そして生きていくよ」と返信していきました。相手側からしたら、消滅したり死んだりしていると思っていた人が急に現れるわけですから、最初はみんな怖がっていました。

その活動を始めてから、そろそろ7年が経とうとしています。活動の成果が出ているのか、「ジョイマン消えた」というような呟きはあまり見かけなくなり、ジョイマンを見失ってしまった人々は少なくなりつつあるように感じます。怖がる人もあまりいなくなりました。最近では逆に「ここにいるよ」と言ってほしくて「ジョイマン消えた」と呟く人が増え始め、本当にジョイマンを見失っている人と区別がつかなくなり、安否確認が滞ってしまうという謎の状況まで生まれています。

どん底の時期に比べれば少し仕事量も増えましたし、ツイッターきっかけの仕事などもいただけるようになっています。もしあの頃に「ジョイマン消えた」という言葉を額面通りに悪意と受け取って、怒りの拳を振り上げてしまっていたら、今のようなプラスの状況には転じていなかったと思います。相手を変えたかったら自分が変わることが大切というのは、自己啓発本などでよく聞くような言葉ですが、確かに本当なのかもしれません。

人間社会で生きていくのなら邪悪な相手に出会うことは避けられません。それはもう仕方ない。でも、そこで自分の中で下手に怒りを焦がして、相手と同じような邪悪な心を育ててしまうよりは、健康で柔らかい心を育てて、相手を上手にいなしたり跳ね返せたりするような自分になれたほうが素敵だし、幸せだと思います。

30代会社員男性さんも、最初は少し悔しいかもしれませんが、そのイケメン高学歴の新入社員に心を込めて寄り添う対応をしてみるのはいかがでしょうか? 本気で取り組めば、相手がだんだんと変わってくれるかもしれませんし、もしくは気持ち悪がって距離を置いてくれるかもしれません。30代会社員男性さん的には、どちらに転んでも成功なのではないでしょうか?

筆者プロフィール: 高木晋哉

お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。