KDDIは2020年2月21日から、新しい端末購入プログラム「かえトクプログラム」を開始した。これは自動車販売で馴染みのある「残価設定ローン」の仕組みを採用したプログラムとなるのだが、同社が端末購入プログラムを変更したのは法改正後3度目になる。なぜ短期間のうちに、端末購入プログラムを変える必要があったのだろうか。

スマホ販売にクルマのような残価設定ローン

2019年10月の電気通信事業法改正により、通信契約に紐づいたスマートフォンの値引き販売ができなくなるなど、端末の値引き販売に対し非常に厳しい規制が敷かれることとなった携帯電話会社各社。そうしたことから高額なスマートフォンを購入しやすくする端末購入プログラムに関しても、各社は相次いで対応が求められることとなった。

例えばNTTドコモは、通信料金と端末代金を分離した新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」を提供したのに合わせて、スマートフォンを36回の分割払いで購入し、途中で返却すると最大12回分の分割代金の支払いが不要になる「スマホおかえしプログラム」を提供している。このプログラムは契約当初だけはNTTドコモの回線契約が必要なものの、契約後は回線契約を解除しても契約を続けられるようにすることで、改正法をクリアしている。

ソフトバンクは、48回の分割払いで端末を購入し、25カ月目以降に機種変更すると残債の支払いが不要になるという従来のプログラムを、ソフトバンク以外のユーザーでも利用できるようにした「半額サポート」を提供。だが分割で購入した端末は100日間SIMロック解除ができず、実質的にソフトバンクユーザー専用のプログラムになっていたことなどが批判の的となったことから、それらの問題点をクリアした「トクするサポート」に内容を切り替えている。

そしてKDDIも、法改正を受け従来の「アップグレードプログラムEX」の提供が難しくなったことから、2019年10月より半額サポートと同じ仕組みの「アップグレードプログラムDX」を提供。だがソフトバンク同様にSIMロック解除に関する問題を指摘されたため、2019年11月からはスマホおかえしプログラムと同じ仕組みの「アップグレードプログラムNX」を提供していた。にもかかわらず、2020年2月21日からはまた新しいプログラムとなる「かえトクプログラム」を提供すると打ち出したのだ。

  • 短期間で端末購入プログラムを相次いで変更したKDDIだが、2020年2月21日からは新たなプログラムとなる「かえトクプログラム」を開始する

    短期間で端末購入プログラムを相次いで変更したKDDIだが、2020年2月21日からは新たなプログラムとなる「かえトクプログラム」を開始するという

かえトクプログラムの大きな特徴は、自動車販売でよく用いられている「残価設定ローン」の仕組みを取り入れていること。具体的にはスマートフォンの販売時に2年後の端末価値となる“残価”が設定され、購入したユーザーは残価を差し引いた金額を、購入初月を除く23カ月で分割して支払う。そして25カ月目に端末を返却して機種変更すると残価の支払いが不要になるほか、機種変更をしなかった場合は残価を一括、もしくは24回払いで支払うこととなる。

  • 「iPhone 11」の64GBモデル(税込みで9万720円)をかえトクプログラムで購入した場合の例。残価は本体価格の約41%となる3万6785円に設定され、月々の支払いは残りの5万3935円を23回で割った2345円となる

かえトクプログラムがアップグレードプログラムNXと異なる点の1つは、通信契約と完全に分離しており他社のユーザーも契約できるので、改正法に抵触しないこと。アップグレードプログラムDXで問題となった、分割払い時に100日間SIMロックが解除できないという問題も、クレジットカード払いで支払いを保証してもらうことで、即日解除できるようにしているという。

そしてもう1つは、必ずしも高額な端末だけが対象になる訳ではないこと。アップグレードプログラムNXは高額なスマートフォンのみが対象であったが、かえトクプログラムは残価率こそ下がるものの、ミドル・ローエンドの機種も対象となるため幅広い端末の販売に対応できるとのことだ。

なお残価率は、購入した端末が2年後に中古市場でどのくらいの価格で販売されるかをKDDIが想定して決める形になるとのこと。それゆえiPhoneのように中古市場での相場が崩れにくい端末ほど、残価率が高くなる可能性があるようだ。

健全なプログラム運営が必須に

だが法改正が影響したとはいえ、半年も経たないうちに端末購入プログラムが3回も変わるというのはかなり異例なことで、ユーザー側の混乱も避けられないだろう。にもかかわらず、なぜKDDIは再び端末購入プログラムを変えるに至ったのだろうか。

その理由についてKDDI側は「5G」の存在を挙げている。5Gサービス開始当初に提供される端末は、先進的だが高額なハイエンドモデルが主流になると見られ、端末値引きが規制されてしまっている現状では、5Gスマートフォンの販売が振るわないことは目に見えている。

実際ここ最近のauのスマートフォン販売台数を見ると、法改正前の駆け込み需要があった2019年度の第2四半期は207万台であるのに対し、法改正後の第3四半期は170万台と大きく下落。前年同期比で見ても21万台の減少と、落ち込みはかなり大きい。それだけに、高額なスマートフォンを買いやすくしてさらに伸ばす上でも、従来より一層踏み込んだプログラムの提供が必要と考えたようだ。

  • かえトクプログラムと共に発表された、ディスプレイを折り曲げられるスマートフォン「Galaxy Z Flip」。5G時代にはこうした高額かつ先進的な端末が増えることから、一層踏み込んだプログラムの提供が必要と考えたようだ

だがこのプログラムは、残価率を極端に高くしてしまえば、実質的な端末の大幅値引き措置にもつながりかねないという問題点も指摘されている。KDDI側はそうした不健全な販売方法はしないと説明しているが、もしそのようなことをしてしまえば再び総務省が何らかの規制に動き出し、端末購入プログラムそのものの存続が問われることにもなりかねない。

最近では10万円を超えるハイエンドモデルも少なからず存在するだけに、こうしたプログラムがなければ5Gの普及も進まないのは確かであろう。それだけにKDDIには、いかにプログラムを健全な形で運用し続けられるかが求められるといえそうだ。