私にお金を払った客はこう言う。「こんなこと早く辞めた方がいい」って。産婦人科の医者にはこう言われた。「あんた、バカ?」と。高額エステで借金を背負い、性風俗の道へ入った24歳の“つばき”。「フーゾクしかない」と思いこんだあの時の自分に伝えたいことは? 女性の性売買当事者によるコミックエッセイ『時給7000円のデリヘル嬢は80万円の借金が返せない。』(ころから)より、一部をご紹介します。

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決意した心理

「この闇の世界を見て、発進する」。入店祝い金の3000円を手にしてそう決めたつばきは、その業界の残酷さを実体験することになる。

つばきは「コンパニオンのバイト」がデリヘルの勧誘だと気づいたとき、それまでのお金を使いすぎたことがフラッシュバックした。自分がここまで来たのか! と、自分の崖っぷちの状況に気づいたんだ。コンパニオンは「お酒をつぐ仕事」だと思っていたから、それで借金の全額を返すつもりだった。でも、そのときはすでに視野が狭く、どん底の精神状態。漫画に出ていた感情に加え、スカウトマンの山田と面接で対面したとき、自分の罪を贖おうと思った。それと同時に興味本位で「いっそのこと、その世界を語る人間として生きるのもありだ」と考え、この状況を記録することに決めた。それしか進む道はないと思い込んだ。重ねた借金、今の生活、そしてこの状況。全部誰にも相談できてなかった。

山田はつばきに共感し、最終確認もしていた。彼はそうやって、つばきが自分で選んだかのような流れをとっていた。いろいろな勧誘方法があると思うけど、この方法も業界への勧誘の手口のひとつ。業界にまったく関わりのなかった若い女性を取り込む一歩目の場面。そして、すぐに実技テストを行うのは、本当の接客までのハードルを下げてやる気をつけ、帰ってから気が変わるのを防ぎ、女性を逃がさないためなんだ。「やってみる口実が欲しい」「知らない世界を知ってみたい」そんな気持ちを後押しするのがスカウトマンの役目。

面接は、はたから見るとファストフード店で行われるふつうの面接。私は今でもカフェで「となりの会話はあの面接かもしれない……」と思うことがあるよ。そして、山田は面接の時にわざわざつばきの住んでる場所まで出向いてきた。それがもし一般的な就職なら、面接で、たったひとりのために雇い主から来ることはない。そんなおいしい話はないんだ。

――続きます。

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『時給7000円のデリヘル嬢は80万円の借金が返せない。』(ころから)
著者:つばき イラスト:うなばらもも

24歳のつばきは、高額エステの支払いに苦しみ、ネットショップ詐欺に遭う。そうして80万円の借金を背負うが、徐々に返済が滞り、風俗の世界へ入るが――。著者のデリヘル嬢体験をもとにした漫画とエッセイで、風俗業界の実情を伝える、ありそうでなかった一冊。若い読者層を意識した造本でありながらも、産婦人科医の高橋幸子さんによる解説や、「困った時の相談先リスト」を収録するなどの工夫が凝らされている。Amazonで好評発売中です。
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