HDRレンダリング第三の効能~まぶしさの表現が可能になる

人間の目やカメラで高輝度のものを見ると、その光が溢れ出て見えるような視覚効果が得られる。これは、たとえ前述した露出補正がちゃんとしていても、極端に明るい箇所はそう見える。

また、その高輝度な物体の姿の大半が遮蔽物に遮られていても、高輝度物体が一部でも遮蔽物から頭を覗かせていれば、遮蔽物との前後関係を超越して、強い光がこちらに漏れてくるように見える。

身近な例で行けば、夏の昼間、木陰から空を見上げ、枝や葉越しに太陽を見ると、枝や葉の遮蔽を超えて光がぱーっと放射状に広がって見えるという体験をしたことがあるだろう。

これはきわめて輝度の高い光のレンズ内反射の結果であったり、目の睫毛(まつげ)のところで光が回折したりする現象が、そういった見え方をさせているといわれている。

HDRレンダリングの第三の効能は、こうした高輝度部分の表現を工夫することで、映像としてのリアリティ、人間の視覚としてのリアリティを演出することが出来るという点にある。

ただし、こうした"眩しさ"の表現は、光学現象を正しくシミュレートするような実装ではなく、アーティストや3Dグラフィックスエンジン設計者のセンスに基づいて、画像処理的なアプローチで実装される手法が主流となっている。

最も代表的なのは、高輝度部分から光がぼやっとあふれ出す表現で、これを特に「ライトブルーム」(Light Bloom)と呼んだりする。

また、水面のさざ波に反射した光などの放射状に光があふれ出す表現は「グレア」(Glair)と呼び分けられたりする。(続く)

「DeusEx 2」(ION STORM,2004)より。ライトブルームなし

ライトブルームあり。"あり"とするとシーンの高輝度部分から淡い光があふれ出したような柔らかいイメージの映像になる

「3DMark06」(Futuremark,2006)より。グレアの例。湖面に映り込んだ太陽からの高輝度光が放射状に溢れ出ている

(トライゼット西川善司)