今、FXを扱っている証券会社、専業会社などがその行方を一番気にしているのは、おそらくFXの法制整備に関するパブリックコメントだろう。

パブリックコメントとは、行政機関などが政策や制度を決めるに際して、国民や都道府県民、市町村区民などの意見を聞き、それを参考にしながら最終的な決断を下す仕組みを指している。「意見募集」などと訳されることもある。

現在、FX規制で注目される点は2つある。

ひとつは信託保全の強制化だ。現在、投資家資産の分別管理については義務化されているものの、信託保全までは義務化の対象となっていない。そのため、FX会社のなかにはカバー先に投資家資産を分別管理しているところも少なくない。いや、むしろ完全信託保全を行っているFX会社の方が少数派だ。

確かに、信託保全にした方が、投資家資産はより安全に保全される可能性が高まる。ただ、これが完全義務化ということになると、おそらく、かなりの数のFX会社が廃業、もしくはより力のあるところとの合併に向けての動きが加速する。信託保全にはコストがかかるが、それを負担し切れないFX会社が多数あるということだ。

また、仮に信託保全が義務化されたとしても、必ずしも投資家資産の保全体制が万全とは言い切れない側面もある。たとえば、信託保全を謳いながらも、1週間に1回しか信託保全に反映させなかったら、投資家資産の安全性は万全とは言えない。信託保全の義務化を完璧なものにするのであれば、基本的にリアルタイムで反映させるところまで、ルールを詰める必要がある。

第二の注目点は、レバレッジ規制の問題だ。上限を何倍にするのか。50倍という声もあれば、100倍という声もある。

確かに、レバレッジが高いトレードはリスクも高くなる。個人投資家を、そんな高いリスクにさらす投資に誘導するのはいかがなものかという見方も当然あるだろう。そういう意見が多かったからこそ、レバレッジを規制するという動きが出てきたのだと思う。

また、FX会社の健全性を維持するうえでも、極端なレバレッジ競争にはある程度、歯止めをかける必要がある。というのも、仮に投資家がFX会社に預託している証拠金以上の損失を被った場合、FX会社には、その損失分を回収するだけの体制がないからだ。回収できなければ、証拠金以上の損失分については、FX会社の損失になる。

もちろん、そうならないよう、事前に追証や強制ロスカットをかけるわけだが、あまりにも急激なマーケットの変化に対しては、強制ロスカットが上手く執行できなくなるケースもある。レバレッジが極大化すればするほど、そのリスクは高まる。

ただ、あまりにもレバレッジの上限を低めに設定してしまうと、FXの商品面の魅力が後退してしまう。ちなみに、日本よりも10年以上前にFXが大流行した香港では、レバレッジ規制を強化した結果、大半の業者がFXビジネスから撤退してしまった。せっかく広がりを見せてきた数少ない金融取引の分野を冷え込ませてしまうような、極端な規制を設けることには反対だ。FX会社の健全性維持と、投資家保護の両側面から、レバレッジ規制については慎重に検討する必要がある。

果たして、FXに関連するパブリックコメントが発表されるのはいつなのか。聞くところでは、かなり難航しているとの声も上がっている。場合によっては、FXだけでなくCFDの信託保全についても併せて検討しているため、予想外に時間がかかっているという見方もある。

これまで、かなり野放しの状態に近かったFX業界だが、いよいよ本格的に規制の網がかけられる。ただ、何事もやりすぎは却ってマインドを冷え込ませる恐れを招く。信託保全の徹底義務化については、投資家保護の観点からもしっかり行う必要はあるが、レバレッジ規制については、慎重なさじ加減が必要だ。

そして、実際にFXを利用している個人投資家は、いずれにしても、これからは健全なFX会社が生き残るということをしっかり頭に入れたうえで、取引するFX会社を選ぶことが肝心だ。

執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)

主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。