• ハリオ NET事業部 平塚凌我氏と「"Hikaru" V60 Smart Brewer」

    ハリオ NET事業部 平塚凌我氏と「"Hikaru" V60 Smart Brewer」

コーヒー器具メーカーのHARIO(以下、ハリオ)が昨年10月のクラウドファンディングによる先行発売を経て、今年4月以降に一般発売を予定している「"Hikaru" V60 Smart Brewer(以下、Hikaru)」。本製品の発売に至った経緯やこだわりのポイントを同社 NET事業部 平塚凌我氏に訊ね、プロダクトデザインの視点からその魅力に迫る。

  • HARIOの「"Hikaru" V60 Smart Brewer(以下、Hikaru)」は、子会社のHIROIA Communications Pte. Ltd. と共同開発された、スマートコーヒーマシンだ

ハリオは、コーヒーや紅茶などの関連器具や、キッチンウェアなど幅広いアイテムを展開するメーカー。1921年の創業時は耐熱ガラスメーカーとして出発し、当初は理化学品を中心に製造販売していた。

本製品の企画が挙がったのは創業100年を迎えた2021年のこと。ハリオの代表的な製品に、世界的なバリスタのコンテストの入賞者の多くが愛用している、「V60透過ドリッパー」という知る人ぞ知るコーヒードリッパーの名器がある。

「『V60透過ドリッパー』は、社内で身近にある三角ロートにろ紙を四つ折りにして組み合わせてコーヒーを淹れたことが始まりです。肝になっているのは円すい型の形状で、液体をろ過する際に一番自然で良い形であることに気づき、1980年に一人用の円すい形ドリッパーを発売しました。その後、ペーパーフィルターでネルドリップの味を手軽に再現できるように形をさらに進化させたのが現在の製品になります」

平塚氏によると、円すい形の形状は扇形の一般的なドリッパーに比べて、コーヒー粉の深い層ができ、注がれたお湯が中心に向かって流れる。このことにより、コーヒー粉にお湯が長く触れ、成分をより多く抽出できることが美味しいコーヒーにつながっているという。

また、真ん中に大きく開いたひとつ穴により、注がれたお湯がドリッパーの制限を受けることなく、ネルドリップ(布ドリップ)のように抽出ができる。お湯を注ぐ速度によってもコーヒーの味を変えることができ、好みの風味に調整しやすいそうだ。ドリッパー内部のリブ(凹凸)を高く上部まで設けることでペーパーとドリッパーの間に空間をつくることができ、“蒸らし”行程におけるコーヒー粉の膨張を妨げず、空気がしっかり抜ける構造になっているのもポイントだという。

しかし、スムーズにお湯が通過することが利点になる反面、湯量の調整やタイミングのコントロールにはテクニックを要するため、素人ではなかなか難しい。そこで、トップバリスタによるプロのテクニックを家庭で手軽に再現するために、「V60透過ドリッパー」のためのコーヒーメーカーを開発しようというのがHikaruの企画開発の経緯だ。

開発は、先進的なIoT技術とハンドドリップの技術を組み合わせたスマートコーヒー機器の開発を行うために2016年12月にシンガポールを拠点とする設立されたハリオの子会社であるHIROIA Communications Pte. Ltd. と共同で行われた。同社では、自動のコーヒーマシン「smartQ samantha」、コーヒースケール「SmartQ JIMMY」を既に発売しており、ハリオとHiroiaの技術を集結し、スイッチ1つで世界のトップバリスタが淹れた最上級なコーヒーを再現するIoTコーヒーメーカーの誕生を目指した。

2021年1月に初期コンセプトが固まった後、3月に最終デザインと製品仕様が決定。その後、開発が始まり、2023年10月にMakakeでの募集を開始するまでには、プロトタイプの設計・検証などを経て約1年半を要した。

コーヒー豆の特徴や美味しさを最大限引き出すためには、ドリップの正確さが極めて重要となる。そのためには、水量、水温、流速の緻密な制御が肝となり、本製品の本体にはセンサーや重量スケールなどを搭載し、プロのバリスタでも難しいような緻密な抽出制御を可能にした。

まずは、給水タンクの下部に高性能なスケールを内蔵。コーヒーの濃度を決める非常に重要な要素である水量を1ml単位で調整するためだ。「一般的には時間でお湯の量を調整しているものが多いのですが、Hikaruは重量スケールで差分を計って湯量をコントロールしているため、1ml単位で調整ができます。ただ、勢いで滴が垂れてしまったりお湯を急にストップするのが難しく、湯量のコントロールには特に苦労しています」と説明。

  • Hikarの内部構造のイメージ。給水タンクの下部に高性能なスケールを内蔵し、湯量を1ml単位で調整する

流速もコーヒーの味に関わる重要な要素となる。流速が速いほどドリッパー内のコーヒー粉が攪拌され、抽出効率が高くなる。本製品では10段階で流量の設定が可能で、5つ穴のシャワー式の注湯口から注ぎ入れるお湯によるコーヒー粉の攪拌の度合いを調整できるのもポイントだ。

  • 注湯口は5つ穴のシャワー式を採用。お湯の流量の調整で、コーヒー粉の攪拌を調整できる

平塚氏によると、一般的に抽出時間は3分以内が好ましいとされるそうだ。そこで本製品には正確な抽出コントロールのために、計算コアとしてSTマイクロエレクトロニクス社のSTM 32bitマイクロプロセッサを搭載。注湯のインターバルの時間を0秒から99秒まで1秒単位で設定できる精密さだ。

コーヒー豆から抽出される成分は、水温によっても異なり、出来上がりのコーヒーの風味の大きな差を生む。「タンク内にはNTC温度センサーと呼ばれる高性能な温度センサーを内蔵し、1℃単位で正確な抽出が可能です」と平塚氏。

ドリップの精度を高めるために、専用のドリッパーホルダーも開発された。本体に搭載したシリコン製のガイドとともにドリッパーの中心と注湯口の位置を固定し、正確な位置にお湯を注ぎ入れることができる仕掛けがされている。「コーヒー粉の中心にお湯が注がれることで、コーヒー粉全体にお湯が行き渡り、未抽出・過抽出の部分が生まれることがなく、均一に抽出できるんです」と説明する。

  • サーバーを最適な位置に固定するため、シリコン製のガイドが設けられている

一流バリスタが使う道具を用い、その技術をマシンで忠実に再現するために、Hikaruに盛り込まれたのは、最先端の機能と機構設計。次回、後編ではスマホアプリとの連携など"スマートコーヒーメーカー"としてのこだわりや、デザイン意匠などについて語ってもらう。

(後編に続く)