携帯電話事業者各社のメール持ち運びサービスがスタートしている。すでにドコモ、追ってau、さらにソフトバンクがサービスインした。

電話番号そのままでドコモからau、auからソフトバンク、ソフトバンクからauなどへと移行できる携帯電話番号ポータビリティ(MNP)のサービスは2006年にスタートし、お馴染みのサービスになっている。

  • ドコモの回線契約をやめても、@docomo.ne.jpのメールを引っ越せる「ドコモメール持ち運び」

    ドコモの回線契約をやめても、@docomo.ne.jpのメールを引っ越せる「ドコモメール持ち運び」。12月17日に、他社に先駆けて登場した

MNPによって、電話番号は同番移行させてそのまま使い続けることはできても、いわゆるキャリアメールは無効になってしまう。それが契約社を引き留めるためのキャリアの最後の砦だった。

だが、今回のメール持ち運びサービスの開始によって、メールアカウントと回線アカウントが切り離され、ドコモとauの場合、330円/月の別サービスとして提供されることになった。

もちろん回線アカウントがなくてもサービスの利用ができる。回線解約後一カ月以内に申し込めば、電話会社を変えても今までのメールをそのまま使い続けることができる。

「メール持ち運び」の制約とは

ただ、いくつか制限もある。

auの場合は、メールアドレスの変更機能は使えない。また、自動転送の転送先変更は来春(2022春)からだ。既存の設定先はそのまま維持される。また、ウェブメールは使えないとされている。

ドコモでは、spモードとiモードの重畳契約ができて2つのアドレスが存在する場合があるが、その場合引き継がれるのはspモードのアドレスだけだ。また、ドコモのメールは歴史的経緯からRFC違反アドレスである可能性がある。これは、「.(ドット)」が2つ連続していたり、@の直前に「.(ドット)」があるようなメールアドレスだ。このアドレスでの送受信ができない場合がある。

また、ソフトバンクは現時点では年額契約のみで3,300円/年だが、 2022年夏頃にサービス改定を予定し、月額契約が可能になる。

いずれにしても、今回スタートした各社のサービスは、少なくとも過去に回線契約があって付随していたメールアドレスを持つユーザー向けのものであり、新規に申し込めるサービスではない。

自分だけのメールアドレスは一生モノ

SNSなどでダイレクトにコミュニケーションができるメッセージサービスが浸透しているなかで、一般的なキャリアメールにどれほどの需要があるのかはわからないが、それでも、SNSなどとは無縁の層はかなりのものだろう。そういう意味では一生使える連絡先としてのメールアドレスは重要だ。

GIGAスクール施策や、高等教育でのパソコン活用で、メールは再び活用される傾向にある。とはいうものの、小学校を卒業すれば学校で使っていたメールアドレスは返却、中学校、高校、大学とそれが繰り返される。そして就職しても転職すれば使っていたメールアドレスは変わるし、ずっと同じ企業にいたとしても退職すればそれでおしまいだ。

一生連絡がとれるメールアドレスは、やはり個人で自分のものを確保しておく必要がある。

そういう意味では、個人が個人のために使う携帯電話番号とは別に、キャリアや電話番号とは独立したメールアドレスを持つのがいいのか、それとも+メッセージなどのように明確に電話番号と紐付いたメッセージングシステムを使うのがいいのか。

後者は特定の電話番号と紐付き、端末に届くメッセージなので、メールのようにあらゆる端末で読み書きできるわけではない点で不便だが、不正利用などの可能性は低くなるかもしれない。

どちらにしても、端末ポータビリティがやっかいなLINEなどを使うよりも、ずっといい。iPhoneからAndroidなど、OSの異なる端末に機種を変更するときのデータ移行が難しいようでは困るのだ。リテラシーの低い現場では、ユーザー数の多いLINEを使うことこそDXだと主張しがちだが、決してそうじゃない。

終焉をまぬがれたキャリアメールの未来

これから世の中のDXはどんどん進む(そう思いたい)。そのときに、個人がデジタルデータをやりとりでき、そして端末や電話番号とは独立して運用でき、さらにそれらのデータをサービス側で安心安全に保守管理してくれるサービスとして、歴史あるコミュニケーション手段のメールは重要だ。

各キャリアによるメール持ち運びサービスは、アドレスによる足かせをとりはらい、誰もがいつでも任意のキャリアを使えるようにする。

おりしも、iモードの公式サイトがこの11月にほぼ22年間の歴史を閉じ、ひっそりと終了した。iモードサービスのひとつだったメールはキャリアメールの先駆けだともいえる。そして、いろいろ問題はあったにせよ、誰もがインターネットメールアドレスを持つことを実現した功績は大きい。

ほぼ四半世紀の歳月は、キャリアメールを終焉させてしまうことになる可能性はあるが、今回の持ち運びサービスで延命するかもしれない。少なくとも大手のキャリアが責任を持って提供し、一生使えるメールアドレスはそれなりの需要がありそうだ。

自分でオプトアウトしない限りは、サービス加入がデフォルトとなるようにしてもいいくらいかもしれない。意外にもその市場は決して小さくない可能性もあるのだ。