当面、新型コロナ感染の騒ぎが続きそうだ。アフターコロナどころか、ウィズコロナの世界を覚悟しなければならないようで、この騒ぎが終わったらこうしよう、などといっている場合じゃなさそうだ。

ネットが前提、オンライン主流の時期

この先、いろんなことをオンラインに頼ることが多くなる。テレワークにしても子どものリモート授業にしてもインターネットなしには成り立たない。そのあたりは実感として理解している方は多いと思う。

枝葉末節と言われるかもしれないが、こういう時代だからこそ、考えなければならないのは用紙サイズを決め打ちした印刷との訣別だ。誤解を怖れずにいえば電子の紙であるPDFもその中に含まれる。プリンターで紙に印刷することを否定するわけではない。紙もまた出力形態の重要なもののひとつであることは間違いないし、それが必要な現場もある。問題は、それを前提にコンテンツやドキュメントを作ってしまうことだ。

多くのドキュメントが作られ、オンラインで配布される中で、そのドキュメントがA4用紙に印刷されることを前提に作られている。だが、それを閲覧する環境はまちまちだ。コンピュータモニタひとつとっても、外付けの24型、ノートパソコンの15.6型、14型、13.3型とまちまちだし、タブレットやスマホにいたってはもっと小さい。理想は、どんな画面サイズ、用紙サイズで閲覧されたときにも、伝える機能がきちんと働くようにしておくことを考えなければならない。

  • 厚生労働省が公開している全国クラスターマップ(3月31日時点版)。PDFのため、スマートフォンで開いた直後の視認性は悪い。ピンチイン・アウトの拡大縮小操作で見やすいサイズに調整はできるが、最初からスマホ向けのコンテンツも用意されていれば、とも思う

多様なデバイスごとに必要な情報を伝えるには

コンピューターの世界では、出力するデバイスに依存しないことを「デバイス・インディペンデント」と呼ぶ。もちろん紙だってデバイスだ。ペーパーレスの世界観は、すでに何十年もの時間の中で、ある程度の浸透を見せてきてはいるし、ウェブページのようにデバイスに応じて最適化してコンテンツを表示する技術もある。

PDFをスマホで参照したことがある方は少なくないと思うが、A4用紙を前提に作られたPDFをスマホのような小さな画面で読み進めるのに閉口した経験はないだろうか。読める程度の本文文字サイズにピンチイン、ピンチアウトで調整し、画面をフリックしながら縦横にスクロールさせて初めてドキュメントの全容がわかる。これはたいへんな作業だ。PDFはどんなデバイスでも同じ見かけのドキュメントを再現することに成功したし、それはそれで実に大きな功績だが、どんなデバイスでも読みやすいドキュメントを作るのは難しい。

PowerPointスライドやWordのドキュメントにしても同様だ。ペーパーレスは浸透してきているかもしれないが、誰もが同じアウトプットデバイスで見るとは限らないという、この問題についてはなぜかどんどん先送りにされてきた。でも、こういうときだからこそ、このテーマに真面目に取り組みたい。本当は、コンテンツを作る側が使うワードプロセッサやプレゼンアプリ側でこうしたことを考慮した出力ができるようになっているのが理想的だ。

ちなみにGoogleドキュメントは、通常通りの手順で作成した文書をスマホで開いたときには、画面サイズに応じて最適化された状態で表示が行われる。作ったときのレイアウトよりも、そのとき開いているデバイスに最適化された状態での表示がデフォルトだ。Wordにもモバイルビューという機能があるがデフォルトではない。また、モバイルビューに切り替えたとしても日本語文書の行間等の問題があって、Googleドキュメントほどうまく機能しない。

オンライン授業、PCでもスマホでも見やすいか?

企業はこうしたマルチデバイス / ペーパーレスの環境対策にきちんと取り組めるかどうかで、その将来が左右される。従業員の生産性に関わる問題だからだ。ただ、企業は営利を目的にした組織だから、やるやらないは勝手だ。ハンコのためにテレワークができないとか、会社の外では業務メールが読めないような企業に勤務する従業員は経営サイドの判断にあきれてしまっているかもしれないが、仮にそれで組織に大きな損が出たとしても自業自得だといえる。

ただ、教育の現場はちょっと違う。きっと、今、現場の先生方は本当にたいへんだと思うが、遠隔授業におけるドキュメント、いわゆる教材のあり方について真剣に考えてほしい。リモート授業では、リアル授業における黒板やプロジェクター投影のように、その教室内の全員が同じ大きさの画面を見て、そこに展開されるコンテンツを見ているわけではない。ある生徒は大画面で見るかもしれないが、別の生徒はスマホで見るかもしれないのだ。それではいけないと、全員に同じデバイスを持たせようとするのでは何も解決しない。

冒頭にも書いたように、アフターコロナをどうするかを考えることも重要だが、今、何をすればいいのか、この状態がずっと続くウィズコロナにどう立ち向かえばいいのかを考えることが今は求められる。

ライブ授業では、その場で板書しながら講義する様子を配信する先生も増えてきたそうで、それはそれでよいことだとは思う。でも、対面の授業と同じように板書したりするものだから、その板書の内容が読めずにスマホで見ている学生が閉口しているという話も聞こえてくる。学生からしてみれば、先生の顔など見えなくていいから板書をフルスクリーンで見せろといったところかもしれない。

世の中のいろんな歪みが露出しつつある。政治も経済も、教育も、暮らしもだ。例外は何一つとしてない。