Nexus 5Xは、販売地域向けに複数のモデルがあります。1つは北米版、もう1つは香港版、そして「その他の地域」向けの3つです。その他の地域は、ROW(Rest of World)と略されることがあるのでここでは、ROW版とします。

なお、日本国内で事業者が販売しているNexus 5XはROW版をベースにしていますが、SIMロックがかけてあります。基本的な機能は同じようなのですが、ハードウェアや内部ファームウェアの細かい違いが不明です。筆者が入手したのは、Googleストアからのいわゆる「SIMフリー」版です。おそらく多くの部分は同じだと思われますが、事業者が販売するNexus 5Xとは一部違いがあるかもしれません。

さて、この複数のモデルの違いは、3GとLTEの対応周波数と、キャリアアグリゲーション(CA)のバンドの組み合わせです。これは、各国で周波数割り当てが違うことに加え、LTEや3Gをどの周波数で使うのか、CAの組み合わせをどうするのかを決めるのは個々の事業者の判断になるため、各国向けに周波数が変わるのはしかたがないことだと思われます。なお、香港版の2G/3G/LTEの周波数とCAの組み合わせはすべてROW版がふくんでおり、少なくともROW版を香港でローミング利用する場合、対応バンドでの問題はないはずです。

筆者は、購入時に、北米版にするか、ROW版にするかをちょっと悩みました。というのは、前の機種であるNexus 5では、北米版と日本版で対応周波数に大きな違いがあったからです。とはいえ、北米版だと技術適合認証の関係で日本国内で使うことができません。結局、Nexus 5は国内向けを選択したのですが、国内で使うスマートフォンは他にいくらでも持ってるので、米国専用にして北米版でもよかったかと後悔しました。

そういうわけで、今回は購入前に北米版とROW版の周波数対応について事前に分析しました。基本的な情報は、GoogleのNexus5Xのページに記載されているものを使っています。

Nexus5Xの公式ページ
http://www.google.com/intl/ja_jp/nexus/5x/

騒ぐ人がいるので断っておきますが、海外の端末の利用を推奨しているわけではありません。

周波数対応をまとめたのが(表01)です。ちょっと複雑な表になってしまったので説明しておきます。

■表01

表の上の部分は、3GやLTEの周波数(バンド)です。なお、バンド番号30未満は、FDD-LTE、30以上はTDD-LTEです。国内でLTEと言っているのはFDD-LTEで、TDD-LTEそのものは、国内ではまだ使われていませんが、互換の通信方式としてソフトバンクのAXGPやUQのWiMax2+があり、TDD-LTEのバンド割り当てを利用しています。

その下にある「3G」、「LTE」というところでNexus 5Xの北米版とROW版のバンド対応を示しています。「○」は、どちらも対応しているバンド、「R」はROW版のみ対応、「U」は北米版のみ対応しているバンドになります。Nexus 5Xは、cdmaOne/CDMA2000には未対応です。

その下のCAの部分は、CAの組み合わせを表します。CAは2つのバンドの組となるため、前半(バンド番号の小さい方)が縦にならんでいます。たとえば、CA_1-3は、バンド1(国内では2ギガヘルツ帯と呼ばれることがあります)とバンド3によるCAで、表ではCAの「1-」のところと上部のバンド3のところに、ROW版が対応しているという意味の「R」が記載してあります(セルに色をつけておきました)。簡単にいうと、Nexus 5XのCAは、この部分でRやUがある組み合わせしか対応していません。また、この部分には、ROW版と北米版で一致するところは皆無です。つまり、北米版が対応しているCAとROW版が対応しているCAはまったく一致しないのです。このため、Nexus 5XのROW版を米国に持ち込んでもCAは一切利用できません。逆に北米版を日本などで使ってもCAでは接続できません。

CAの下の部分は、事業者別の利用バンドです。黒丸がLTE、白丸が3G(UMTS/W-CDMAのみ)になっています。上の3つは日本の事業者、下の2つは米国の事業者(UMTSを採用している一部事業者のみ)です。前述のようにNexsu 5Xは、cdmaOne/CDMA2000に未対応なので、auは、LTEバンドのみを表記しています。

自分の使っている事業者と上の3G、LTE、CAの部分の一致を見ることで、どのようなバンドが利用できるのかを知ることができます。なお、バンド21(1500MHz帯)は、Nexus 5Xはまったく対応していませんが、国内の事業者が使うため、表に含めてあります。

また、日本の事業者では、CAの対応を青い横線で示しました。ドコモは3つのCAパターンがありますが、うち1つはバンド21を利用しているため、Nexus 5Xは未対応になります。

最近では、3GとLTEの周波数だけでなく、LTEで複数のバンドを組み合わせるキャリアアグリゲーション(Carrier Agregation。CA)があります。そもそも、LTEの周波数(バンド)は事業者により違いがあり、その中から組み合わせを作るCAでは、論理的には大量の組み合わせが可能になります。このため、組み合わせが可能な周波数を標準化していて、標準化された組み合わせのみが利用できるようになっています。なので、事業者が3つのバンドでLTEを運用していたとしても、その3つのバンドすべてでCAを行えるわけではないのです。なぜそうなっているのかというと、組み合わせを制限しないと、端末は、それこそ膨大な組み合わせに対応しなければならなくなります。いまは2つのバンド(キャリア)の組み合わせですが、さらに高速化するために3つ以上の組み合わせが予定されています。そうなると、さらに組み合わせの数が増えてしまい、収集ができなくなります。

Nexus 5Xでも、対応しているLTEのバンドは、ROW版で17(FDD-LTEで14、TDD-LTEで3つ)ありますが、CAの組み合わせは、20しかありません。FDD-LTEの14個の周波数の異なる2つの組み合わせは、論理上91個あり、CAでは、同一バンドでのキャリアの組み合わせもありえるため、組み合わせは100を越えます。しかし、すべての組み合わせを実現することは困難なのです。そうなると、CAの組み合わせもLTEの対応周波数の範囲で、重要度の高いものから実装ということになるのが現状です。このため、対応地域が異なると、たとえば、LTEのバンドの一部が適合したとしても、CAは使えない可能性が出てきます。なお、表で、同じバンド同士でCAになっているのは、同一バンド内で2つのキャリアを使って帯域を拡大しているという意味になります。

実際、国内での利用を考えると、ROW版(もしくは日本の事業者版)を選択するしかない感じです。少なくとも、どの事業者でも2つ以上のバンドが3G/LTEで対応しているし、CAも最低1組は対応しています。逆に米国版だと、日本の事業者が使っているバンド8、18、19が未対応で、CAの対応もありません。

結果としては、日本に対応したモデルを選ぶという当たり前の結果なのですが、今度は、米国での利用が気になります。ROW版は、米国内で使う場合、W-CDMAを採用している事業者(AT&TとT-Mobile)の3G/LTEのバンドである2、4、5に対応しています。しかし、LTEのバンド12、29には対応していません。

実際に米国に持ち込んでNexus 5Xを使って見ました(Nexus5Xは、FCCの認証があるので問題なし)。

筆者は、T-MobileのSIMを持っているのですが、そのSIMをNexus 5に入れて米国で利用しました。場所はおもにカルフォルニア州のサンノゼ付近。なお、単純なデータ通信は、他の場所(ロサンゼルス空港やシアトル空港)でも行いました。

特に接続には問題がなく、すぐにT-Mobileのネットワークに接続されます。3Gの音声通話も問題なく行えました。サンノゼで、通信速度を計測したところ、下り27Mbps、上り34Mbpsとなりました(写真01)。モバイルでの利用には十分な速度です。対応していないLTEバンドがあるので、地域によっては接続に問題が出るかもしれませんが、ROW版だからまったくダメということではなさそうです。

写真01: 米国入国後に通信速度を測ってみた。とりあえず、LTEでちゃんと通信できているようである

とりあえず、日本で購入したROW版であっても米国でローミング利用や現地SIMを使っても大丈夫というところでしょうか。他の地域、たとえばEU圏は、そもそもROW版が売られている地域なので、接続などにも問題はないと思われます。

本稿は、2015年11月24日にAndorid情報誌「AndroWire」に掲載した記事を再構成したものです。