こうして迎えた29年ぶりのキャンパスライフ。ほかの学生と一緒に並んで健康診断を受け、必修である体育の授業にも出る。ただ、10代の若者とグラウンドを走り回るのは厳しいため、競技はゴルフを選択した。
面接試験で金言を授けてくれた楊教授のゼミに入ると、「年上だから」とゼミ長に任命され、小説研究の会議を主催。「みんなのスケジュールを合わせるのが大変で。今までは番組の総合演出に会議の日程を出す側だったのですが、その立場になると“なんで全員早く回答しないんだ!”って気持ちが分かるようになりました」と発見もあった。
かつての大学生時代は真面目に授業を受けていなかったそうだが、「やっぱり自分で学費を払っているので、ちゃんと聞いてますね。だから授業サボってる子を見てると、“絶対俺より楽なんだから、ちゃんと受けろよ!”と思います」という心境に。
その矛先は先生も対象となり、「“ラク単”とか言って先生が一方的にしゃべってるだけの聞くだけで単位が取れる授業とかあるんですけど、それも許せないですね。“ちゃんと考えた授業をやってくれよ!”と思います」と正論を語る。
2人の子どもがいる大井氏。高校時代にレスリングでインターハイ優勝という経歴を持つ長女については、「今、大学2年生で俺より上の学年です。レスリング辞めちゃったんで普通に大学生してますけど、あんまり学校に通ってないんで、ムカつきますね(笑)。“単位ちゃんと取れてるか、分かんなかったら学生課に聞けよ”って言ってます」と、経験に基づく会話が増えた。
こちらもレスリングでインターハイ優勝を飾った高校3年生の長男は、「推薦か一般受験か分からないですけど、大学に行く予定です」といい、進学すれば来年からは一家の4人中3人が大学生という異例の事態に。「子どもと同じサークルに入るのが夢だった」というが、長男が日芸を選ぶことはなさそうとのことだ。
友達できず悩める新入生に…飲み会でおごることへの葛藤
コロナ以降はテレビ番組の会議はもちろん、大学の講義もリモートで、さらにアーカイブ配信するものがあるため、こうした時代の変化もあって、本業の放送作家の担当番組を減らさずに大学に通うことができている。
だが、「友達はなかなかできないです」と世代間ギャップを痛感。「敬語は取っ払えないですよね。ちょっと自意識過剰ですけど、学食でおじさんが飯食ってるところをあんまり見せたくないですし、安い学生価格で注文するのもなんだか申し訳なくて。トイレも見られたくないので、人里離れたところの個室を探して入ってます」「今頃は誰かの家に泊まりに行って、夏には一緒に宅飲みしてる予定だったんですけど、今のところそうはならなそうです」と、悩める新入生になっている。
本業との並行により、他の学生と同じようなリズムで生活を送れないことも、溶け込めきれない要因の一つ。「授業が終わったらすぐ番組のリモート会議に入っちゃって、未発表の情報もあって周りに聞かれるとマズいから、人がいない踊り場みたいなところでやってると孤立しちゃって。いじめられてるわけでもないのに、便所で弁当食ってるみたいになるんですよね。で、その後は対面の会議のためにテレビ局に移動することもあるんで、あんまり学生たちと交流できないんです」と悩ましい。
能動的に友達を作ろうと、学内の掲示板で「一緒に麻雀やりたい人はこのアカウントをフォローしてください!」と募集しているのを見て実際にフォローするも、「全然返事ないんですよ」と悲しい出来事も。
また、飲みに行くにも「若い子たちに“じゃあ2,500円ずつね”って回収するのは心が痛いんですけど、それをやらずにおごってしまうと、友達ではないと思うんです」と葛藤がある。
そんな中で、「本当にありがたい話で、テレビ好きの放送学科の子が“大井さんですよね”と声をかけてくれることがたまにあります」とうれしい出来事もあったが、「それと友達になるのとは、また話が別ですから」と進展せず。様々な人とLINEの連絡先を交換したものの「LINEが送られてくることは全くない」という。「未来の蓮見(翔、ダウ90000)くんや、Vaundyになりそうな子を見つけて、仲良くしておかなきゃいけないのに」と目論見は順調にいっていないようだ。
大学生になったからには課外活動にも参加しようと入ったのは、学園祭を運営する「日芸祭本部実行委員会」。配属されたのは広報部で、今は協賛金を集める仕事に従事しており、「1年生なので、担当企業がExcelで配られまして、そこにメールで説明して、資料を添付して送るまでが仕事です」と、年齢の配慮なく“新入り”の業務をこなしている。