第27話「願わくば花の下にて春死なん」では、1783(天明3)年から1784(天明4)年の様子が描かれた。
田沼父子の奮闘もむなしく米の値段が下がらないばかりか、父子の悪評が江戸中に広がる結果となった。また、かつて平賀源内の死に深くかかわった丈右衛門(矢野聖人)が佐野政言をロックオンし、江戸城での惨劇に発展した。
注目度トップ3以外の見どころとしては、謎の男・丈右衛門の暗躍が挙げられる。オープニングでは丈右衛門だった男とクレジットされていたが、その正体は不明で不気味な存在感をただよわせている。言葉巧みに政言を追いつめ、凶行に走らせることに成功した。闇の仕事人としてかなり有能な男であることは間違いない。次回予告でもその姿は確認できるが、さらなる波乱を巻き起こすのだろうか。
また、一橋治済に従う表坊主として、お笑いコンビ・コロコロチキチキペッパーズのナダルが初登場を果たし注目を集めている。普段とは違う落ち着いた雰囲気が新鮮だ。表坊主は、江戸城内の表御殿で大名や諸役人に給仕をする役職。同朋頭の支配下に属し、江戸城の表御殿で勤務し、登城した大名や役人に対して、案内・給仕・掃除などの雑務を担当した。
ナダルは吉本興業に所属する京都府出身の40歳。お笑いコンビ・コロコロチキチキペッパーズのボケ担当で、大河ドラマは『べらぼう』が初出演。先祖は上杉謙信の家臣だそうだ。
そして何といっても今回の見どころは、キーパーソンである佐野政言の心の動きの描写だった。政言は田沼意知のはからいで十代将軍・徳川家治(眞島秀和)の狩りの同行という絶好の機会を得る。狩りは現代で例えるなら接待ゴルフだろうか。よいプレイを魅せることができれば、上役や取引先の覚えがよくなり出世につながることは想像に難くない。
政言は首尾よく獲物を仕留めたが、その獲物は丈右衛門だった男に隠蔽され家治へのアピールは叶わなかった。父・佐野政豊の症状も日を追うごとに悪化し、さらには家宝である五代将軍・徳川綱吉から賜った桜も、寿命により花を咲かせなくなってしまうなど、散々な状況だ。そんな哀れな姿を言葉よりもそのたたずまいで表現した矢本には多くの称賛の声が集まっている。
現在で一般的な桜であるソメイヨシノは、江戸時代末期から明治時代にかけて作り出された品種。江戸時代はヤマザクラ、エドヒガン、オオシマザクラなどが一般的で、特にヤマザクラは古くから親しまれていた。ヤマザクラの寿命は100~200年といわれている。佐野家の桜は五代将軍・徳川綱吉から賜ったものだった。綱吉の在職期間は1680(延宝8)年から1709(宝永6)年なので、桜が佐野家に届いておよそ100年経っている。やはり寿命だったのだろうが、悪いことは重なってしまう。
27日に放送される第28話「佐野世直大明神」では、田沼意知が城中で佐野政言に斬られ命を落とし、政言も切腹を命じられる。意知の葬列には石が投げ込まれる中、誰袖は意知の棺を必死にかばおうとする。