『源氏物語』を生み出した紫式部の人生を描く吉高由里子主演の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)。吉高演じる主人公のまひろ/紫式部と、彼女にとって生涯のソウルメイトとなる藤原道長(柄本佑)との切ない恋をはじめ、様々な恋模様やお家騒動、陰謀などが描かれている本作だが、それらを一層盛り上げているのが、平安時代の世界観を見事に表現した美術セットだ。このたび本作の美術を担当している山内浩幹氏、枝茂川泰生氏、羽鳥夏樹氏らスタッフ陣を取材し、こだわったポイントや制作の裏話を聞いた。

  • 『光る君へ』石山寺の美術セット

現存の建物や記録が少ない平安時代。表現するにあたり美術部が決めたコンセプトについて、山内氏は「1番大事な柱が2つあります。1つは 平安絵巻の世界を色鮮やかによみがえらせること、もう1つは平安らしさの追求です」と説明する。

「例えば『源氏物語絵巻』は色が非常に褪色していますが、それができた当時の色味を復元したものがあり、我々が表現するのはその世界かなと思い、すごく色鮮やかなものを作りたいと思いました。当時は御簾も青々としていたり、几帳のデザインがとても鮮やかだったと思うので、ドラマのセットとしてそういった世界を表現したいというところからスタートしました」

平安時代中期を舞台とした大河ドラマは、平将門を主人公にした『風と雲と虹と』(1976年)以来48年ぶりとなるが、山内氏は「平安らしさの追求」について「大河の主人公というと、侍や武士、幕末の志士などを描くことが多く、平安中期となると、適したセットのパーツがないので、柱や屋根など、ほぼ一から作らないとなりませんでした。そこで今回セットを制作するにあたって、より平安らしいデザインのものを目指しました。それは 華奢で、優雅かつ優美、繊細なものであり、無骨で力強い戦国時代のものとは違います」と語る。

御簾1つとっても、色が異なると言う山内氏。

「今までの大河ドラマでは経年し色褪せた御簾を使っていたのですが、なぜ『源氏物語絵巻』ではこんなに青々としているのだろうということを研究するところから始めました。おそらく実際には上級貴族の館では、毎年のように御簾を代えていたのではないかと。そうなると常に御簾や畳は日に焼ける前の状態で、青い状態だったので、絵巻に描かれていた青々とした色彩をセットで表現したいなと思いました」

羽鳥氏も「白木の世界観ですね。平安京は当時、火事が多くて、内裏の建物が焼けてしまうことが多かったようです。だから茶色くなる前に火事で燃えてしまうため、常に白木の建物が多かったと、建築考証の先生もおっしゃっていました」と語る。

山内氏たちは実際に、建築考証の先生からリストアップしてもらった現存の建物を取材しに行ったそうだ。

「平安時代に建てられたものはなかなかないので、奈良時代や鎌倉時代の建築の一部も参考にしました。例えば、世界遺産で、神社建築としては日本最古の本殿である宇治上神社などです。平安時代後期の建物で曲線感があり、とても優雅で優美。こういう点で平安らしさが出るのではないかと思い、参考にしました」

平安時代の建築については、寝殿造が基本で、山内氏も「壁がなくて開放的です」と言う。

「実は半蔀(はじとみ)という板戸が入っていて、それを全部閉めてしまえば閉じられます。でも、閉じてしまうと真っ暗になってしまうので、映像的にもないほうがいいと思い上部ははね上げ下部は外しています。おそらく寝る時は、全部蔀を閉じたのではないかと思うのですが、昼間は出入りも多いので外していたと思われます。冬には下部だけはめるなどして季節感を出しています」

また、当時の建築物や調度品、小道具なども同様に、たとえ現存していたとしても国宝級のものなので、そこもすべて撮影用に新しく作り上げるしかなかったと枝茂川氏は苦労を明かす。

「1000年以上前のものを借りてきてスタジオ内に飾ることはできないので、我々がすべて作るしかないのです。例えば、まひろが『五節の舞』でつけていた冠や衣装、天皇の即位式の冠なども全部作りました。資料がないとはいえ、想像で作ってしまうわけにはいかないので、風俗考証の先生に相談したり、当時、そのような冠がなかったのかを絵巻物で調べたりと、いろいろな苦労がありました」