藤沢周平の短篇集『橋ものがたり』の中でも傑作と名高い人気作を映像化するドラマ『約束』(2月3日19:00~、時代劇専門チャンネルでテレビ初放送)。物語の要となる江戸・萬年橋での待ち合わせのシーンが、山口県岩国市の名勝「錦帯橋」で撮影された。

風光明媚な清流・錦川にかかる美しい五連の木造アーチ橋での撮影に「圧倒されました」「気持ちが晴れやかになります」と語るのは、錺(かざり)職人・幸助を演じる片岡千之助と、その幸助と5年後の再会を約束するお蝶を演じる北香那。そんなロケのレポートとともに、2人へのインタビューで撮影の感想や作品への思いなどを聞いた――。

  • 北香那(左)と片岡千之助

    北香那(左)と片岡千之助

江戸の情景が令和によみがえる

ロケが行われたのは、昨年9月中旬。曇り空から晴れ間がのぞき、最高気温は30℃を超えるという残暑厳しい天候だけに、時代劇のカツラをかぶっての撮影は大変だ。周囲のスタッフが何度も額の汗を拭く姿が見られた。

そんな苦労のかいあって、木造の橋にカツラと着物姿の人々が行き来すれば、そこに広がるのはまさに江戸の風景。エキストラ一人ひとりに細かく立ち位置や動きを指導して、当時の往来の情景を令和によみがえらせる。

歩行者のみ渡れる錦帯橋は、幅員5mと決して広くなく、アーチ部分は遠くから見るより急な傾斜。そんな場所で、時には一般の通行者を通しながら、キャストと裏方が大人数で参加してもスムーズに撮影が進むのは、時代劇において百戦錬磨の松竹京都撮影所のスタッフたちの力量が大きい。現場には京都弁が飛び交い、現代のものがカメラに映れば草で隠し、橋脚上の石の素材部分は木のすのこで覆うなど、手際よく作業していく。

「もう1回行こう!」に苦笑い「とにかく走ってます」

このチームをまとめるのは、『北の国から』で知られる杉田成道監督。御年79歳(撮影当時)ながら、力の入った「よーい、はい!」の掛け声が飛び、「もう少しスピードアップで! グイグイグイって!」と、熱い演技指導が現場に響き渡った。

それを受け止めるのは、時代劇初主演に挑む千之助。川沿いの草むらを早歩きするシーンに何度も挑み、カットがかかって息を切らしているところに、「今のOKで、もう1回行こう!」という監督の声が聞こえると、思わず苦笑いだ。今作では他にも、体力を消耗するシーンが多く、インタビューでは「僕はとにかく走ってますね(笑)」と振り返っている。

撮影は夜間にも行われ、川の両サイドから巨大な照明車で光を当てると幻想的な錦帯橋が浮かび上がり、昼間とは全く違う顔を見せてくれる。その橋の上で、月に照らされた男女が互いへの思いを語るシーンは、ロケーションも相まって見る者の心を一層締め付けるだろう。