ボーズから左右独立型・完全ワイヤレスイヤホンの新製品「Bose QuietComfort Ultra Earbuds」が10月19日に発売されました。独自技術の「ボーズ・イマーシブ・オーディオ」により、録音されたサウンドから生音の臨場感が味わえる最先端のイヤホンをさっそく借りて試してみたので、ファーストインプレッションをお伝えします。

  • ボーズの完全ワイヤレスイヤホン新製品「Bose QuietComfort Ultra Earbuds」。写真のカラーはホワイトスモーク

進化したQC Ultra、イマーシブオーディオやハイレゾに新対応

ボーズは2022年9月に「Bose QuietComfort Earbuds II」(直販39,600円)という完全ワイヤレスイヤホンを発売しています。初代のパワフルなサウンドをそのままに本体を小型化。一瞬のテストトーンにより、ユーザーの耳の形にあわせてサウンドとノイズキャンセリングを最適化する「CustomTune」という先端技術が話題を呼んだ人気のイヤホンです。

最新モデルのQC Ultra Earbuds(直販39,600円)は、このQC Earbuds IIをベースに、さらに2つの大きな進化を遂げています。

ひとつは、ボーズが独自に設計したソフトウェアによる没入型リスニング体験「ボーズ・イマーシブ・オーディオ」への対応です。ちまたで話題の「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)による空間オーディオ」や「360 Reality Audio」のように、イヤホンで音を“聴く”だけでなく、コンテンツに“入り込む”ような不思議な感覚を一対の小さなイヤホンだけで楽しめる点が画期的です。

  • Bose Musicアプリ(後述)に、最新の没入型リスニング体験「ボーズ・イマーシブ・オーディオ」が加わった

もうひとつの進化は、クアルコムの「Snapdragon Sound」に対応したこと。クアルコムのワイヤレスオーディオの技術をベースに、ハイレゾ再生と低遅延伝送に対応する点などが大きな特徴です(Snapdragon Sound対応のスマホなどが別途必要。詳細は筆者による2022年の取材レポートを参照のこと)。ボーズは当初、QC Earbuds IIがソフトウェアアップデートによりSnapdragon Soundに対応するボーズ初のイヤホンになると発表していましたが、結果的には先に新製品のUltraが対応する格好になりました。

QC Ultra Earbudsは、左右の本体にタッチセンサーを内蔵しています。前機種のQC Earbuds IIとの違いとして、側面の仕上げはメタリック調になり、フィット感を調整するためのシリコン製スタビリティバンドもズレにくいように形状を改良しています。

  • 左が前世代のQC Earbuds II、右が新しいQC Ultra Earbuds。外観はメタリック調になったサイドパネル以外はほとんど変わっていない

  • 快適なフィット感を実現するイヤーピースとスタビリティバンド

音質やノイズキャンセリング(NC)の効果がQC Earbuds IIから変更されているのか、新旧モデルの比較も行いました。その前に、筆者が大いに驚いた、ボーズ・イマーシブ・オーディオのリアルな没入体験をレポートしましょう。

ダイナミックヘッドトラッキングで没入感がさらにアップ

ボーズ・イマーシブ・オーディオには通常のステレオ音源も含めて、イヤホンから聴こえてくるすべてのサウンドを「立体化(または空間化)」する機能と、「ダイナミックヘッドトラッキング」機能という2つの要素があります。

ダイナミックヘッドトラッキングは、イヤホンに内蔵するモーションセンサーによって、ユーザーの顔の向きをリアルタイムに判定。コンテンツのサウンドを聞こえてくるべき方向に定位させて、没入感をさらに高める技術です。たとえばセンターの方向から聞こえてくる映画のセリフが、顔を左に向けたときは右の耳から聞こえてくるような体験が得られます。

アップルのAirPods ProとiPhoneの組み合わせでも、さまざまな音源の空間化とダイナミックヘッドトラッキングに対応していますが、各社独自のソフトウェアの技術やイヤホンのチューニングなどにより、「リアルな没入体験」には差が出てくるものです。

ボーズの新しいQC Ultra Earbudsには、クアルコムの最新世代のBluetoothオーディオ向けSoCが搭載されているものと思われます。高性能なチップのパフォーマンスを活かして開発されたボーズ・イマーシブ・オーディオはとても広い空間再現力と、違和感のない自然な音源定位を実現しています。つまり没入体験がとてもリアルなのです。

QC Ultra Earbudsの各機能の設定は、iOS/Android用アプリ「Bose Music」から行えます。初期設定の際にボーズ・イマーシブ・オーディオの機能紹介があり、デモ音源を聴きながらステレオ再生との聞こえ方の違いが体験できます。

QC Ultra Earbudsのイマーシブオーディオには、「静止」と「移動」という2種類のモードがあります。「静止」にすると音源があるべき位置に定位して、顔の向きを変えると音源が元の鳴っていた方向から聞こえてきます。つまり、こちらがダイナミックヘッドトラッキングがオンの状態です。「移動」を選ぶと、顔の向きを変えても音源の位置に影響が及びません。歩いたり、エクササイズで身体を動かしながらイマーシブオーディオを体験したい時には「移動」がおすすめです。

  • ヘッドトラッキングは「静止」と「移動」のふたつのモードが選べる。任意のサウンドモードに設定して保存することも可能

ボーズ・イマーシブ・オーディオはすべての音源に対して効果をかけることができます。元がステレオ録音の音楽から、Netflixの映画、YouTubeの動画、ゲームのサウンドトラックまで、あらゆるコンテンツのサウンドが鮮烈な立体音楽体験に変わり、サウンド空間の中に飛び込めます。

QC Ultra Earbudsを装着した筆者は今回、ボーズ・イマーシブ・オーディオをオンにして、小学生だった1980年代に夢中で楽しんでいた音楽と映画の世界にタイムリープしてみました。

驚きの没入感! なつかしい音楽・映画で楽しむタイムリープ体験

まずは原田知世が主演する映画『時をかける少女』のオリジナル・サウンドトラックから、テーマ曲の「時をかける少女」を聴きました。

これは……。映画が公開された1983年に、エンタメに早熟だったクラスの友だちと一緒に大船の映画館に出かけた当時の思い出があまりにも鮮やかによみがえってきます。原田知世のはかなげな歌声が、手を伸ばせば届くような距離にふんわり浮かび上がって聴こえます。

同じ曲をアップルのAirPods Proでも繰り返し聴いてきましたが、ボーズの方が低音の躍動感が充実しています。耳もとを駆け抜けるような爽やかなエレキベースの疾走感。とても切ない物語の幕切れを噛みしめながら映画館を出て、仰いだあの日の真っ青な空の色を思い出してしまいました。ボーズ・イマーシブ・オーディオは音楽を包み込む空気までも再現する、驚くべき新機能です。

  • 映画『時をかける少女』のサウンドトラックをQC Ultra Earbudsでリスニング。イマーシブオーディオの効果が抜群。封切りされた当時の映画館の思い出が鮮やかによみがえってきた

Netflixで配信されている映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』も視聴しました。聴きどころはやはり物語の序盤、マーティがデロリアンに乗って1955年にタイムリープするシーン。背後からも包み込まれるような分厚い効果音、足もとから響いてくる重低音に固唾を吞んでしまいます。QC Ultra Earbudsで聴く映画のセリフは、とても歯切れが良く明瞭です。BGMに使われている80年代の煌びやかなロックミュージックも、Ultraは明るく楽しげに聴かせてくれました。

QC Ultra Earbudsには、「クワイエット(ノイズキャンセリング)」「アウェア(外音取り込み)」のほかに「イマーション」(没入体験)を新たに加えた3つのモードがあります。それぞれのモードをアプリから設定して、イヤホンのタッチセンサーを長押しする操作で切り換えられます。

Bose Musicアプリはモバイルデバイスにしか対応していませんが、イマーシブオーディオの信号変換処理はイヤホンの側で行われます。イヤホンのタッチセンサーからモードを「イマーション」に切り換えれば、Netflixの映画をスマホよりも大きなパソコンの画面で見るときにも立体音響体験が味わえます。

  • イマーシブオーディオの効果はアプリではなく、イヤホン側で処理を行うため、パソコンやオーディオプレーヤーに接続してもイマーシブオーディオが楽しめる

QC Earbuds IIを持っていても「Ultra」が欲しくなる

最新のQC Ultra EarbudsのサウンドをQC Earbuds IIと比較してみました。モードは「クワイエット」にそろえています。その差はわずかですが、Ultraの方が中高域の抜け味が向上して、音場もよく見渡せます。QC Earbuds IIの方がフラットで聴き疲れしないバランスに整っているので、長時間のリスニングに向いているかもしれません。いずれにせよUltraはイマーシブオーディオに対応しただけでなく、前機種とサウンドを聴き比べて楽しめるイヤホンであると言えます。

  • QC Ultra Earbudsも充電ケースがコンパクト。イヤホンはフル充電から最長6時間の連続リスニングに対応する

QC Ultra Earbudsは、強力なノイズキャンセリング(NC)機能を前機種のQC Earbuds IIから受け継いでいます。消音効果はいきなりググッとかかるのではなく、スッと自然に移行する感覚です。イヤホンを装着して、音楽を再生せずにモードをクワイエットからアウェアに切り換えてみると、それぞれの効果のほどがよくわかります。クワイエットモードでは、にぎやかなカフェのBGMまでが聞こえなくなりました。反対にアウェアのときには、イヤホンを外した状態と変わらないほど周囲の音が耳に飛び込んできます。消音効果がとても高いので、屋外を歩きながら使うときはアウェアモードへの切り替えがマストになります。

ユーザーがNC効果の強度と、イマーシブオーディオのモード(オフ/静止/移動)を任意に設定して、保存した値を繰り返し使うこともできます。オフィスや自宅などで、NCを弱めにかけて周囲の環境音にも気を配りながら音楽を聴きたいときに便利です。

ボーズのQuietComfort Ultra Earbudsは、ルックスこそ前機種のQuietComfort Earbuds IIによく似ていますが、革新的なボーズ・イマーシブ・オーディオの機能を搭載したことによって「まったくの別モノ」になっています。iPhoneには手軽にイマーシブオーディオが楽しめるAirPodsシリーズという相棒があります。Androidスマホのユーザーが求めていた、高品位なイマーシブオーディオ体験が味わえるワイヤレスイヤホンとして、筆者はQuietComfort Ultra Earbudsを推したいと思います。