NTT東日本は6月、コロナ禍の中で入社した若手社員の研修として、地域課題を現地で体験し、地域創生の力を養うワークショップを南相木村、さとゆめとともに開催した。地方自治体での研修を推進するNTT東日本の狙いについて聞いてみたい。

  • 南相木村で研修を行ったNTT東日本と南相木村のみなさん

南相木村が抱える観光資源と課題

長野県南佐久郡の南相木村は、総面積の約9割を山林、原野が占める自然豊かな自治体だ。平均標高1,158mの内陸性高冷地気候で、年間平均気温は9度と冷涼、降水量・降雪量ともに少ない。基幹産業は農業、林業であり、白菜やレタスを中心とした高原野菜の生産が盛んに行われている。

  • 南相木村の基幹産業のひとつ、農業を支える白菜やレタスの畑

主な観光資源には、日本一標高が高いダム「南相木ダム」、オートキャンプ場やコテージなどを備える「立原高原キャンプ場」、滝と温泉を楽しめる「滝見の湯」、シナノユキマスのフィッシングポイントとして知られる「立岩湖」など。

  • つつじ園が魅力の立原高原では野外ステージでのイベントも開催可能

  • 露天風呂やジェットバス、サウナなどを備え、地元食材の料理も楽しめる滝見の湯

全盛期には人口約2,800人まで達したが、現在の人口は955人と、およそ三分の一まで減少している。生まれてくる子どもの数より亡くなる高齢者が多く、少子高齢化の影響を強く受けている自治体と言えるだろう。それだけに、移住者を募る意気込みは強く、さまざまな施策を行っている。

2022年9月、そんな南相木村の住民として、地域活性化の伴走型コンサルティングを行う会社であるさとゆめのスタッフが一名加わった。それが森勝哉氏だ。森氏はNTT東日本の「社外派遣プログラム」を通じてさとゆめに派遣されたNTT東日本社員であり、現在も2LDKの村営住宅で一人暮らしをしている。

  • NTT東日本からさとゆめに派遣され、南相木村で暮らす森勝哉氏が研修をプロデュース

NTT東日本は6月、この森氏を講師とし、南相木村で2回に分けて地域創生の力を養う2日間のワークショップを開催した。参加者はNTT東日本社員46名(23名×2回)。地域創生を柱とするNTT東日本の若手社員が体験したワークショップの模様を追ってみたい。

現地視察ワークで知る村の魅力と課題

6月8日、南相木村に集ったNTT東日本社員23名。南相木村の村長を務める中島則保氏は、「南相木村が今後どのように地域活性を進めていけば良いか、若い皆さんのお知恵を拝借できればと思っています。プレゼンの中で『これはいいな』と思ったものは実行していきたいと考えておりますので、ぜひアイデアをお聞かせください」と参加者を激励した。

  • NTT東日本の若手社員を歓迎する、南相木村長 中島則保氏

南相木村の特徴について説明を受けた23名は、そのまま現地視察ワークに出発。始めに南相木村地域おこし協力隊の物販事業部として移動販売を運営している、グラフィックデザイナーの野澤理恵氏のもとを訪れた。

埼玉県川越市から移住してきたという野澤氏は、18年間グラフィックデザインの仕事をしてきたが、中学生のころから農業に興味があり、地域おこし協力隊に参加したという。物販事業部に配属される前は村で生産されている野菜をブランド化し、首都圏に届けることを目指していた。その経緯で誕生したのが移動販売車だ。移動販売車は、「南相木村の認知度を高める」「生産者の活躍の場を増やす」「村内の高齢者介護をサポートする」の3つを柱として活動している。

  • 移動販売車を運営する、南相木村地域おこし協力隊 物販事業部 グラフィックデザイナー 野澤理恵氏

次に、南相木村役場の総務課で企画係長を務める小平雅之氏が、南相木村の代表的な一次産業である林業と農業について説明する。

現在、村内で林業を営む会社は1社のみで、南相木村を含む3町村を管轄する南佐久中部森林組合も業務を行っているが、木の成長に仕事が追いつかないという。南相木村の山林はその7割が人の手で植えられたカラマツ。カラマツは30年で伐期を迎えるが、多くの木はすでに40~50年を迎えている。質の良い木があっても、林業に携わる人が減少しており、出荷できないというのが現状だ。

同村の農業の中心は白菜とレタスだが、これらは昭和30~40年代に行われたパイロット事業で畑を開墾した大規模農家でないと十分な収入を得られない。長野県には川上村や南牧村など大規模農業を推し進めている地域があるが、南相木村ではそこまで規模の大きな農家は少ない。また共通した課題として、やはり高齢化がある。後継者もまれに誕生するものの、担い手は減少傾向にあるという。

  • 南相木村の林業や農業について説明する、南相木村役場 総務課 企画係長 小平雅之氏

最後に、4年前に南相木村に移住し、夏秋いちごの栽培を学んで2021年に「大空夏いちご農園」を開園した丸山英樹氏のもとを訪問。大空夏いちご農園は、全国で0.1%しか採れない希少な夏秋いちご「サマープリンセス」をハウス3棟で作っている。現在は取引のある出荷先のほか、農産物直販サイト「食べチョク」と、南相木村のふるさと納税返礼品でいちごを提供しているという。

丸山氏が南相木村を選んだ理由は大きく3つあるという。ひとつは、就農支援が受けやすい上に、農地の確保や農業資材の調達も行いやすいこと。ふたつ目が標高が高く冷涼な気候のため、他の産地とは異なる時期にいちごを出荷できること。3つ目は、東京・名古屋・大阪いずれにも出荷しやすい立地であることだ。こういった特色を活かして、一般的にいちごが出荷されない夏場をターゲットにしたいちご栽培を行っている。

  • 夏秋いちご「サマープリンセス」を栽培する、大空夏いちご農園 代表 丸山英樹 氏

現地の生の声が聞ける貴重な機会ということもあり、NTT東日本社員はいずれの視察場所でも、移住を決めたきっかけや働き方、村の特徴や課題などについて熱心に質問していた。ここで一日目の日程は終了だ。

地域活性化に向けグループディスカッション

明けて二日目、NTT東日本社員は村役場に集合。6つのグループに別れ、現地視察から得られた情報をもとにグループディスカッションを開始した。テーマは「2日間の体験をもとに南相木村の課題解決、地域活性化に向けた取り組みを考えてみよう」。各グループには村役場の若手職員も加わり、具体的なプランを作っていった。

  • グループディスカッションに臨むNTT東日本社員23名と南相木村職員6名

  • 野澤氏や丸山氏からアドバイスを受けつつ、プランを練り込んでいく

南相木村役場およびNTT東日本の評価者による審査で1位に輝いたグループには、南相木村にある⽴原⾼原キャンプ場のオートキャンプ無料利用券もしくは コテージ利⽤料⾦半額券という景品が贈られた。

  • 甲乙付けがたいプランが並ぶ中、もっとも評価されたグループBのプラン

森氏は、最後に「若い方々がこんなに村に来てくれる機会は本当にありません。そのうえこれだけの提案をくださり、本当にありがたく思っています。アイデアを実装していくうえでは、"誰がやるか""実行できるか"というふたつの点が重要です。医療、教育、子育て、観光、なんでもいいので自分の中に軸を持って取り組んでほしいと思います。今回の研修が、みなさんが軸を持つきっかけになればうれしいです」とNTT東日本社員に想いを語り、二日間の研修は終了した。

地域創生の研修に本腰を入れるNTT東日本

NTT東日本社員23名が、2日間南相木村に滞在する研修が2回に渡って行われた今回の取り組み。その目的はどのような点にあったのだろうか。さとゆめの森氏、南相木村役場の小平氏、そしてNTT東日本 埼玉事業部 ビジネスイノベーション部 マーケティンググループ 第三マーケティング担当の青山悟氏に伺ってみたい。

森氏は、「きっかけは、僕が仙台市から南相木村に移住したことです。NTT東日本 長野支店さんとお付き合いをする中で青山さんをご紹介いただきまして、『研修をプロデュースできないか』とお話がありました」と経緯について話す。青山氏は社内研修に関する取り組みを進めており、実際に南相木村で活動を行っている森氏に白羽の矢が立ったというわけだ。

  • NTT東日本 総務人事部 人事第二部門 トレーニー / さとゆめ コンサルタント 森 勝哉 氏

その背景には、コロナ禍の中で入社してきた社員の境遇がある。「最初期のコロナ禍世代は今年で4年目になります。ですが、これまで彼らは現地で互いに顔を合わせることができませんでした。そんなコロナ禍世代に交流の場を持たせたかったのは大きな理由です。同時に、実際に現地を訪れ、現場の声を聞くことで、若手が自ら発信・提案を行うきっかけを作りたいと考えました」と、森氏は熱意を込めて語る。

こういった研修は新潟県上越市でも行われている。だが、NTT東日本は地域の魅力を発掘することを大きなミッションとしており、よりさまざまな地域で研修を行いたいという思いがある。青山氏は、「自治体の協力がなければ研修も表面的なものになってしまうところ、森さんとの出会いのおかげで自治体と繋がることができ、厚みのあるコンテンツができ上がったと思います」と満足げに話す。

  • NTT東日本 埼玉事業部 ビジネスイノベーション部 マーケティンググループ 第三マーケティング担当 青山 悟 氏

「コロナ禍によって机上での研修が増えましたので、若手社員は業務人間になってしまっており、学んだものを業務以外でアウトプットする場面がありませんでした。現地の生の声をヒアリングして課題解決を行うことで、単なる仮説ではなく、アウトプットの幅を増やしてほしいのです。みなさまの役に立つという充足感を味わってもらえるのが、この研修と他の研修の違いではないかなと思っています」(青山氏)

さとゆめ側にもメリットがある。南相木村で施設の経営改善、観光の底上げを担う上では、1~2年ではなく長期的な目線で伴走型のコンサルティングを行わなければならない。NTT東日本との連携で研修事業を行えること、若い世代が南相木村を知る機会を作れることは心強い。企画や立案だけではなく、それらを実行していく人が必要だからだ。森氏は「観光資源や施設が村内に点として存在しています。それを線、そして面に広げていければ」と述べる。

小平氏は「当村を研修先に選んでいただいたことは、役場職員の刺激にもなっています。民間と一緒に村の将来について考える機会は非常に少ないので、とてもよい機会になりました。客観的に村を見る第三者と触れあえた意義は大きいと思います」と取り組みについて感謝を伝える。

  • 南相木村役場 総務課 企画係長 小平雅之 氏

それでも、地方自治体が移住を募るのは簡単ではない。他の多くの自治体の中から選んでもらわなければならないからだ。南相木村は、一定期間のお試し居住ができる移住定住促進施設「たまる家」「やばな家」の整備、引越しにかかる費用の一部補助や定住促進給付金などの制度作りを進めている。

最後に青山氏は、「研修の制度と中身は、回を追うごとにより良くなっています。現地での研修というパターンを他の県域でも実施したいですね。もし当社以外の企業さんも同じ学びを求めてくるようなことが起きれば、より大きなシナジーが生まれるのでは」と期待を述べた。

今回のワークショップは、南相木村にとっても、さとゆめにとっても、そしてNTT東日本にとっても価値があった"三方よし"な取り組みと言えるだろう。南相木村とさとゆめ、そしてNTT東日本の取り組みは、少子高齢化が進む日本における地域創生の可能性を見せてくれるものだった。