第44回将棋日本シリーズJTプロ公式戦は、1回戦第3局の佐藤天彦九段-稲葉陽八段戦が7月22日(土)に静岡県静岡市の「ツインメッセ静岡北館大展示場」で行われました。対局の結果、183手の熱戦を制した佐藤九段が渡辺明九段の待つ2回戦への進出を決めました。

横歩取りの力戦形

振り駒で先手となった佐藤九段が角道を開けて対局がスタート。後手の稲葉八段も角道を開けて応じた結果、本局の戦型は横歩取りに落ち着きました。飛車先の歩交換を保留して玉を立ったのが稲葉八段工夫の一手で、ここから局面は定跡のない力戦形に導かれます。稲葉八段は先手陣に打ち込んだ角を飛車との交換に持ち込むことに成功しました。

ジリジリとした第二次駒組みが続きます。序盤の一歩得を生かしたい先手の佐藤九段は持久戦を志向しますが、自陣の金銀が上ずると後手から飛車の打ち込みが生じるため慎重な指し手が求められます。駒組みが頂点に達したところで後手の稲葉八段が1筋の歩を突き捨てて本格的な戦いが始まりました。

佐藤九段がとっさの勝負手で逆転

先手陣右辺に空間を作った稲葉八段はもくろみ通りに飛車を打ち込んで竜を作りますが、一方の佐藤九段も2枚の自陣角を活用して徹底抗戦。竜と角の働きの差によって形勢の針は少しずつ稲葉八段の方に触れ始めますが、両者30秒の秒読みのなか佐藤九段が放った勝負手によって局面は大きな動きを見せます。

盤上五段目に控えていた2枚の桂を次々に成り込んで後手の玉頭を攻めたこの勝負手に対し、稲葉八段が対応を誤ります。この成桂を金で取ると先手から王手飛車取りの筋と角による金取りの2つの筋があって危険と見た稲葉八段はとっさに玉を引く対応をひねり出しますが、局後の検討では強く成桂を取るほかなかったと結論付けられました。

終局時刻は17時21分(15時23分対局開始)、最後は自玉の詰みを認めた稲葉八段が投了。局後SNSを更新した佐藤九段は、勝負手となった桂成りについて「(30秒の秒読みがあるなか)すぐ指したのは本能」だったと振り返りました。勝った佐藤九段は2回戦に進出、ベスト4入りをかけて9月16日(土)に香川県高松市の「サンメッセ香川大展示場」で行われる渡辺明九段戦に臨みます。

  • 佐藤九段は「角があまり働かず冴えない将棋になってしまった」と本局の中盤戦を振り返った

    佐藤九段は「角があまり働かず冴えない将棋になってしまった」と本局の中盤戦を振り返った

水留 啓(将棋情報局)

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