第36期竜王戦(主催:読売新聞社)は、決勝トーナメント3回戦の広瀬章人八段―伊藤匠六段戦が7月5日(水)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、相掛かりの空中戦を70手で制した伊藤六段が丸山忠久九段の待つ準々決勝に進出しました。

勝敗分けた中盤の一手

振り駒で先手番を得た広瀬八段は相掛かりの戦型を選択。歩交換ののち飛車を五段目に構えたのは後手からの角での飛車取りを防ぎつつ3筋での歩交換を狙う意味合いで、ここまで数局の実戦例があります。本局ではここから後手の伊藤六段が積極策を披露しました。角交換ののち、飛車を中央に回って先手の玉頭に狙いをつけたのがその手始めです。

広瀬八段にしてみると手の広い局面ですが、本局ではこの直後の一手が形勢を分けるポイントとなりました。自然な桂跳ねで攻撃陣の拡充を急いだ広瀬八段ですが局後この手を悔やむことに。感想戦ではこの手以降、先手が有利になる手順は発見されませんでした。実戦はここから伊藤六段の怒涛の玉頭攻めが始まります。

「終盤は駒の損得より速度」のお手本通りの寄せ

手番を得た伊藤六段は桂頭攻めも交えて攻めを組み立てます。広瀬八段としては桂跳ねに費やした一手によって玉頭を守る金上がりの一手が間に合っていないのが響きます。自陣角を放って辛抱する方針を明示した広瀬八段を尻目に、伊藤六段は自然な手順で先手の飛車をいじめて優位を拡大しました。広瀬八段はこの飛車を交換に持ち込むのが精一杯です。

なんとか駒損を回避しながら立ち回る広瀬八段でしたが、伊藤六段の攻めは明快でした。盤上に打った飛車をすぐに先手の銀と刺し違えたのが筋に明るい寄せで、駒損でも先手玉を危険地帯に引っ張り出してしまえば紛れがありません。終局時刻は18時52分、攻防ともに見込みなしと認めた広瀬八段が投了を告げて伊藤六段の勝利が決まりました。

局後、勝った伊藤六段は「(この先も)目の前の一局に集中したい」、敗れた広瀬八段は「いろいろと認識が甘かった」との感想を残しました。伊藤六段は次局で丸山忠久九段と対戦します。

  • 昨年は3回戦で稲葉陽八段に敗れていた伊藤六段だが、今年はどこまで勝ち上がれるか(写真は第52期新人王戦三番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

    昨年は3回戦で稲葉陽八段に敗れていた伊藤六段だが、今年はどこまで勝ち上がれるか(写真は第52期新人王戦三番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

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