ベストセラー作家・池井戸潤の同名小説をもとに、メガバンクの支店で起こった現金紛失事件をめぐり、さまざまな銀行員の群像がスリリングに描かれるミステリー『連続ドラマW シャイロックの子供たち』(毎週日曜 22:00~全5話 ※episode0は無料放送)が、10月9日からWOWOWで放送&配信スタートする。出世コースは外れながらも部下からの信頼は厚く、銀行内で起きた事件の真犯人を追うも、ある日突然失踪してしまう西木雅博を演じた井ノ原快彦に、池井戸作品の魅力や、ドラマの見どころについて語ってもらった。

  • 井ノ原快彦

――まずは、脚本をお読みになった印象からお聞かせください。

今回のドラマの制作が発表になって、池井戸さんファンの友人から「井ノ原さんがあの西木役をやるんですか?」って驚かれたんですよ。原作の西木は、太目で薄毛の男だから。「いや、今回のドラマ版では西木は少し違うキャラクターになっているんだよ」って説明しましたけど、みんな「どんな西木になっているのかすごく楽しみだ」って言ってました(笑)。原作とは全体の構成も多少変わるので、僕も「ドラマではそういう切り口でいくのか!」とワクワクしました。脚本と原作の西木を読み比べると、印象がまったく違う部分と忠実な部分とがあって、原作ファンとしてはそこを照らし合わせていく作業もすごく楽しかったです。WOWOWのドラマの現場は、プロフェッショナルの集まりという感じがすごくありました。

――西木をどういう人物だと捉えて演じられたんですか?

周りのみんなが西木という男について語っていくことで、徐々に彼の人物像が浮き彫りになっていく構造なんです。原作に書かれていることを参考にしながら、他の俳優さんとの関わりのなかで、だんだんつかめてくる感じもあって。非常に難しいけど、その分やりがいも大きい役どころだから、僕自身やればやるほど西木に興味が湧いてくるんですよね。とはいえ、回想シーンが多くて時系列も複雑なので、今がいつの時代か毎回確認しながらやらないと、自分でもよくわからなくなるんです。衣裳も基本的には紺色のスーツなんですが、年代によって微妙に違ったりするんですよ(笑)。

――池井戸作品に出演する上でのプレッシャーもあったりするのでしょうか?

もちろんどんな作品でも毎回プレッシャーはあるんですけど、特に原作ファンが多いドラマや映画をやる時は、いつも以上により意識して、丁寧にやるようにしています。僕自身も好きな小説や漫画が実写化されるって聞くと、どうしても自分のイメージと照らし合わせて「えーっ!」と思う方だから。もちろん良い意味での裏切りもあるとは思うんですけどね。

――数ある池井戸作品の中でも、本作の魅力はどんなところにあると思いますか?

池井戸作品の特徴としては、ちゃんと人間が描かれているところにあると思うんですよね。人はお金を目の前にした時どう変わっていくのか。その渦の中に巻き込まれていく人たちを引きで見ている感じなんですけど、西木のように出世街道から外れてしまった人からすると、銀行という組織はどのように映るのか。ドラマの中の西木は決して卑屈なわけでもなくて、自分の境遇を笑い飛ばしながらも、「絶対に自分に嘘をついてはいけない」「裏切ってはいけない」といった信念のようなものを、ずっとどこかで持ち続けている人だと思うから。

――西木は銀行員でありながらも、刑事さながら独自に指紋採取を始めていく……という、予想外の展開にゾクゾクしました。西木の取る行動について井ノ原さんは理解できますか?

すごくよくわかりますよ。西木さんのやってることは。いわゆるわかりやすいヒーローじゃないけど、僕の中ではヒーロー的な人物でもあって。ただ、"指紋採取する"というセリフが、「ちょっと刑事っぽくなっちゃってる」って、監督からは何度か指摘されましたけど(笑)。

――そこはやっぱり『特捜9』(井ノ原主演のドラマ)味が出ちゃうんですね(笑)!

そう。「銀行員が刑事っぽいことをしようとしたとき、どれくらいのトーンで"指紋採取"って言うものなんだろう?」って、分かんなくなっちゃって(笑)。西木がひょうひょうとやる感じが痛快なんですが、逆にこれをやられたら真犯人は怖いだろうなぁと。一方で、「こんな子供だましみたいな指紋採取セットでうまくいくわけないじゃん!」とも思いながら。

――ある種、人狼ゲーム的というか。西木の行動によってビクビクしている人たちが銀行内にいるのかどうか、俳優陣の芝居合戦も見どころですね。主演が失踪する……という、なかなか珍しいドラマでもありますが、本作の見どころについてはどう感じていますか?

まずドラマの冒頭で西木が失踪する場面が描かれて、そこから「この男はなぜそんなことになってしまったのか――」という壮大な答え合わせが始まっていくわけなんだけど、答え合わせだったってことをうっかり忘れてしまうぐらい、物語にのめり込んで観てもらえるのが、このドラマの面白さだと思うんですよね。終盤に一気に謎解きの要素がたたみかけてくるので、「あ、この人いま居ないんだ!」って、ときどき思い出しながら観てもらえたら(笑)。

――ちなみに、共演者の方々とは、現場でどんなお話をされたんですか?

今回、初対面の方が多かったんのすが、不思議とみんな昔から知っているような感覚になりました。上司役の萩原聖人さんは『若者のすべて』というドラマに僕がゲストで出させていただいたときのことを覚えていてくださって、「懐かしいね」なんて話をしたり。部下役の西野七瀬さんとは延々とタコの話をしたりしてますね(笑)。広めの楽屋でディスタンスを取りながら、みんなの家族構成や出身地を聞いてたりしてクロストークを楽しんでいます。事務所の後輩の加藤シゲアキとも、今回お酒の話で盛り上がったんですよ。すごくいいお酒を教えてもらったから、早速買ってみたりなんかして。結構交流を深められたと思いますね。

――改めて、本作で銀行の世界に触れてみて思うことは?

銀行はお金を扱う場所だからものすごくシビアな世界だし、信用商売でもあるからお辞儀の仕方とか身なりとかからして、自分がいかに誠実な人間であるかを相手に印象づける必要があるんです。縛りのキツイ世界だからこそ、そこから一歩離れたとき人はどんな顔を見せるのか、みたいなところも銀行モノならではだったりするし。銀行は誰でも入れる場所ではあるけど、誰もがその裏側を知っているわけじゃない。「ちょっとお時間よろしいですか」って商品をお勧めされる理由とか、このドラマを通じて長年の謎が解けた部分もありました。僕らの知らない舞台裏で、いろんな感情が渦巻いている。面白いですよね、銀行って。