アップルの新しいスマートウォッチ、「Apple Watch Series 8」と第2世代の「Apple Watch SE」を発売前に試したファーストインプレッションを報告します。今年、Apple Watchの購入を検討している方の参考になれば幸いです。

  • Apple Watch Series 8(右)と第2世代のApple Watch SE(左)をレポートします

広いスクリーンと曲線美が魅力のSeries 8

Apple Watch Series 8は、歴代進化を続けてきたメインストリームモデルです。従来機種のSeries 7以降から拡大したスクリーンと、なめらかな曲線を活かしたエレガントなデザインをそのまま継承しています。

  • 順当な、そして大事な飛躍を遂げたApple Watch Series 8

今回筆者が試したのはGPS+セルラーモデルで、ケースは大きいサイズの45mm、素材はアルミニウム。4色あるカラバリの中の「ミッドナイト」です。新しいMacBook Airに加わったミッドナイトに比べると、青色よりも黒色に近いダークな印象を受けます。

  • 風防には、ケースの四隅まで滑らかにカーブした曲面ガラスを採用しています

四隅のエッジまで表示領域が広がるスクリーンはやはり視認性が高く、柔らかな本体デザインはさまざまなApple Watch専用のバンドと合わせてもサマになります。筆者が今年購入したアセテート樹脂を素材に使ったスタイリッシュな「Air Bangle」を装着してみても、よく合います。

  • ミッドナイトのSeries 8にAir Bangleを装着。とてもいいです

今回は、第2世代のApple Watch SEも同時にチェックしました。44mm、ミッドナイトのGPS+セルラーモデルです。Apple Watch SEにミッドナイトが加わるのは今回が初めて。アルミニウムのケースと、ナイロン複合材を採用して軽量化を図ったバックケースの色も丁寧に合わせています。

  • 第2世代のApple Watch SEには、新色のミッドナイトが加わりました

  • バックケースの色も丁寧に合わせています

筆者の“買い”はSeries 8。そのワケは?

これから初めてのApple Watchを買うことを検討されている方に、筆者はあえてエントリーモデルのSEではなくSeries 8を勧めたいと思います。

なぜなら、Apple Watchのエッセンシャルな機能はSEにも十分備わっていますが、これからのウェアラブルデバイスのトレンドを牽引しそうな革新的テクノロジーと機能が楽しめる将来有望なスマートウォッチはSeries 8だからです。

小さなポイントですが、筆者がとても大事な進化と考えているのがApple Watchの発売に先行してリリースされたwatchOS 9の新機能であり、Series 8(とSeries 7)とUltraでのみ使える便利な「日本語キーボード入力」が加わったことです。その魅力はまた後ほど触れたいと思います。

というわけで、最初にSeries 8から魅力と楽しみ方を紹介します。

Series 8の新機能「皮膚温測定」が果たす役割

Apple Watch Series 8には、手首の皮膚温を測定するためのセンサーが新たに内蔵されています。

このセンサーは、Apple Watchを夜間に装着したまま眠っている間、ユーザーの手首の皮膚温を静かに計測します。センサーは肌に近い本体の背面と、ディスプレイのすぐ下に1つずつ搭載し、室温による影響を減らす工夫を凝らしています。

  • Series 8のバックケース。本体の背面にもひとつ皮膚温センサーを搭載しています

5日間連続で皮膚温を計測すると、Apple WatchをペアリングしたiPhoneの「ヘルスケア」アプリに手首皮膚温の変遷がグラフ化されます。センサーは0.1度のわずかな皮膚温の変化まで測定できる精度を備えていますが、いわゆる「体温」を測定するものではありません。したがって、グラフには皮膚温の数値が表示されません。皮膚温の傾向を読み取ることで、全身の体温変化の指標とするためのデータなのです。

  • 5日間、Series 8を装着したまま眠ると、皮膚温センサーの記録がヘルスケアアプリに表示されます

ヘルスケアアプリには、女性の周期を記録する機能が搭載されています。皮膚温の計測データを周期記録のアルゴリズムに反映させることで、より正確に月経周期を把握したり、過去の排卵日を推定して家族計画に役立てられるとアップルは説明しています。

手首の皮膚温計測を続けて行うと、男女に関わりなくユーザーの健康状態を正確に把握したり、ストレスの変化なども把握できるようになるはずです。皮膚温計測に対応するApple WatchのSeries 8とUltraが登場したことで、今後サードパーティのデベロッパからもデータを活かした画期的なアプリが誕生するかもしれません。

役立つ場面が訪れないことがベストな新機能、衝突事故検出

Apple Watch Series 8と第2世代のSEが搭載する新機能のひとつに、自動車による衝突事故検出があります。残念ながら実機では試せない機能なので、どういうものか簡単に説明します。

衝突事故検出は自動車のドライバー、または助手席等に座る同乗者が対応するApple Watch Series 8/Ultra、またはiPhone 14シリーズを身に着けている時に自動車事故に遭った場合、端末が自動的に緊急通信サービスにコンタクトを取ってくれます。言うなれば「ユーザーの命を守ること」を目的として開発されました。

Apple Watchは、本体に内蔵する最大256Gまでの衝撃を検出する高重力加速度センサー、気圧センサーやマイクなど複数のハードウェアと、100万時間を超える実験と機械学習により獲得した衝突事故を素速く判定するアルゴリズムを搭載しています。

もし、重大な衝突事故が検出された場合、デバイスがユーザーに確認を取りますが、10秒経ってもユーザーから応答がない場合は緊急通報サービスに自動でつなぎ、位置情報を知らせます。同時に、ユーザーが登録する緊急連絡先にも事故情報が共有されます。

  • Apple Watchを身に着けているユーザーが自動車事故に遭遇したことをウォッチが検知すると、自動で緊急通信のメニューが起動。10秒間反応がなければ、自動的に緊急通信を発信します

Apple Watch、またはiPhoneのどちらかが衝突事故検出に対応していれば、万が一の事態が発生した時にユーザーが効率的に助けを呼べるよう、デバイス同士がシームレスに連係します。

Series 8のバッテリー持ちが向上する新しい「低電力モード」

Apple Watch Series 8には、新しい「低電力モード」が搭載されます。オンにすると、通常は最大18時間の連続駆動時間が、およそ2倍の最大36時間にアップします。

操作方法はとても簡単。ウォッチの設定からバッテリーを選択するか、またはホーム画面を下から上に向かってスワイプアップしてからコントロールセンターを呼び出し、バッテリーメニューの中に入って「低電力モード」をオンにします。

モードが切り替わると、Series 8の常時表示ディスプレイが無効化されますが、画面をタップすると時刻や文字盤の情報を見たり、アプリも普通に使えます。心拍数測定や血中酸素ウェルネスのバックグラウンド動作はオフになり、消費電力が抑えられます。それぞれのアプリを起動して都度計測を行うことは可能です。iPhoneからApple Watchに送られる通知はリアルタイムではなく、1時間に1度の回数まで制限されます。

  • ウォッチのコンスタントなバッテリー消費を極力抑え、Series 8の場合は最大36時間ものバッテリーライフを実現します

従来の「省電力モード」は、時刻表示以外をすべてオフにして端末の電力消費を抑えるものでした。新しい「低電力モード」は、Apple Watchを“いつも通り使える”ところが大きく異なります。週末に泊まりがけでアウトドアキャンプを企画したり、または1泊程度の出張に出かける時は、ウォッチを満充電にしてから低電力モードをオンにすると、ウォッチのバッテリー切れを気にすることなく過ごせると思います。

筆者は今回、さまざまなテストをしながらSeries 8を使わなければならなかったので正確な検証はできていないのですが、「低電力モード」を極力オンにしながら使ってみたところ、ふだん使っているSeries 7よりも格段にバッテリーの持ちは良くなっている手応えがありました。とても頼もしい機能です。

何なら、いつも低電力モードをオンにしておきたくなりますが、ウォッチを80%以上充電すると自動的に通常モードにリセットされるので、再び低電力モードに切り替える必要があります。

とはいえ、Series 8もSeries 7と同様、付属の充電器で高速チャージができるので、慣れてしまえば毎日の充電にさほど手間を取られることはないと思います。

Series 8が使える「日本語キーボード」が便利すぎ

以下は、watchOS 9から実現するApple Watchの新機能です。筆者は、Series 8とUltra、Series 7が使えるソフトウェアによる「日本語キーボード」がとても便利だと思います。

Apple Watchによる日本語での応答は従来、内蔵マイクに向かって話す音声入力を使うほかありませんでした。長文の入力には不向きだし、音声認識がコケてしまうと正しい文言が返せません。

ところが、Series 8とwatchOS 9の組み合わせで使える日本語キーボードでは、フリック入力による正確な日本語タイピングができます。キーボードは若干小さめですが、慣れればスムーズに入力できます。ある程度の長文でも、時間をかければ正確にタイピングできて感動的です。

  • Apple Watch単体で正確な日本語入力ができる!感動の新機能日本語キーボードは、Series 8とUltra、過去モデルではwatchOS 9をインストールしたSeries 7で利用できます

日本語キーボードには、watchOSにプリインされているメールやメッセージのほかに、LINEも対応していました。Facebook Messengerは残念ながら非対応でした。今後、使えるアプリが充実してほしいです。

日本語キーボードは、セルラーモデルのSeries 8と抜群に相性が良さそうです。iPhoneを持たずにふらっと散歩に出かけた時も、メッセージやメールに正確な応答が返せます。これを機に、watchOSにWebブラウザが載っても上手に使いこなせそうな気がしてきました。新機種では、Ultraも日本語キーボードに対応しています。対応するApple Watchを手に入れたら、ぜひこの便利さを実感してください。

watchOS 9は睡眠やワークアウトの進化にも注目

watchOS 9には、ユーザーの睡眠をより詳細にトラッキングし、レム睡眠、コア睡眠、深い睡眠の状態に選り分けながら記録する「睡眠ステージ」の機能が追加されます。

  • 睡眠の履歴がより詳しく分かる「睡眠ステージ」が登場。データを上手に役立てて、睡眠の質を向上できるアプリの登場にも期待です

それぞれのデータを読み、睡眠の質を高めるためのアドバイスがもっと欲しくなりますが、いずれはサードパーティからも睡眠ステージの詳細なデータを活かし、役立つ使い方ができるアプリが充実しそうです。

watchOS 9のワークアウトアプリも大幅に機能が拡張されます。筆者は、仕事の合間に近所をランニングしながら音楽やインターネットラジオを聴くことを心のオアシスにしています。従来のwatchOS 8までは、ランニングの最中にアクティビティリングの進捗を知りたくなったら、いったんワークアウトアプリを閉じる必要がありました。watchOS 9からワークアウトの計測画面から、Digital Crownを回すとアクティビティリングが見られるようになって、とても快適です。

カジュアルにスポーツを楽しむなら、背伸びしてUltraを追わず、Series 8やSEをしっかりと使いこなせば、Apple Watchが「攻めの健康増進」を存分にサポートしてくれると思います。

  • watchOS 9の新しい文字盤はカスタマイズ性も充実しています

44mmのSEにはUltraのバンドも装着できる

今回はSeries 8を一押ししましたが、もちろん第2世代Apple Watch SEの37,800円という価格はとても魅力的です。

大きい44mmケースのApple Watch SEは、Apple Watch Ultraのために開発された耐久性が高く、バックルも簡単に外れない「アルパインループ」「トレイルループ」「オーシャンバンド」が装着できることも覚えておきましょう。別途購入して組み合わせるのも楽しそうです。

  • 44mmケースのApple Watch SEに装着できる、Apple Watch Ultraのために開発された3つの新しいバンドにも注目です